「知らなかった」では済まされない・遺言書の基本的知識(その2)
トウシル / 2016年6月3日 0時0分
「知らなかった」では済まされない・遺言書の基本的知識(その2)
今回は、前回に引き続き、遺言書について絶対に知っておかなければならない基本的な知識をお話しします。遺言書と切っても切れない「遺留分」、遺言書と相続税の関連性など、より具体的な内容についてもお伝えしていきます。
遺言書の種類とその特徴
ひと口に遺言書といってもいくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。ここでは、一般的に用いられる「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つを比較検討する形で、どちらの方がより好ましいかを考えてみましょう。
- 自筆証書遺言
特徴: | 自ら作成し、全てを自筆で記載する形の遺言 |
---|---|
長所: | 気軽に作成できる、費用がかからない |
短所: | 法的要件が細かく、それを満たさなければ無効となる恐れがある 紛失や破棄・隠ぺいの恐れもある |
- 公正証書遺言
特徴: | 遺言の内容を公証人に伝え、それを公証人が公正証書という形で作成する形の遺言 |
---|---|
長所: | 無効となる恐れが少ない、紛失や破棄・隠ぺいの恐れがない |
短所: | 作成にそれなりの費用が必要となる |
もし遺言書を作るのであれば、何のために作るのかを今一度よく考えてみてください。自分の財産を誰に渡すのかを自分で決めたい、あるいは相続人どうしの骨肉の争いを避けるようにしたい、といった理由からだと思います。
とするならば、法的な要件が整っていないために無効とされてしまうリスク、紛失・隠ぺい・破棄などにより発見されないリスクがある自筆証書遺言より、無効とされる恐れが少なく、隠ぺい・破棄のリスクもない公正証書遺言を作成しておくべきです。
せっかく遺言書を作るのですから、その遺言書の内容が確実に実行されるようにしておかなければ意味がありません。
「遺留分」と「遺留分減殺請求」とは?
遺言書を作る時、問題になるのが「遺留分」についてです。遺留分とは、法律上最低限これだけは相続できるとする相続財産の割合です。原則は法定相続分の2分の1、相続人が親のみの場合は法定相続分の3分の1です。
例えば相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の遺留分は1/2×1/2=4分の1、子の遺留分はそれぞれ1/4×1/2=8分の1です。
そして、遺留分を侵害している遺言書を相続人が見つけた場合、遺留分を侵害している他の相続人に対して「遺留分減殺請求」をすることができます。これは、法律上の最低保証である遺留分すらも下回る財産しか相続できていない場合、その下回る額を他の相続人に支払ってもらうことです。
なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。そのため、遺留分減殺請求もできません。ですから、兄弟姉妹が相続人となるとき、遺言書にて兄弟姉妹には財産を一切相続させないと遺言書に記しておけば、その通りにすることができます。
遺留分を侵害する遺言書は無効なの?
よく遺言書についての説明で「遺留分を侵害する遺言書は無効」と書かれていることがありますが、遺留分を侵害する遺言書であっても、それ自体が無効になることはありません。
仮に遺留分を侵害する遺言書でも、その内容につき相続人が納得し、遺留分減殺請求をしなければ、遺言書どおりの内容で遺産が分割されることになります。実務上も相続人からの遺留分減殺請求がされないケースは多々あります。遺言書による遺産分割と遺留分減殺請求はあくまでも別物とお考え下さい。
また、法的な効力はないものの、遺留分を侵害する遺言書を書いた際に、「付言事項」として、「〇〇の理由により、遺留分減殺請求はしないでもらいたい」といったようなメッセージを相続人に対して残すことができます。こう書いてあっても遺留分減殺請求をすることはもちろん可能ですが、一定の抑止力としては期待できますので、書かないよりは書いておいた方がよいでしょう。
遺言書と相続税との関係
遺言書を作成するときは、その内容が相続税に与える影響も考えなければなりません。
最も典型的なものが、「小規模宅地等の特例」です。例えば被相続人の自宅であれば、330平方メートルまでの部分につき、評価額が80%減額されるという非常に大きな特典です。しかしながら、この特例を受けるためには詳細な要件があり、相続人のうち誰が被相続人の自宅を相続するかどうかで、特例が使えるかどうか変わってきます。
ですから、遺言書にて、小規模宅地等の特例の対象となりうる被相続人の自宅を、特例が使えない相続人に相続させるという内容を記載した場合、小規模宅地等の特例が使えず、結果として相続税が増えてしまうことになりかねないのです。
また、親心で自分の面倒を最も良くみてくれた子どもに多くの財産を相続させようと思い、遺言書を書いたとします。しかし、その財産が不動産など換金性の低いものばかりだとしたら、財産を相続した子どもが相続税を納めることができなくなってしまうかもしれません。急いで不動産を売って納税資金に充てようとすると、二束三文で売りたたかれることもありますし、銀行から借金をして納税をしなければならなくなるかもしれません。これも、相続人の納税資金のことを深く考えずに遺言書を書いた結果です。
せっかく相続人のことを思って書いたつもりの遺言書が、それにより逆に相続人を相続税で苦しめてしまうのでは元も子もありません。ですから、税理士をはじめとした相続税に詳しい専門家から税務面のアドバイスを受けたうえで、遺言書の内容を決定するようにしてください。
(足立 武志)
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