1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

バレンタインデーに考えるチョコレート価格高

トウシル / 2025年2月11日 7時30分

バレンタインデーに考えるチョコレート価格高

バレンタインデーに考えるチョコレート価格高

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
バレンタインデーに考えるチョコレート価格高

板チョコ価格1.5倍、コーヒー価格は1.6倍

 チョコレート、ショートケーキ、コーヒー、オレンジジュースなど、わたしたちの生活を彩る食品の小売価格が上昇しています。以下は、総務省「小売物価統計調査」における、関連品目(県庁所在地平均)の騰落率です。2020年1月と2024年12月を比較すると、以下に示した品目の価格は、いずれも上昇したことが分かります。

図:各種食品小売価格(県庁所在地平均)(2020年1月と2024年12月を比較)

図:各種食品小売価格(県庁所在地平均)(2020年1月と2024年12月を比較)
出所:総務省「小売物価統計調査」のデータを基に筆者作成

 価格の上昇率が最も高かった品目は、濃縮還元のオレンジジュース(1,000ml)で、この期間の上昇率は84%に上りました(価格は180円から331円に上昇)。次いで、レギュラーコーヒー(粉、100g)が64%(135円から222円)、そして板チョコレート(100g)が58%(201円から318円)、となりました。

 また、砂糖、果汁入り飲料、オレンジ、ロールケーキ、いちごショートケーキの価格の上昇率が、20%を超えました。

 さまざまなメディアで報じられているとおり、生活を彩り、ほっと一息つかせてくれるこれらの品々の小売価格の上昇について、消費者の間では「さみしい」「小さいサイズでがまんする」などの声が聞かれます。チョコレートの価格上昇を受けて、今年のバレンタインデーは「ほろ苦い」、と表現するメディアもあります。

図:チョコレートの小売価格(県庁所在地平均)単位:円/100グラム

図:チョコレートの小売価格(県庁所在地平均)単位:円/100グラム
出所:総務省「小売物価統計調査」のデータを基に筆者作成

 なぜ、価格が上昇しているのでしょうか、いつまで、価格が高い状態が続くのでしょうか。本レポートでは、チョコレートを中心に、わたしたちの身の回りにある食品における嗜好(しこう)品(ぜいたく品)の価格上昇の背景を確認し、今後の展開を考えます。

小売価格は「川下」、国際価格が「川上」

 以下は、食品の小売価格が決まるまでの流れを示した図です(原材料が海外産の場合)。板チョコレートやショートケーキなどの価格は「小売価格」であり、最も「川下」に位置します。

 小売価格の一つ上流には、流通業者や加工業者、販売店などの間で売買される際の「卸売価格」、その一つ上流には、海運業者や輸入業者、商社などの間で売買される際の「輸入価格」、そしてその一つ上流には、主要な生産地や取引所で決定する、川の流れの最上流に当たる「国際価格」があります。

図:食品の小売価格が決まるまでの流れ(原材料が海外産の場合)

図:食品の小売価格が決まるまでの流れ(原材料が海外産の場合)
出所:筆者作成

 農産物の国際価格だけが、板チョコレートやショートケーキの小売価格を決める要因ではありません。

 加工する際の機械を動かしたり、工場や小売店などで照明や冷暖房を使ったりする際に必要な電力のコストも、食品の小売価格に反映されています。容器や包装に使われるプラスチックや輸送全般に使われる燃料のコストも、反映されています。これらは、天然ガスの輸入価格や原油の国際価格の影響を強く受けています。

 さらには、為替相場が輸入価格を大きく左右する場合もあります。下の図のとおり、カカオ豆の国際価格と日本のカカオ豆の輸入価格の動きを見ると、山と谷の大局的なタイミングは似通っているものの、近年は日本のカカオ豆の輸入価格が国際価格を上回っています。2012年ごろから続く、記録的な円安が要因です。

図:カカオ豆の国際価格と日本のカカオ豆輸入単価(2012年を100として指数化)

図:カカオ豆の国際価格と日本のカカオ豆輸入単価(2012年を100として指数化)
出所:世界銀行および総務省「小売物価統計調査」のデータを基に筆者作成

 しばしば、足元の板チョコレートなどの小売価格の上昇の要因について、主要な生産国での天候不順が発生しているためだ、と説明されているのを目にします。それに加えて、先述の天然ガスやエネルギーの価格動向や、ドル/円の変動もまた、板チョコレートやショートケーキの小売価格を動かしている要因であることを、認識する必要があります。

短期急騰要因と長期底上げ要因が同時進行中

 以下の図は、板チョコレートやショートケーキ、オレンジジュース、コーヒーなどの小売価格の変動に大きな影響を与える、カカオ豆、コーヒー豆(アラビカ種、ロブスタ種)、オレンジ、砂糖、エネルギー(原油・日本の輸入LNG)の価格推移を示しています。(エネルギーについては、1985年1月を100として指数化)

 カカオ豆、コーヒー豆(ロブスタ種、アラビカ種ともに)、オレンジの国際価格が、短期的な「急騰」を演じていることが分かります。そして、わたしたちの身の回りにある食品における嗜好品(ぜいたく品)の価格上昇の要因になり得る銘柄において幅広く、長期的な「底上げ」が起きていることも分かります。

図:食品における嗜好品に関わる国際商品の価格推移

図:食品における嗜好品に関わる国際商品の価格推移
出所:世界銀行のデータを基に筆者作成

 板チョコレートの主要な原材料であるカカオ豆の国際価格は、2022年ごろを起点として大きく上昇しています。これに加えて、2000年代前半から、長期視点の底上げも起きています。

 この長期視点の底上げが起きていなければ、足元の板チョコレートの小売価格上昇の規模は、今ほど大きくなかった可能性があります。このことは、コーヒー関連商品、オレンジジュース、砂糖、ケーキなどの小売価格にも当てはまります。

 以下の図は、食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料をまとめたものです。「主要生産国での天候不順」「投機資金の流入」「主要国での景気回復」などは、2022年ごろを起点とした短期的な急騰の要因です。

 そして、「世界的な人口増加」「ESG起因の価格上昇圧力」「異常気象の頻発」「耕作地を他の用途へ転用」「世界分断起因の出し渋り」「エネルギー価格の高止まり」などは、長期視点の底上げの要因です。

図:食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料(2025年2月時点) 

図:食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料(2025年2月時点) 
出所:筆者作成

主要生産国に生産量減少懸念あり

 以下は、板チョコレートの主要な原材料であるカカオ豆の主要生産国における生産量の推移を示したグラフです。FAO(国連食糧農業機関)の統計によれば、生産量1位はコート ジ ボワール(生産シェア45%)、2位はガーナ(同12%)です。同じ西アフリカに位置するカメルーンは6位(6%)です。

 コート ジ ボワールの生産量は1970年代半ばから増加の一途をたどっています。世界で増大するカカオ豆の需要を支え続けていることが分かります。一方、ガーナとカメルーンは2010年代半ばに頭打ち感が生じ、特にガーナについては減少が目立っています。

 2022年から2023年ごろにかけて、西アフリカ一帯が、天候不順に見舞われました。これを受け、生産量が大きく減少する懸念が浮上しました。実際にガーナとカメルーンの生産量は大きく減少しました。コート ジ ボワールが大きな減少に見舞われなかった一因に、同国の収穫面積が大きく増加したことが挙げられます。

図:カカオ豆の主要生産国における生産量 単位:百万トン

図:カカオ豆の主要生産国における生産量 単位:百万トン
出所:FAO(国連食糧農業機関)のデータを基に筆者作成

 コート ジ ボワールは天候不順に強いように見えますが、実際のところ、以下の図とおり、単位当たりの収穫量(ここでは1ヘクタール当たりの収穫量)を示す単収が、長期視点で低下していることが分かります。

 同国は、収穫面積を拡大させながら生産量を増やしているものの、単収が示す資産効率は低下傾向にあります。設備投資の減少や過去に発生した病害などの影響が、長期化している可能性があります。

 また、ガーナにも懸念があります。ガーナでは違法な金(ゴールド)の採掘が横行し、カカオ豆の収穫地が縮小したり、河川や地下水などの周辺環境が悪化して生育に適した土壌が減少したりしていると、報じられています。

 長期視点で、主要なカカオ豆の生産国は、安定したカカオ豆生産を続けることが難しくなっていると言えます。仮に短期的に天候不順の影響から回復できたとしても、長期視点の単収の低下や鉱物資源の掘削拡大などが重しとなり、生産量が思ったように増えない、減少する、などの傾向が目立つ可能性もあります。

図:カカオ豆の主要生産国における単収 単位:キログラム/ヘクタール

図:カカオ豆の主要生産国における単収 単位:キログラム/ヘクタール
出所:FAO(国連食糧農業機関)のデータを基に筆者作成

トランプ氏もチョコレート高の一因か

 V-Dem研究所(スウェーデン)は、法整備、裁判制度、言論の自由など、民主主義に関わる多数の情報を基に「自由民主主義指数」を公表しています。この指数は0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。

 以下の図は、カカオ豆、コーヒー豆(アラビカ種とロブスタ種の合計)、砂糖(サトウキビ由来とテンサイ由来の合計)、オレンジの生産国上位10カ国(2023年)の、自由民主主義指数(2023年)を示しています。

 10カ国平均で、カカオ豆は0.44、コーヒー豆は0.34、砂糖は0.38、オレンジは0.35と、いずれも中心の0.5を下回る低水準です。同指数が比較的高い、米国やブラジル、オーストラリアといった特定の国を除外すればさらに低くなります。

 同指数が低い国では、法の支配や独立した司法が維持されなくなる、国家間の対外的な枠組みにおけるルールが順守されなくなる、などの動きが目立ち始め、ゆくゆくは自国の利益を第一にする考え方が支配的になる可能性があります。

図:食品における嗜好品の主要生産国と自由民主主義指数(2023年)

図:食品における嗜好品の主要生産国と自由民主主義指数(2023年)
出所:V-Dem研究所およびFAO(国連食糧農業機関)のデータを基に筆者作成

 資源を持っている国が自国優先の姿勢を強めると、資源を出し渋る懸念が大きくなります。出し渋りは、世界全体の需給ひっ迫懸念を強めます。

 また、トランプ政権2期目が始まり、米国の同指数が1期目と同様、急低下する可能性が高まっています。以下の図のとおり、西側の超大国である米国の民主主義の行き詰まりは、2010年ごろから続く世界全体の民主主義の行き詰まり、ひいては世界分裂を加速させる可能性があります。

 その結果、資源国の出し渋りがさらに横行し、原油や金属価格の高止まり、食品価格の高騰が長期化する可能性があります。こうした流れが強まれば、カカオ豆などの主要生産国の自由度・民主度の低下に拍車がかかり、いまにも増して、カカオ豆などの供給減少懸念が強まる可能性があります。

図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景

図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景
出所:筆者作成 イラストはPIXTA

 今年のバレンタインデーを前に、チョコレートの原材料の一つであるカカオ豆などの価格高騰の背景について、確認しました。短期・長期、複数の価格上昇要因が存在する状況は、まだ当面続くと、筆者は考えています。

 本レポートで触れた主要生産国の天候、生産量、単収、トランプ氏の動向のほか、「図:食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料」で述べた投機資金、ESG、異常気象などについても、関心を寄せていきたいと思います。

[参考]コモディティ関連の投資商品例

投資信託(NISA成長投資枠 対象)

SMTAMコモディティ・オープン

海外ETF

インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)

(吉田 哲)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください