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トランプ関税に対し中国は「対米報復」発表。米中対立で注目すべき三つのポイント

トウシル / 2025年2月6日 7時30分

トランプ関税に対し中国は「対米報復」発表。米中対立で注目すべき三つのポイント

トランプ関税に対し中国は「対米報復」発表。米中対立で注目すべき三つのポイント

トランプ大統領が中国の輸入品に10%の追加課税を発表

 2025年1月20日にトランプ第2次政権が発足し、トランプ氏が大統領就任初日に26本もの大統領令に署名、スタートダッシュを切っているように見受けられると、2週間前に配信したレポート「大統領就任演説で見せた「トランプ節」。注目の初日に「中国問題」はどう扱われたか」で記述しました。

 その際に、就任初日における中国関連の注目ポイントであった「トランプ氏が公言してきた中国輸入品への10%の追加課税」は実行されなかった一方で、就任翌日のホワイトハウスにおける記者会見では、それを「検討」しているという意思を示した経緯を受けて、今後の展開に注視すべきという問題提起をしました。

 本稿では、その後の展開がどうだったのか、および今後の見通しをどう読むべきなのかについて、私がこの期間行ってきた、中国関連の海外実地調査も踏まえて、解説していきたいと思います。

 2月1日(米東部時間)、トランプ大統領は、不法移民やフェンタニルなどの薬物が米国に流入することを阻止するためという理由・名目で、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す立場を発表。2月4日から課税が開始されています。トランプ氏としては「有言実行」したということなのでしょう。

 トランプ氏が関税を発動した場合、報復措置を取ると首脳レベルで明言していたカナダとメキシコは、トランプ氏が課税の理由として挙げていた、米国への不法移民や薬物の流入を阻止するための対応策として、国境対策の強化を発表。トルドー首相とシェインバウム大統領との電話協議を経て、トランプ大統領は関税発動を1カ月停止する旨を表明しました。

中国政府が少し間を置いて「報復措置」を発表

 トランプ大統領による10%の追加課税発表に対して、中国政府は2月2日(北京時間)、外交部、商務部、公安部がそれぞれ声明を発表し、「強烈な不満」と「断固とした反対」を表明しました。

 その上で、外交部は「貿易戦争、関税戦争に勝者はいない、米国のやり方はWTO(世界貿易機関)の規則に違反し、自らの問題を解決できないだけでなく、米中双方、世界にとっても無益だ」という従来の見解を外交当局の立場から発表しました。

 商務部は「トランプ政権による追加課税という行為をWTOに提訴し、しかるべき措置を取った上で、自らの権利と利益を守る」とし、公安部は「中国は麻薬禁止・撲滅の分野では世界で最も厳格で、その実践も最も徹底している国の一つだ」とそれぞれの立場から主張しました。

「トランプ関税」が中国にとって、「外交、通商、公安」という三つの異なる部署に関わる、省庁間の緊密な連携と協調を要する案件であるという点を物語っています。

 そして、3部門による声明発表から2日という時間を置いて、2月4日(北京時間)、中国政府はトランプ関税発動に対する報復措置を発表しました。

 具体的には、米国からの石炭と液化天然ガス(LNG)に15%、石油と農業用機器に10%の関税を発動すると表明。2月10日から開始されます。

 特筆に値するのは、上記の直接的な報復措置以外に、同日、国家市場監督管理総局が、米グーグル社に対し、独占禁止法違反の疑いで調査を実施すると発表。また同じく同日、商務部が、「対外貿易法」「国家安全法」「反外国制裁法」といった法律に基づき、米PVHグループおよびIllumina, Inc.を「信頼できないエンティティ・リスト」に追加することを決定しました。

 両社は、正常な市場取引の原則に違反し、中国企業との通常の取引を中断し、中国企業に対して差別的措置を講じるなど、中国企業の合法的権益を深刻に損害したと、その理由を説明しています。

 これら3社はいずれも米国企業であり、トランプ関税に対する直接的な報復措置とは必ずしも言えないものの、直接的な影響を受けた現象と理解すべきでしょう。

 さらに同日、商務部と海関総署は、「輸出管理法」「対外貿易法」「税関法」「両用品目輸出管理条例」に基づき、タングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウムの関連品目に対して輸出管理を実施する旨を発表しました。これらはレアメタル(希少金属)と呼ばれる物資。中国国内の輸出者が、これらの関連品目を海外に輸出する場合、輸出管理法および両用品目輸出管理条例に基づき、国務院商務主管部門である商務部に対する申請と許可取得が必要になります。

 言うまでもなく、この輸出管理は、運用プロセスにおいて差別化は生じ得るものの、制度自体としては、特定の国家を対象としているわけではないですから、当然、これらの物資を輸入している日本企業も影響を受けます。私の見方では、中国政府による新たな輸出管理を巡る措置がこのタイミングで発表された事実は、トランプ第2次政権の発足、および中国への追加課税発動と無関係ではなく、中国政府による対米報復に(少なくとも)関連する措置だと言えます。

 要するに、日本の対中経済、ビジネス関係が、米中対立に巻き込まれた一例だということです。この現実は、日本経済にとっても重たい現実であると私は考えています。

「貿易戦争」は再燃するか

 ここからは、今後の展開と見通しについてみていきたいと思います。

 結論から言えば、トランプ大統領の言動を見る限り、情勢は極めて流動的であり、先行きは不確実性に満ちている、というのが私の基本的な見解です。前述したカナダ、メキシコとのやり取りを見ても、米国が関税を発動し、両国が報復措置を取ると発表したと思ったら、首脳間の電話協議を通じて合意に至り、発動が1カ月間延期されました。サプライズとも取れる現象でした。

 トランプ大統領は、近いうちに習近平(シー・ジンピン)国家主席と電話会談をすべく調整を進めていること、トランプ政権として、両国の通商関係を巡る協議が近いうちに行われることなどを記者団に対して明らかにしています。その上で、「中国とのディールを成立することができなければ、関税は極めて大規模なものになるだろう」と語っています。

 要するに、中国側との協議の過程や結果次第では、カナダやメキシコに対して実践したように、中国の輸入品への追加課税を期間限定で停止する可能性もあれば、課税率をさらに拡大する可能性もあるということです。

 発足して2週間ほどしか経っていないトランプ第2次政権の動向を眺めながら、トランプ氏というのはやはり根っからのディーラーであり、日本の政府や企業を含め、その振る舞いや言動に振り回される日々がこれから続く可能性が高いとみるべきでしょう。

今後を見通す三つのポイント

 米中貿易戦争は再燃するのかどうか。今後の展開を見通す上で、私が現時点で考えているポイントを三つ書き下しておこうと思います。

 一つ目が、トランプ氏と習近平氏の会談、および米中当局間の協議がどう転ぶかに注目すべきという点です。中国の報復措置としての対米関税は2月10日に発動されますが、それまでに何らかの妥結に至るかどうかがカギを握るでしょう。

 二つ目が、中国はメキシコやカナダではないという点です。中国は米国が「既存の国際秩序を変更する意図と能力を持った唯一の戦略的競争相手」と認識する国であり、中国もそういう現実を受け入れ、米国と対等な関係を構築すべく動いています。要するに、仮にトランプ陣営の要求や政策が不合理だと判断すれば、習近平陣営は米国側に安易に妥協することはないでしょう。米中間の交渉と協議は、メキシコ、カナダと比べても困難になる可能性が高いとみるべきだと思います。

 私がこの期間議論をしてきた中国政府関係者らの見解を統合すると、中国政府として、トランプ政権との関係を安定的に管理すべく、首脳、閣僚、実務者を含め、使えるチャネルは全て使って米国側との対話や協議を行っていく用意があるというものです。一方、中国政府が制裁対象としているマルコ・ルビオ国務長官を含め、米国側に安易な妥協や軟弱なシグナルを送ることはせず、毅然とした姿勢で米国に向き合っていく態勢を中国側は築いています。

 三つ目が、「貿易戦争」が多分野に波及するシナリオを警戒すべきという点です。フェンタニルの流入を止めるために中国からの輸入品に追加課税を課すと主張しているように、トランプ氏は異なる二つの分野を一つのバスケットに放り込み、ディールを成立させるという手法を好み、実践もしています。要するに、通商という分野が今後、他の分野に波及する可能性は十分にあるということです。

 仮にその「他分野」が台湾問題で、トランプ氏が「中国側がフェンタニル流入問題で協力しないのならば、『一つの中国』政策を放棄する」といった言動に出た場合、地政学情勢を含め、極めて不安定な状況に直面するシナリオが現実味を帯びてくるでしょう。

(加藤 嘉一)

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