米AI株 DeepSeekでゲームが変わる
トウシル / 2025年1月31日 7時30分
米AI株 DeepSeekでゲームが変わる
今回のサマリー
●中国スタートアップDeepSeekの安価で高性能のAIモデルが、米AIへの脅威として株価が急落
●DeepSeekの実力評価にはまだ情報不足。西側で普及が進む可能性は大きくはなさそう
●それでも、安価なAIモデルの登場は、AIハードの成長計画に見直しを促す可能性
●安価なAIは、AIソフトウエアや、他社製AIユーザーには朗報となり、相場動意にも。
DeepSeekはゲームチェンジャーになる可能性
中国のスタートアップDeepSeek(以下、DS)が公開したAIモデルが、米AI株の脅威になると警戒され、1月27日に主要銘柄が大急落しました。エヌビディア(以下、NVDA)の高技術で高価なチップを軸に、AIインフラが構築され、AIが実装され、ソフトも必要、電力も必要、そこで採算をどう取るか…というAI発展形にとって、安価で高効率なDSモデルはゲームチェンジャーになる可能性があります。
もっとも、DSモデルを評価するには、まだ情報が少なすぎます。DSは、実は米国の対中国輸出規制下で、表に出せないNVDAチップを大量使用しているとか、オープンAIのデータを不正に大量取得したという報道があります。
中国が、米国による高性能AIチップの対中国輸出規制について、意味がないとアピールするために、DSを裏で支援しているという見方もあります。スタートアップ企業が、既存のAIモデル対比で、自らの力量を誇張し、それが独り歩きした可能性も排除できないと、27日時点ではいぶかっていました。
ただ何にしても、従来信じられてきたAI発展モデルの足をすくうリスクとして、こんな形があるのかと、投資家の頭に残り続け、相場形成に影響し続けることは免れないでしょう。
27日の相場は、プレ市場の先物、現物にAI関連の下げが広がるのを見て、恐怖が募り、売りが売りを呼ぶ展開になった面もあります。情報がないだけに、まず売ってから事後対応を考えようというアクションもあったでしょう。そして、情報がないだけに、押し目買い勢も出にくく、過剰な下げ相場になったとも言えます。
相場の一次反応(図1)では、NVDA、AVGO、MRVLなど高度AIチップ銘柄が、価格支配力が揺らぐとの臆測で二桁の下落率になりました。また、バリュエーション無視で上がっていたVSTやCEGなど電力株はさらに大きな下落となりました。
他方、NOW、SNOW、CRMなどAIソフト株は、どこのモデルであれ、AI普及はプラスとして堅調でした。株式相場全体では、他のテックは下落しても控えめで、景気、バリュー系はしっかりと、恐怖の下げ相場はAI領域に限られました。
図1:米主要AI銘柄の相場推移(2025年1月~)
急落時の危機対応
相場の急落に際して、ダメージを被るポジションの保有が限られれば、次はどこでどう買っていくかという前向き目線で値動きを観察するのみです。しかし、ポジションがダメージを被る場合は、気が気ではないでしょう。
こういう場合の選択肢はおよそ以下の四つに大別されます。
- ポジション削減(手持ちのリスク量を減らします)
- ヘッジ(相場下落での損失リスクは減らす一方、相場の上にも下にも両建てでリスクを抱えます)
- ナンピン(押し目買いしてポジションの平均コストを引き下げますが、リスク量は増大します)
- ホールド(ポジションを抱えて様子を見守ります)
いざ、下落相場に巻き込まれてからだと、人の判断力は相当にゆがんだり、損なわれたりするものです。(1)~(4)について、いざという時に備えて、日ごろから具体的に心構えしておくことが、危機対応の基本です。この点は、地震や洪水などの防災対応と似ています。
今後への着眼
今のところ、大手AI企業の幹部や専門家から、DSについての高評価がちらほら聞こえてきます。このため、いつものことながら、メディアやSNSでは、AI相場のバブルがはじけるかの見方も出ています。DSが従来の相場の土台を揺るがすゲームチェンジャーとなる可能性を排除はしません。
しかし、AI革命が戻らざる大本流と考えれば、DS登場で、割高に推移してきた米AI株のバブリーな部分が一部はじけて無くなることはあっても、まずはゲームのステージが変わる可能性として捉えるべきかと考えています。
今回急落した銘柄の今後の浮揚力については変化があるにしても、売られるばかりではないでしょう。危機も奇貨(逃さず利用すべきチャンス)とする目線が相場の基本です。
DSも普及、発展すれば、高度な計算能力を持つNVDAなどの高性能チップを大量に必要とするはずです。中国のDSを、米国を筆頭に西側諸国が大々的に導入することはなく、AIは東西分断して普及発展していくでしょう(高機能で無料もしくは安価なら、個人がスマホにアプリを入れることはあるにしても)。より効率的なAIモデルにバージョンアップしていく場合の電力需要も相当なものになるはずです。
専門家から、DSは「恐るるに足らず」というニュースが早々に出るなら、相場が「な~んだ」とばかりに急回復する目もあります。情報にあいまいさが残るなら、より重い戻り売り圧をこなしながらの相場回復にもなるでしょう。その場合のテクニカルな視座として、今回の下げを過去3~6カ月程度のチャートに位置付け、上値のどの辺りまでが含み損ポジションかをチェックしておくと良いでしょう(図2)。
前段の危機対応(1)~(4)を思案しなければならない立ち位置の人は、鈍感力で割り切る人以外、しばらく落ち着かないかもしれません。他方、ダメージ・ポジションをあまり持たないか、持っていても投資余力を大きく残す人は、相場が下がれば下がるほど、虎視眈々と買い目線でしょう。
心理的に圧迫されがちな危機対応渦中の人は、情勢判断に希望的観測バイアスなど特有のゆがみが生じがちです。ポジションのダメージが無いか少ないか、その分だけ前向き度が高い、そして、信頼に足ると思える人の視座は、復調路を探る助けになるはずです。
図2:米主要AI銘柄の相場推移(2024年10月~)
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(田中泰輔)
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