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トランプ関税が世界の株式市場にもたらすもの~変化の早さと米中対立~(土信田雅之)

トウシル / 2025年2月7日 8時0分

トランプ関税が世界の株式市場にもたらすもの~変化の早さと米中対立~(土信田雅之)

トランプ関税が世界の株式市場にもたらすもの~変化の早さと米中対立~(土信田雅之)

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
米「トランプ関税」政策がもたらすもの~風向きの変化の早さと米中関係への不安~

 2月相場入りとなった今週の株式市場で、3日(月)の日経平均株価は一時1,000円を超える下げ幅となり、取引時間中には3万8,500円を下回る場面も見せるなど、いきなり波乱含みのスタートとなりました。その後は3万9,000円の株価水準を挟んだ展開が続いています。

 こうした値動きの背景には、トランプ政権による関税政策がにわかに動き出したことが影響しています。つい2週間前の政権発足時には後退していた警戒感が再燃する格好になったほか、先週には、中国企業発の「DeepSeek(ディープシーク)ショック」が市場にインパクトを与えるなど、ここ最近の相場を取り巻く環境は、その変化のスピード感が際立っています。

 このレポートを提出したのは6日(木)の夜ですが、掲載される7日(金)の朝までに状況が一変してもおかしくない状況は、かなりスリリングです。

 あまりにも状況の変化が早いと、心理的に浮足立ってしまいがちですが、今回のレポートでは、いったん冷静になって、ここ2週間の相場の動きを確認しつつ、今回のトランプ関税政策をめぐる動きのポイントなどについて考えていきたいと思います。

ここ2週間で日米中の株価指数はどう動いた?

<図1>日米中の主要株価指数のパフォーマンス(2024年末を100)(2025年2月5日時点)

日米中の主要株価指数のパフォーマンス(2024年末を100)(2025年2月5日時点)
出所:MARKETSPEEDIIおよびBloombergデータを基に作成

 早速、ここ2週間近くの値動きをチェックしていきます。

 上の図1は、昨年末を100とした、日、米、中の株価指数のパフォーマンスを比較したものです。図では、DeepSeekショックとトランプ関税が材料視された、1月27日と2月3日に縦線を描いています。

 まずは日本株です。日経平均は、1月27日と2月3日の両方で下落し、2段階で株価水準を切り下げています。図に記載されている株価指数の中でいちばん下げが目立っていますが、下値は3万8,000円台を維持しており、レンジ相場自体は継続中です。

 また、TOPIX(東証株価指数)については、1月27日に上昇で反応し、1月31日には昨年末比でプラスになる場面もありましたが、日経平均と同様、2月3日に大きく下落しました。

 続いては米国株です。ダウ工業株30種平均(NYダウ)は1月27日に上昇し、2月3日は下落したものの、その後は高値をトライするような動きとなっていて、むしろ堅調に推移している印象です。

 S&P500種指数とナスダック総合指数については、1月27日と2月3日の両方で下落したものの、両者の下落を比べると、2月3日の下値が切り上げっているほか、昨年末比でプラスを維持していることを踏まえると、トランプ関税による下落はDeepSeekショックほどではなかったと言えます。

 そして、最後に中国株を見ていきます。中国株市場は春節の休暇により、本土市場は1月28日から2月4日まで、香港市場は1月29日から31日まで休場となっていました。

 当然ながら、中国AI(人工知能)企業によるDeepSeekショックの影響はなかったのですが、中国株市場で注目されるのは、2月3日以降の値動きで、上海総合指数が下落する一方、香港ハンセン指数が上昇とまちまちの値動きとなっています。

 上海市場がトランプ関税の影響を警戒したのに対し、香港市場は、半導体関連銘柄の中芯国際集成電路製造(SMIC)など、テック企業が買われ、中国株にとってDeepSeekは追い風の材料になっているもようです。5日(水)時点での香港ハンセン指数のパフォーマンスは米S&P500やナスダック総合指数を上回っています。

 以上のように、日、米、中の株価指数のあいだに温度差があり、値動きも荒っぽいものの、突出して下げが加速するようなものはく、全体的には相場の基調に大きな変化はなかったと言えそうです。

「トランプ関税」に対する視点と相場の影響は?

 もっとも、米国株市場の動きにも見られるように、トランプ関税による相場の下落がさほど大きくならなかったのも、最近の風向きが変わるスピード感が要因となっています。

 先週末の1日(土)に、トランプ米大統領が「不法移民や違法薬物によって米国が危機に晒されている」というのを理由に、メキシコやカナダに対して25%、中国には10%の追加関税を賦課する大統領令に署名したことで、不安が一気に高まる格好となりました。

  3日(月)の取引は、こうしたトランプ関税への不安を反映した格好となり、このまま軟調な展開が続くと思いきや、その後、メキシコとカナダに対しては、国境警備や薬物取り締まり強化の方針で米国と協議することが合意され、関税の発動が約1カ月間停止となったことで、不安がひとまず後退し、株式市場は反発していきました。

 とはいえ、先ほどの図1を見ても分かるように、今のところ、株価の反発に勢いが出ているとは言えません。

 また、こうした一連の動きを経て、押さえておきたいポイントも浮かび上がってきたと思われます。

 一つめのポイントは、トランプ政権の関税政策は「あくまでも外交交渉(ディール)における武器の一つ」という捉え方です。

 元々、トランプ政権の関税政策には、(1)不公正貿易の是正、(2)連邦政府の税収の確保、(3)ディールのための武器、という三つのねらいがあるとされていました。

 トランプ米大統領は就任前に、「全ての相手国に一律に関税をかける」という発言があったこともあり、市場がトランプ関税政策に対して特に警戒していたのは(2)でした。

 それが、「関税発動をちらつかせて、すぐさま延期を決める」といった、今回のトランプ政権の動きによって、(3)の「経済への影響も考えると、貿易戦争に発展する可能性は低い」という受け止め方に市場が傾きつつあり、今後のトランプ政権の関税政策の動きに対して、市場に耐性がつく可能性もありそうです。

 しかしながら、トランプ政権の関税政策のねらいがディールということであれば、当然ながら、EU(欧州連合)や日本などが「次のターゲット」に設定されることや、1カ月後に「対応が不十分」として、再びメキシコとカナダに圧力をかけることも想像できますので、株式市場は当面のあいだ、風向きの変化に怯えながら推移することになりそうです。

 そもそも、同盟国に対してのディールは、お互いの信頼感を損なうことになるため、外交面で中長期的に悪影響が出てくることも考えらえます。

やはり台頭してきた米中対立

 そして、もう一つのポイントは、「やっぱり、米中対立が高まるかもしれない」ということです。

 今回の米国の関税措置については、中国への関税が発動されましたが、中国政府も素早く対抗策を打ち出しています。

 中国側の対応をもう少し詳しく見ていくと、来週10日(月)より、エネルギー資源(石炭とLNG)や農業機械など80品目に対して10~15%の報復関税をかけると発表しただけでなく、一部のレアアース(タングステン)などの輸出規制、独占禁止法違反の疑いで米グーグルへの調査を開始、米国の措置に対してWTO(世界貿易機関)に提訴するなど、結構「ガチ」な内容となっており、これに対する米国の再応酬も考えると、今後エスカレートしていく危険性をはらんでいます。

 米中関係については、今回の関税発動の理由となった薬物問題以外にも、台湾問題をはじめ、AIなどの技術開発競争、外交戦略における安全保障など多くの課題を抱えています。

 実際に、トランプ大統領は選挙戦からの公約で60%の対中追加関税を掲げているほか、「中国と合意できなかった場合、関税は非常に高くなるだろう」と発言し、さらなる税率引き上げの可能性を示唆しています。

 もちろん、「米中要人の会談がセッティングされた」「いくつかの点で合意があった」みたいな材料も今後出てくると思われ、警戒と楽観が交互に繰り返されることになりそうですが、気を付けたいのは、米国ではトランプ大統領にとどまらず、米議会も中国に対して強硬なスタンスをとっていることです。

 例えば、中国のMFN(最恵国待遇)を剥奪し、段階的な関税引き上げと少額の中国製品への輸入関税を免除する制度(デミニミス・ルール)を廃止することを定めた超党派の法案が1月23日に提出されたと報じられています。

 そのため、今回の関税騒動が米中対立の本格化へののろしになってしまうかもしれない点には注意しておく必要があります。

(土信田 雅之)

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