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有事製造機が金(ゴールド)高値更新を後押し

トウシル / 2025年2月4日 7時30分

有事製造機が金(ゴールド)高値更新を後押し

有事製造機が金(ゴールド)高値更新を後押し

金(ゴールド)相場、歴史的高値更新

 国内外の金(ゴールド)相場が、歴史的高値圏で推移しています。足元、およそ3カ月ぶりに高値を更新したことについて、トランプ氏が関税引き上げを実施して、世界中に不安を振りまいているためだ、という趣旨の解説を目にします。

 この50年間、金(ゴールド)相場は以下のように推移してきました。1970年代後半は「有事の金買い」だけで、1980年代から1990年代は「株と金の逆相関」だけで、ほとんど、値動きを説明することができました。

図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1974年~)

海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1974年~)
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータを基に筆者作成

 では、2010年ごろ以降の、現在に至る長期視点の急騰劇は、どのように説明することができるのでしょうか。有事だけ、株との逆相関だけで説明できる規模の急騰劇ではないことが容易に想像できます。たった一つのテーマで、このような数十年単位の長期の、そして10倍前後に達する急騰劇は起き得ないでしょう。

 筆者が提唱する七つのテーマに当てはめると、以下のようになります。有事ムード(短中期:不安拡大時の資金の逃避先需要増)と代替通貨(同:ドルの代わり)は、どちらかといえば上昇、代替資産(同:株の代わり)は上昇と下落両方、中央銀行(中長期)と見えないジレンマ(超長期)は上昇、となります。

図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2025年2月時点)

金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2025年2月時点)
出所:筆者作成

 三つの時間軸に複数のテーマがあり、各テーマの中に複数の具体的な材料があります。それらの材料は、「同時に」金(ゴールド)相場に上下の圧力をかけています。こう考えることで無理なく、数十年単位で続いている急騰劇の背景を説明できます。トランプ氏の存在が金(ゴールド)相場にとって、いかについ最近の材料であるかも、分かります。

 高値更新という短期的な上昇劇にトランプ氏は深く関わっているものの、長期視点では同氏以外の材料も、考慮する必要があります。とりもなおさず、関税引き上げだけに気を取られてはいけません。(DeepSeekの件も、同様です。目立つ材料を起点に分析を始めてはいけません)

トランプ氏はまるで「有事製造機」

 トランプ氏がもたらす影響を考える上で大変に重要なことは、以前の「トランプ2.0で退場を迫られそうな人の特徴」で述べたとおり、彼がもたらす影響は「悲喜こもごも」だということです。

 しばしば、「人を外見で判断をしてはいけない」という言葉を耳にします。トランプ氏についても同様で、振る舞いが横暴だったり、言動が荒かったりする一方で、特定のグループの人々に過大とも言える期待をもたらすことがあります。

 悲(暗)と喜(明)を世界中に同時に振りまいているトランプ氏は以下のように、金(ゴールド)市場に、上昇圧力と下落圧力を同時にもたらしています。

図:トランプ氏がもたらす金(ゴールド)相場の影響(一例)

トランプ氏がもたらす金(ゴールド)相場の影響(一例)
出所:筆者作成 イラストはPIXTA

 トランプ氏を見た目で判断すると、上昇圧力が目立つように感じてしまいますが、実は同時に、株高やドル高、ウクライナ情勢の改善観測など、金(ゴールド)相場への下落圧力ももたらしています。

 こうした上下の圧力が同時進行しているのが、トランプ2.0下の金(ゴールド)相場だと言えます。あえて「有事」のみを取り出すと、以下のように整理できます。中東リスクと米中リスクの拡大懸念は短中期視点の有事ムードをかき立て、資金の逃避先需要を増加させていると考えられます。

 世界分裂の深化懸念は中長期視点の中央銀行の保有高増加観測を大きくしています。また、米国の民主主義の停滞懸念は超長期視点の見えないジレンマを大きくし、超長期視点の不安を強めたり、高インフレを継続させたりする可能性を高めています。

図:トランプ氏が製造する「有事」が金(ゴールド)相場に与える影響

トランプ氏が製造する「有事」が金(ゴールド)相場に与える影響
出所:筆者作成 イラストはPIXTA

 プロ野球の世界でしばしば、「安打製造機」という言葉が使われます。安打(ヒット)を量産する野球選手を例えた言葉です。日本では2,000本安打を達成すると、この言葉が当てはめられるケースがあります。

 筆者はトランプ氏のことを「有事製造機」だと考えています。同氏は、自分と反対の姿勢を示す相手には獲物を狩る獣のように攻撃的な姿勢をあらわにし、同調する姿勢を示す相手には恐ろしいくらい柔和な姿勢で対応する、硬軟の差が大変に大きい人物です。

 だからこそ、攻撃の対象になった国や組織、人物への厳しい姿勢は、当事国だけでなく周囲を大いに驚かします。これが有事製造機たるゆえんです。

 我々はこれから4年間、ロシア、イラン、ベネズエラなど、従前から米国が強硬な姿勢を示している国々に対するトランプ氏の厳しい姿勢を横目で見ることになるかもしれません。また、先日の大統領就任式の後、トランプ氏が北朝鮮について柔和なもの言いで核兵器の保有を肯定するような姿勢を示したことが、後に重要な意味を持つかもしれません。

 こうした個別の国への対応だけでなく、トランプ氏は足元、幅広い国との貿易において関税を引き上げることを決めたり、多くの国々の努力によって築き上げられた国際組織や枠組みから脱退して分断を深めたりしています。

 就任式を経てますます、「有事製造機」の異名が板についたと言えます。今後もトランプ氏は、世界中にインパクトの大きさや影響を及ぼす時間軸が異なるさまざまな有事を振りまき続け、金(ゴールド)相場を支える可能性があります。

世界分裂が加速して高インフレ長期化へ

 トランプ2.0が始まったことで、急低下する可能性がある指数があります。V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している米国の自由民主主義指数です。

図:米国の自由民主主義指数

米国の自由民主主義指数
出所:V-Dem研究所(スウェーデン)のデータより筆者作成

 法整備、裁判制度、言論の自由など、民主主義に関わる多数の情報を数値化したこの指数は0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。

 東西冷戦のさなか、米国は旧ソ連や旧ソ連と考え方を同じくする国々と明確に異なる自由で民主的な姿勢を強めました。2001年に同時多発テロ発生をきっかけとした混乱によって一時的に低下したものの、その後は反発して0.85近辺に達し、米国が世界屈指の自由で民主的な国であることが示されました。

 しかし、2016年にトランプ氏が米大統領選挙で勝利した後、0.72近辺まで急低下しました。彼の勝利は、民主主義の対局にある分断を利用したものだったといわれています。この急低下は、彼の横暴ぶりが米国の民主主義を大きく傷つけたことを示唆しています。

 そして今、トランプ2.0が始まり、再び同指数が急低下する可能性が高まっています。以下の図のとおり、西側の超大国である米国の民主主義の行き詰まりは、2010年ごろから続く、世界全体の民主主義の停滞、ひいては世界分裂を加速させる可能性があります。

図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景

2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景
出所:筆者作成 イラストはPIXTA

 トランプ氏がもたらす可能性がある民主主義の停滞や世界分裂は、有事ムード拡大だけでなく、長期視点で起きている非西側の資源国による出し渋りを拡大させ、高インフレを長期化させる要因になり得ます。トランプ氏という有事製造機は、巡り巡って、長期視点の金(ゴールド)相場への上昇圧力を拡大させ得る存在だと言えます。

中央銀行の金(ゴールド)保有量は増加へ

 各国の中央銀行は、自国の雇用と物価の安定を実現すべく、政策金利の上げ下げや通貨の流通量の調整、対外的に何かあった場合への備えである外貨準備高の調整などを行っています。そして金(ゴールド)は、中央銀行が保有する外貨準備高の一部でもあります。

 以下は、WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)が実施した中央銀行向けのアンケートで、金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?という質問に寄せられた回答です。

図:金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?(2024年)(複数回答可)

図:金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?
出所:WGCの資料を基に筆者作成

 先進国の中央銀行、新興国の中央銀行はともに、金(ゴールド)を長期的な価値保全の手段、危機時にパフォーマンスを発揮してくれる資産、デフォルトのリスクがない資産などと見なしていることがうかがえます。

 また、新興国の中央銀行の中には、米国などの先進国から「制裁」を科されることを意識し、それがもたらす影響を軽減する手段として金(ゴールド)を見つめている、などの特徴もあります。

 以下の通り、中央銀行全体の金(ゴールド)の買い越し量は、世界分裂が目立ち始めた2010年ごろ以降、高水準を維持しています。

図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン

中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン
出所:WGCの資料を基に筆者作成

 トランプ氏が製造するさまざまな有事が中央銀行たちをさまざまな理由で駆り立て、今後も高水準の買い越しが、継続する可能性があります。2023年の中央銀行の金(ゴールド)の買い越し量は、全需要の2割強に達しました。トランプ氏の動向に関心を寄せる中央銀行の買いが、中長期視点の金(ゴールド)相場を支える要因になり得ます。

「終末時計」も金(ゴールド)高を示唆

 1945年にマンハッタン計画(第2次大戦中の米国の原爆開発・製造計画)に貢献したシカゴ大学の科学者によって作られた米国の科学雑誌「Bulletin of the Atomic Scientists」は、1947年より「人類滅亡の日」までの残り時間を示唆する「終末時計」を公表しています。

 2025年1月に公表された最も新しい「終末時計」は、「人類滅亡の日」の午前0時00分まで残り89秒、今が「前日の23時58分31秒」で、最も人類滅亡の日に近いことを示唆しました。この時計は、核のリスク、気候変動、生物学的脅威、AIなどの強大な技術による大惨事に対する世界の脆弱(ぜいじゃく)性を考慮しているとされています。

図:「人類滅亡」までの残り時間(公表年のみ記載) 単位:分

「人類滅亡」までの残り時間(公表年のみ記載) 単位:分
出所:Bulletin of the Atomic Scientistsのデータを基に筆者作成

 筆者が注目した点は、トランプ氏の一回目の米大統領選の勝利(2016年)以降、一貫して人類滅亡までの時間が短くなっていることです。もちろん、トランプ氏だけが、終末時計が動く要因ではありません。

 しかし、世界の超大国である米国の大統領であること、そして米国第一主義を掲げ、それに対抗する姿勢を示す国に不安(恐怖と言ってもよい)を与える「有事製造機」に例えられる以上、終末時計にも影響を与えている可能性を否定することはできません。

「終末時計」は、先述の米国の自由民主主義指数と同様、トランプ氏がもたらす超長期視点の影響を映し、金(ゴールド)市場の超長期視点のテーマである「見えないリスク」の高まり具合を示していると、言えます。

 本レポートで確認したとおり、トランプ氏は、短中期、中長期、超長期の時間軸で、異なる有事を同時にもたらす存在です。しばしば、株高やドル高など、金(ゴールド)の下落圧力を生み出すこともあるものの、基本的には「有事製造機」として、金(ゴールド)相場に上昇圧力をかけ続けると、言えそうです。

 足元、とかく関税引き上げの件で不安を振りまいていると言われていますが、それは短期視点の不安に過ぎず、それよりももっと時間軸が長い不安(有事)の製造・提供が始まっていることに、留意が必要です。金(ゴールド)相場は長期視点で大変に高い水準にありますが、それでもなお、上昇し得ると筆者は考えています。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入

投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)

関連ETF(NISA対応)

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)

商品先物

国内商品先物
海外商品先物

CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム

(吉田 哲)

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