日銀利上げ後、Wイベントでさらに円高に!
トウシル / 2025年1月29日 16時2分
日銀利上げ後、Wイベントでさらに円高に!
日銀の今後の利上げの方針から考えられること-今後の円安の動きは抑制的か
先週23~24日の日本銀行金融政策決定会合では、日銀は予想通り0.25%の利上げを決定し、政策金利である短期金利の誘導目標を0.25%程度から0.50%程度へ引き上げました。0.50%程度となるのは2008年以来、約17年ぶりの水準となります。
そして注目されていた物価見通しは、2024年度を2.5%から2.7%に、2025年度を1.9%から2.4%に、2026年度を1.9%から2.0%に引き上げました。タカ派色のある上方改定だったため、ドル/円は1ドル=156円台前半から154円台後半まで円高に動きました。
しかし、日銀の植田和男総裁は記者会見で、今後の利上げの方針については「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、金融緩和の度合いを調整していく」と述べたものの、利上げのペースや時期は「予断は持っていない」「今回の利上げの影響がどのように出てくるかを確かめつつ、今後の進め方を決めたい」などと発言しました。
市場はこれを、早期利上げ観測をけん制するような内容と捉えたため、ドル/円は円高の後再び円安に動き、1ドル=156円台前半に戻りました。
ただ、植田総裁は政策金利を0.50%に引き上げても、「中立金利に対してはまだ相応の距離がある」と指摘し、利上げのゴールがまだ遠いことを示唆しています。
中立金利とは、景気を熱しも冷ましもしない金利水準のことです。日銀スタッフの分析では「1~2.5%の間に分布している」とのことですが、最低水準の1%でも、0.25%刻みで後2回の利上げが必要ということになります。
政策金利は1995年以降、約30年間0.50%を超えていませんが、植田総裁は「ある水準を壁として意識していることはない」と説明し、さらなる利上げの可能性を示唆しています。
このように日銀の利上げ姿勢は慎重ながらも、壁を意識せず、遠いゴールに向かっていく姿勢は伝わってくることから、今後の円安の動きも抑制的になりそうです。
市場では半年に1回程度の利上げペースとの見方から、次回利上げは6月か7月との観測が多いようですが、春闘の結果次第では、3月や4月の利上げ期待で市場が再び盛り上がるかもしれないというシナリオにも留意しておく必要がありそうです。果たして30年ぶりの未体験ゾーンに入っていくのかどうか注目したいと思います。
今週28~29日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では利下げは見送りで、年内2回の利下げ見通しもペースが遅くなるとの見方が大勢となっています。
しかし、15日に発表された12月CPI(消費者物価指数)が予想を下回ったことや、身構えていたトランプ政策の関税引き上げも肩透かしのような動きとなっていることから、FRB(米連邦準備制度理事会)の「利下げは急がない」姿勢が変化することも予想されます。1月利下げは見送られても、3月利下げ期待が浮上するかもしれません。
CPI鈍化に加え、トランプ政策の関税引き上げによるインフレ再燃懸念も後退し、金利上昇も頭打ちとなっています。そのため、FRBのパウエル議長が記者会見で、今後の金融政策の姿勢にハト派色をにじませるのかどうか、また、トランプ政策による金融政策への影響をどのように捉えているのかに注目です。
トランプ大統領は23日、サウジアラビアとOPEC(石油輸出国機構)に原油価格の引き下げを要請する考えを示しました。ウクライナ侵略を続けるロシアの原油収入を減らす狙いがあるとみられています。そして、トランプ大統領は「原油価格が下がれば、私はすぐに金利を引き下げるよう要求する」と述べ、FRBに利下げを求めていく考えを示唆しました。
このトランプ大統領の利下げ要求に対して、パウエル議長がどのような姿勢を示すのかにも注目したいと思います。圧力に屈しないことを示すために、変にタカ派色を強調しなければよいのですが…。相場がかく乱される恐れもあるため注意が必要です。
円高に動いた二つの出来事-米国の対コロンビア関税引き上げと「DeepSeek」ショック
二つの出来事により、27日のドル/円は円高に動きました。一つ目は、トランプ大統領のコロンビアに対する関税引き上げです。コロンビアが不法移民の強制送還の受け入れを拒否したため、トランプ大統領はコロンビアに対して25%の関税引き上げを決定しました。コロンビアも報復引き上げを示したことから、ドル/円は1ドル=155円台前半へ円高となりました。
関税引き上げは金利高、ドル高シナリオですが、報復合戦になって事態のエスカレートが嫌気され、円高になる動きは今後の相場予想の参考になるため留意したいと思います。
その後、コロンビアが強制送還を受け入れたため、トランプ大統領は関税引き上げを撤回しました。この結果、ドル/円も1ドル=156円台に戻りました。この動きも参考になる動きです。個別国に対する関税引き上げは「ディール(取引)」のための道具であることを印象付ける出来事でした。
単発のディールはトレンドをつくる要因とはならず、一方向の動きに思い込みを入れないことが肝要のようです。
二つ目は、「DeepSeek」ショックです。中国の新興企業DeepSeek(ディープシーク)が発表した人工知能(AI)モデルが従来の欧米IT企業の優位性を崩すとの懸念が広がり、米ハイテク株が大幅安となりました。半導体大手のエヌビディア(NVDA)は17%安となり、時価総額がトヨタ自動車(約46兆円)の約2倍となる約90兆円減少しました。
ドル/円は、ナスダック総合指数の下落と金利低下によって1ドル=153円台後半まで円高となりました。その後、金利低下幅が縮小したことからドル/円も1ドル=155円台に戻していますが、頭の重たい展開が続いています。米株も戻していますが、上値は重たいようです。
ディープシークの開発費は10分の1未満とのことであり、しかも型落ちの半導体を使って低コストで高性能AIモデルが開発されました。エヌビディアをはじめとした従来のビジネスモデルを根底から覆すような話になるのかどうかまだ分かりませんが、要注目材料であるのは間違いありません。投資家も、半導体やAIに絡む投資を大きく見直す可能性があります。
トランプ大統領は27日、低コスト生成AIモデルについて「安価な方法があるのはよいことだ」と評価し、「米国の業界にとって、勝つための競争に集中する必要があるという警鐘となるはずだ」と述べています。トランプ大統領は、米国の優位性が失われるのではないかという市場の不安を払拭するように冷静な反応を示しています。
28日のナスダックもエヌビディアも反発しましたが、今後の株安、金利低下、業績悪化、景気後退までつながる話なのかどうか注目です。
ドル/円のレンジは、15日の米国CPI前の「1ドル=156~159円」から、CPI後は「1ドル=154~157円」に切り下がっていますが、トランプ大統領の就任直後の動きと日米金融政策を乗り越えて、もう一段切り下がるのかどうか注目したいと思います。
(ハッサク)
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