会社員であり続けることが最強の資産形成チャネルである理由
トウシル / 2017年6月22日 0時0分
会社員であり続けることが最強の資産形成チャネルである理由
専業トレーダーに憧れる人は多いが、それは実は「仕事」である
投資を初めてチャレンジした人の淡い期待のひとつに「運がよければ仕事を辞めて専業トレーダーになりたい」というものがあります。誰だってそういう夢を持つものですから、希望を抱くこと自体は責めるに及びませんが、いざ実現可能かというとかなり慎重になるべきです。
一見すると会社を辞めたほうが投資に集中できチャンスが高まるような気がします。しかしむしろ「会社員兼投資家」としてのスタイルを続けるほうが資産運用において自由度を得られる可能性もあるからです。
今回は、「なんとなく投資」からのステップアップの先に「専業トレーダー」という選択肢を置く必要はない、という話をしてみます。
会社員という「資産形成手法」はむしろ確実に資産を得る方法のひとつである
私たちは投資だけで生きていくことはできません。なんといっても生活資金の確保を行うことが投資家において重要な問題です。
私たちが生きていくためには、それなりの生活コストがかかります。家賃ないし住宅ローンの支払いを滞らせて、投資資金を入れ込むわけにはいきません。どんなにローコストで暮らしたとしても通信費や水道・ガス・電気代等の費用はゼロにはできませんし、食費や被服費をゼロにすることもできません。
実は「まずは会社員として仕事をして稼ぐ」ということは投資家にとってかなり有利な条件設定です。なぜなら、生活コストを投資で稼がなければいけないというノルマが課されていないからです。
会社員は仕事が不調であっても、給料ゼロということはまずありません。いきなりクビになる可能性も日本では低く、とにかく日中は会社にいて仕事をしておけば、一定の給与を毎月もらうことが期待できます。
専業トレーダーになった人のことを、働きながら投資をする初心者は「自由な時間を得られてうらやましい」と思うかもしれません。しかし彼らは「マーケットが上がろうと下がろうと、横ばいであろうと、自分の好みのトレンドでなかろうと、必ず生活コストを稼がなければいけない」という、いわば営業ノルマを課せられている個人商店のようなものなのです。
専業トレーダーは「専業トレーダーという仕事」だと思うと、憧れというよりはリアリティが出てくるかと思います。
会社員兼投資家となることで得られるメリットは維持したほうがいい
資産運用というのは、初期投入資金(例えば最初に入れた100万円のような資金)の売買だけで行うものではありません。むしろ追加的な資金の投入を継続的に行うことのほうが資産額そのものを増やしていくためには重要です。
そのためには定期的に投資原資の確保を行う必要があります。一番シンプルな方法は、定期的に得られる給与所得の一部を投資原資に振り向けることです。
専業トレーダーになってしまうと、投資資金を増やす選択肢は運用益のみに限られますが、会社員を続けておくと運用益に加えて「貯蓄原資からの入金」という投資元本を増やす選択肢を残すことができます。これもまた、会社員兼投資家の大きな強みです。
仕事で稼いだお金よりコンパクトに生活をすることができれば、その差分は貯金となります。現金(預貯金)の残高を増やすことは保有資金の安全資産のウエートを増やすことになり、リスクコントロールに役立ちます。毎月一定額を投資に振り向け証券口座に入金すれば、これは投資元本の増強になり、投資の選択肢を高めることができます。これに対し、専業トレーダーはとにかく投資の売買でのみ、資産を増やしていかなければならなくなるわけです。
会社員にとって隠れた財産はまだあります。それは「厚生年金」と「退職金(企業年金)」です。
専業トレーダーはおそらく国民年金にのみ加入することになるでしょうが、老後の基礎的収入を考えたとき、会社員のままで厚生年金に加入しておけば、月額16万円程度は期待できるところ、国民年金のみでは月額6.6万円にもなりません。平均的なセカンドライフを20~25年とみた場合、これは2256~2820万円の生涯収入格差を生むということです(会社員であった期間は厚生年金がもらえるため、格差はもう少し縮小する)。公的年金は長生きする限り無条件で支給が継続されますので、生きている限り収入格差は拡大していきます。
会社の退職金制度も無視できません。企業規模にもよりますが、500~1500万円くらいの収入を定年退職時にもらって隠退生活に突入するのと、専業トレーダーになったとき(会社員を辞めたとき)数百万円をもらって終わりになるのと、その差が老後に影響を及ぼします。大企業の場合2000万円オーバーということもしばしばですから、自分の会社のモデル金額くらいは確認して人生の決断を下すべきでしょう。
厚生年金収入と退職金収入の合計をはるかに上回る運用収入を確保する自信がなければ会社員にとどまったほうがいいでしょう。いずれにせよ、会社員として働きつつ、投資を行う「会社員兼投資家」としておくほうが、専業トレーダーになるより有利な投資条件だと考えておくほうがいいのではないでしょうか。
(それでもなお、専業になったほうがメリットがある、という人はその才能を全力でマーケットに注ぎ込めばいいと思います)
会社員兼投資家を続けるためには「投資の負担」を減らすことがカギ
とはいえ、「会社員兼投資家」にもそれなりの工夫が必要です。それは投資に注げるリソースに制限がかかる、ということです。
専業トレーダーになれば24時間すべてを投資に回すことができます。現実には家族との時間や生活もあるでしょうが、会社員兼投資家よりは投資にたくさんの時間を回し、パフォーマンスの向上を目指すことができます。
会社員は平日の9時から5時半までは会社に拘束されますし、残業時間等も加えればより多くの時間を仕事に取られます。家族とのプライベートな時間や家事等の時間を考えれば、一日1時間も投資に割けないはずです。
会社員兼投資家は、投資に対する時間を減らしても、不測の事態に陥らないようなリスクコントロールは意識する必要があります。この点ではレバレッジをかけた投資(信用取引やFX)を避ける選択肢が考えられます。資金の一定割合を現金あるいは個人向け国債等の債券投資に振り向けておくのも有効です。
また、目標とする期待リターンを現実的なものとすることも必要でしょう。月利100%(1カ月で倍にする)のような設定ではなく、年利4%程度を目指すように設定するだけで、売買頻度を大きく下げることが可能になります。小回りが利く分、国の年金運用に少し勝てればよい、というくらいにすればいいと思いますし、むしろ国の年金運用から少し下回っても気にしない、くらいに考えられるとかなり負担は軽減されるはずです。定期的な追加入金を行うほど、運用益依存の目標を下げることもできます。
「会社員兼投資家」というスタイルは、これからの日本人に求められている資産形成のアプローチだと思います。そのメリットを活かして、ぜひより豊かな経済的生活を獲得してほしいと思います。
(山崎 俊輔)
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