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日銀の次の利上げはいつか~標準シナリオ9月か10月、物価・為替動向次第で6月~(愛宕伸康)

トウシル / 2025年1月29日 8時0分

日銀の次の利上げはいつか~標準シナリオ9月か10月、物価・為替動向次第で6月~(愛宕伸康)

日銀の次の利上げはいつか~標準シナリオ9月か10月、物価・為替動向次第で6月~(愛宕伸康)

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の愛宕 伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
日銀の次の利上げはいつか ~標準シナリオ9月か10月、物価・為替動向次第で6月~

日銀は予想通り1月に利上げ~決定のポイント解説~

 日本銀行は1月23~24日に開催したMPM(金融政策決定会合)で、予想通り政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標)を0.25%引き上げ、0.5%にしました(図表1)。同時に、超過準備に対する付利(補完当座預金制度の適用利率)も0.25%から0.5%に引き上げました。

<図表1 政策金利引き上げとともに付利金利も引き上げ>

政策金利引き上げとともに付利金利も引き上げ
(出所)日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 なお、補完貸付制度を利用する際の金利である基準貸付利率も0.75%に引き上げられました(図表1の2.(2))。この基準貸付利率とは、かつて「公定歩合」と呼んでいたもので、オペ先はいざという時にこの補完貸付制度が利用できるため、その利率である基準貸付利率は、無担保コールレート(オーバーナイト物)の上限を画する役割を担っています。

 一方、超過準備に課された付利は、資金の出し手にとって、コール市場でそれより低いレートで資金を出すくらいなら超過準備に置いておいた方が良いと考える金利水準なので、無担保コールレート(オーバーナイト物)の下限を画することになります(実際には、日銀に当座預金を持たない金融機関も市場に存在するため、下限にならないこともあります)。

 こうした上限と下限を設けて金融政策の対象金利をコントロールするやり方を、コリドー・システムと呼びます。

 また、「貸出増加支援資金供給」についても、予定通り6月末をもって終了するとアナウンスされました(図表2)。

<図表2 声明文にある貸出増加支援資金供給に関する文言と日銀のバランスシート>

声明文にある貸出増加支援資金供給に関する文言と日銀のバランスシート
(出所)日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 この貸出増加支援資金供給(「貸出増加を支援するための資金供給」)は2012年12月に導入された、金融機関の一層の貸出を促すためのオペレーションで、日銀のバランスシートの資産サイドにある「貸付金」108.5兆円のうち、77兆円程度を占めています。

 この貸出増加支援資金供給の残高が、580兆円に上る「国債」と合わせ、負債サイドの当座預金にひもづいているため、国債買い入れの縮小とともにこのオペの残高を減らさなければ、日銀のバランスシートの縮小は進まないことになります。

 言い方を換えれば、貸出増加支援資金供給の終了は、国債買い入れの縮小とともに、着々とバランスシート圧縮を進めようとしている日銀の姿勢の表れと見ることができます。

潜在成長率の下方修正はいったい何を意味するのか

 また、今回、日本銀行が発表した「展望レポート」(「経済・物価情勢の展望(2025年1月)」)の中で地味に注目されたのが、わが国の潜在成長率に対する日銀の見方が下方修正された点です。

 前回10月の展望レポートでは、「わが国の潜在成長率を、一定の手法で推計すると、足もとでは「0%台後半」と計算される」と記述されていましたが、今回はこの「0%台後半」が「0%台半ば」に修正されていました。

 もちろん、あくまで推計結果の話なので、少しくらいの変化をギリギリ詰めても仕方ないわけですが、それでも確かに気にはなります。筋論から言えば、潜在成長率が下振れるとGDP(国内総生産)ギャップは上振れます。マクロ経済の需給バランスであるGDPギャップが上振れれば、インフレ圧力が思っていたより高いことを意味します。

 簡単に試算してみましょう(図表3)。

<図表3 潜在成長率が高い場合のGDPギャップ>

潜在成長率が高い場合のGDPギャップ
(出所)内閣府、日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 図表3の実質GDPは、2023年度までは実績、2024年度以降は展望レポートの見通しで延ばしています。また、潜在GDPは内閣府のGDPギャップと実質GDPから逆算し、2024年度以降は、潜在成長率を0.8%→1.0%→1.0%と仮定して延長しました。この場合、潜在成長率と実質GDP成長率がほとんど変わらないため、GDPギャップはプラスにはなりません。

 これに対し図表4は、潜在成長率を0.5%にしたケースです。この場合、実質GDPの成長率が潜在成長率を上回るため、2025年度からGDPギャップはプラスになります。

<図表4 潜在成長率が低い場合のGDPギャップ>

潜在成長率が低い場合のGDPギャップ
(出所)内閣府、日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 GDPギャップは政府がデフレ脱却を判断するために重視する4指標(消費者物価、GDPデフレーター、GDPギャップ、ユニット・レーバー・コスト)のうちの一つであり、それが依然としてマイナスであることが、デフレ脱却を明言できない原因となっています。

 内閣府の推計する潜在成長率は2024年7~9月期0.5%ですので、単に日銀の言い回しが内閣府に寄っただけと見ることもできますが、うがった見方をすれば、今回の展望レポートの修正は、日銀執行部が物価の上振れリスクを意識していることを示唆しているのかもしれません。

次の利上げはいつか~標準シナリオは9月か10月~

 さて、注目は次の利上げがいつになるかです。政策金利の中立金利(景気に引き締め的でも緩和的でもない金利水準)を1.0%として、2026年前半にその水準に持って行くことが日銀の青写真(big picture)だとすると、残り2回の利上げをどこでするか、になります。

 予測の糸口は、「なぜ今回の利上げが昨年12月ではなく、今年1月だったのか」です。植田和男総裁が指摘した、(1)経済・物価指標が日銀の見通しに沿って(オントラックで)推移しているか、(2)トランプ新政権の政策を巡る不確実性、の2点を考えると、むしろ12月の方がタイミングとしては良かったはずです。

 今年の春闘? そんなに春闘が気になるなら、昨年のマイナス金利解除と同様、集中回答日後の3月MPMで動くべきで、なぜ1月に動いたのか、植田総裁の口から明確かつ説得的な説明はありません。筆者は、唯一考えられる理由として、今年度補正予算の国会審議、来年度予算案の閣議決定があったとみています。

 それが事実とするなら、7月の参院選が終わった後の9月というタイミングが出てくるわけですが、その場合、なぜ9月なのかの説明をどうつけるのかという難しい問題に直面します。昨年12月に予算審議があったからと説明できないのと同じように、参院選が終わったからとは言えないわけですから。

 あり得るとすれば、今年の春闘が強い結果となり、それが賃金に反映され、物価に波及するのが秋ごろと想定されますので、そうした物価動向の強さを踏まえ、「物価安定の目標」2%が実現する確度がさらに高まったと、またどこかの新聞社によるインタビューを使って情報発信するということが考えられます。

 ただ、そんな飛び道具を使うのではなく、支店長会議の情報を踏まえた上で、展望レポートのタイミングに合わせて動くのがコミュニケーション上最もスムーズだと考えるなら、10月29~30日に開催するMPMで利上げするのが自然かもしれません。いずれにせよ、タイミングは植田総裁の判断次第。再び日銀からの情報発信に注目するしかありません。

次の利上げ、物価・為替動向次第で6月に早まる可能性あり

 物価・為替の動向次第で利上げが早まる可能性も考えておく必要があります。図表5は、日本の消費者物価指数(生鮮食品およびエネルギー除く)を財・サービス別に見たものですが、再び足元のプラス幅が拡大しつつあります。

<図表5 日本の消費者物価指数(生鮮食品およびエネルギー除く)>

日本の消費者物価(生鮮食品およびエネルギー除く)
(出所)総務省、楽天証券経済研究所作成

 特に、生活必需品ほど上昇幅が大きく、総務省が作成する「品目の年間購入頻度階級別指数」(図表6)、「基礎的・選択的支出項目別指数」(図表7)を見ると、前者では1カ月に1回程度以上購入する品目指数、後者では基礎的支出項目指数の上昇幅が大きく上振れていることが分かります。

<図表6 品目の年間購入頻度階級別指数>

品目の年間購入頻度階級別指数
(出所)総務省、楽天証券経済研究所作成

<図表7 基礎的・選択的支出項目別指数>

基礎的・選択的支出項目別指数
(注)「基礎的支出項目」とは、支出弾力性(消費支出総額が1%変化したときの変化率)が1%未満の支出項目。
(出所)総務省、楽天証券経済研究所作成

 生活必需品の値上がりは、国民のインフレに対する批判に直結します。こうした物価動向が今後も続くようであれば、参院選を前に、批判的な世論が永田町を通じて日銀に対する風当たりを強め、利上げを促す可能性があります。

 もう一つは為替です。トランプ新政権による政策、特に関税引き上げが米国のインフレを再燃させるかどうかについては予断を持つべきではありませんが、それとは別に、以前からこのレポートでも指摘しているように、景気循環的に見れば今後インフレ圧力が高まる可能性があります。

 図表8は、ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況感指数、生産者物価、消費者物価「財」ですが、ISM製造業景況感指数にはざっくり3年周期の循環があり、これから回復局面に移行するタイミングのように見えます。そうなれば、消費者物価の「財」も上振れることになります。

<図表8 米ISM製造業景況感指数、生産者物価、消費者物価「財」>

米ISM製造業景況感指数、生産者物価、消費者物価「財」
(出所)日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 米国のインフレが再燃すれば長期金利が上振れ、日米金利差拡大から再び円安傾向が強まる可能性があります。仮に、こうした傾向が今年前半に強まれば、国内物価の上振れと円安が重なり、日銀は参院選前の6月にも、利上げに踏み切らざるを得なくなるかもしれません。

 次の利上げは9月か10月か、それとも6月か。今の段階では、当然、日本銀行も決めていないでしょう。我々としても、経済・物価のデータや日銀から発せられる情報を丁寧に精査しながら、徐々に見方を絞っていくしかありません。

(愛宕 伸康)

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