<ケーススタディ>遺言書を書いておいた方がよい場合とは?(その1)
トウシル / 2016年6月17日 0時0分
<ケーススタディ>遺言書を書いておいた方がよい場合とは?(その1)
第7回、第8回のコラムにて、遺言書の基本的知識やその必要性・重要性についてご説明しました。それらを踏まえ、今回と次回とで「ケーススタディ」として、具体的にどのような方が遺言書を書いておくべきなのか、検討してみたいと思います。
<ケース1>特定の相続人に多く財産を渡したい
遺言書がなく、相続人間で遺産分割協議を行うことになると、程度の差こそあれ、法定相続分に近い形で遺産が分割されることが多いです。
しかし、財産を渡す側の思いとして、例えば「長男は本当に良くしてくれたからできるだけ多くの財産を渡してやりたい」「次男は好き勝手に遊んでばかりで周りに迷惑をかけてばかりだったから財産はあまり渡したくない」などといった気持ちを持たれていることも少なくないでしょう。
そんなとき、遺言書にて、誰にどれだけの財産を渡すかをはっきりと記しておけば、ご自身の希望通りに相続人に財産がわたることになります。ただし、遺留分の問題が残るという点、相続人全員の同意があれば遺言書の内容とは異なる遺産分割協議を行うことができるという点は懸念材料ではあります。でも、何もしなければ遺産分割協議で法定相続分どおりわたってしまう可能性が高いことを考えれば、遺言書を書いておき、ご自身の思いをしっかりと伝えることが重要なのではないでしょうか。
<ケース2>相続人間の仲が悪い
相続が起きた後、遺言書がなければ相続人の間で遺産分割協議が行われることになります。でも、お金にまつわる話のため、もともと仲の良かった相続人の間でも険悪な雰囲気になることが多々あります。となれば、被相続人の生前から相続人間(親と子ども、兄弟間など)で明らかに仲が悪い場合、遺産分割協議という「話し合い」で解決することなど到底期待できないことは明らかです。
自らの残した財産で何年ももめ続けるかもしれないと懸念されるのであれば、遺言書を残しておき、財産を渡す側である自分自身が財産をどのように分割するのかを決めておいてあげることが相続人にとっても大きなメリットとなります。
<ケース3>主な相続財産が自宅しかない
相続人間でもめるケースとして多いのが、現預金や上場株式などの金融資産が少なく、自宅など不動産が相続財産の大部分を占める場合です。金融資産は容易に分割できますが、不動産を簡単に分割することはできません。
そんな中、相続人間で遺産分割協議をしようとすると、自宅を相続する相続人とそれ以外の相続人との間で取得する財産の額が大きく異なってしまいます。
かといって、自宅を共有の形で相続すると、後々トラブルの原因となってしまいます。共有の不動産は、自分1人だけの意思で自由に使ったり処分したりすることができなくなってしまうからです。
そもそも、相続財産は相続が開始した時点で法定相続分に応じた共有になっています。すでに共有になっているものを遺産分割協議で共有にしたところで、何も変わっていないのが実態です。意図せざる不動産の共有は、単に問題の先送りをしているだけで、何の解決策にもなっていないことをぜひ理解してください。
こんなときの解決策として遺言書があります。自宅を相続する相続人を誰か1人だけに決めます。その結果、遺留分を侵害することになるのであれば、被相続人を被保険者、自宅を相続する相続人を受取人とする生命保険に加入しておきます。生命保険金は相続財産にはなりませんから、保険金を受け取った相続人は、その保険金を使って他の相続人へ遺留分相当額のお金を渡すことで遺留分の問題が解決できます。
<ケース4>相続人でない人に遺産をわたしたい
自分が亡くなったら、昔お世話になった方や慈善団体、ふるさとの自治体などに自らの財産を渡したいという方は少なくないでしょう。中には内縁の妻や愛人に自分の財産を渡したいと希望される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、被相続人が亡くなった後、遺産分割協議に参加する権利があるのは、法定相続人のみです。そのため、法定相続人以外の人に遺産を渡したいと思っても、その思いをかなえることはできません。
そこで、遺言書の出番となります。遺言書の中で、「この財産を〇〇へ遺贈する」と記しておけば、法定相続人でなくとも、財産をわたすことが可能です。
確実に遺言書の内容を実行してもらうよう、遺言執行者として専門家を指名する旨を遺言書に合わせて書いておくとなおよいでしょう。
<おしらせ>
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(足立 武志)
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