効果絶大!生前贈与の効果的な活用法と注意点(その2)
トウシル / 2016年8月26日 0時0分
効果絶大!生前贈与の効果的な活用法と注意点(その2)
前回は生前贈与が相続税の節税対策に非常に効果的である点をお話ししました。今回はそれを踏まえ、さらに具体的な活用方法をご紹介したいと思います。
贈与は「お金」以外にどんな財産でも可能
贈与というと、現金や預金を贈与するイメージが強いと思います。しかし、贈与は「お金」だけでなく、どんな財産でも行うことが可能です。株式、債券、投資信託といった金融商品でも、金の延べ棒でも構いません。そして、もちろん不動産を贈与しても全く問題ありません。
土地は評価額が高いから、贈与すると贈与税の額がバカにならない、とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。でもそれは、土地を丸ごと一度に贈与した場合の話です。
土地や建物といった不動産の場合は、丸ごと一度に贈与する必要はなく、「持ち分」という形でその一部を贈与することも可能です。
例えば、5,000万円の相続税評価額の土地のうち、「100分の2」(2%)を贈与することにすれば、その額は5,000万円×2%=100万円となり、基礎控除額の範囲内に抑えることができます。
子だけでなく子の配偶者や孫に対しても贈与を行えば多額の財産を移転できる
贈与といえば、一般的なのは親から子への贈与ですが、もちろん子以外に子の配偶者、孫への贈与も可能です。甥、姪でも結構ですし、近所の子どもに贈与することだって問題ありません。
実際には近所の子どもへ贈与することはないでしょうが、贈与は誰に対して行っても良いのですから、「子」「子の配偶者」「孫」への贈与を毎年実行すれば、非常に大きな額の財産を移転させることが可能です。
例えばAさんには既婚の子が2人いて、子にはそれぞれ孫が2人いるケースを考えてみましょう。Aさんの子2人、子の配偶者2人、孫4人の計8人に対して贈与を行います。
この8人に対して1人当たり500万円の財産(現金でも金融商品でも不動産でも何でも可)を10年間贈与した場合、贈与による財産の移転額は500万円×8人×10年=4億円となります。
生前贈与を毎年続けることで相続税の大幅な節税も可能に
孫が20歳未満と仮定すると、それぞれの1年ごとの贈与税額は下記のようになります。
- 子:48.5万円
- 子の配偶者:53万円
- 孫:53万円
以上より、1年ごとの贈与税額の合計は、48.5×2人+53×2人+53×4人=415万円となります。これを10年続けると、415万円×10=4,150万円です。
もし、Aさんの相続財産が10億円、相続人は子2人としますと、何も対策をしない場合の相続税は3億8,500万円です。一方、年間4,000万円ずつの贈与を10年間実行した場合、Aさんの相続財産は6億円に減っています。この場合の相続税は1億8,920万円です。
両者の差は、3億8,500万円-1億8,920万円=1億9,580万円となり、ここから贈与税額合計4,150万円を差し引いた1億5,430万円の相続税が、10年間で4億円の贈与を行うことで節税できることになります。
相続財産が10億円あるというケースは少ないと思いますが、これより少なくてももちろん節税効果は大いにあります。筆者の感覚では、財産が3億円以下であれば、生前贈与を行うだけで相続税対策は十分だと思います。
贈与を受けた人が贈与税を払うお金がない場合はどうすればよい?
ところで、上のケースでは、受贈者(贈与を受けた側)は毎年48.5万円ないし53万円の贈与税を払う必要があります。しかし、受贈者としては毎年50万円近くの税金を10年間払うことに抵抗のある人も多いでしょうし、そもそも受贈者に贈与税を払うだけの資力がない、というケースも少なくありません。現預金の贈与を受けるならともかく、不動産の持ち分の贈与を受けるような場合は、贈与によりお金が全く入ってこない一方、贈与税を払うだけのお金を工面しなければなりません。
こんなときは、贈与者(贈与をする側)が、贈与税相当の現預金を含めて贈与を行えばよいのです。もし孫に不動産の持ち分を年間500万円贈与するなら、447万円の不動産と53万円の現預金を贈与することで、孫はその53万円を贈与税の納付に使うことができます。
将来資産価値が上昇する可能性が高いものや収益を生むものを優先的に贈与
どの財産を贈与するかを選択する際は、贈与者の財産が将来増加するのをできるだけ避けるようにするのがポイントです。つまり、将来資産価値が上昇する可能性が高いものや、収益を生む資産を優先的に贈与対象とするのが有用です。
例えば、毎年しっかり利益を上げ続けているような好業績の上場株式は、10年後、20年後を考えると株価が大きく上昇している可能性が高くなります。こうした株式を保有し続けると、将来の自身の財産価値が増加し、ひいては相続税も増えてしまいます。そこで、将来株価が上昇しそうな銘柄は早めに贈与して、次世代に移転させることが有効です。
また、賃貸用不動産は、毎年賃貸収入を生み出します。こうした不動産を自身で保有し続けると、毎年の賃貸収入が資産として蓄積し、将来的に相続税の課税対象となる財産が増加してしまいます。こうした賃貸用不動産を贈与しておけば、贈与者は将来の資産増加を抑えることができますし、受贈者は不動産という資産のみならず、将来の賃貸収入をも得られることができるのです。
塩漬けの株はいっそのこと贈与してしまう
長年株式投資を続けている方の中には、株価が高い時に買ったまま売れずに保有し続けている「塩漬け株」をお持ちの方も少なくないと思います。こうした株はいっそのこと贈与してしまうのも1つの方法です。
塩漬け株であっても、贈与すればその分だけ将来の相続財産は減少しますから、相続税節税の効果はもちろんあります。さらに、その株の贈与者の取得価格は受贈者に引き継がれますから、受贈者にとっても節税につながる可能性があります。
例えば、贈与者の取得価格が2,000万円、現在の時価が500万円のB社株式を子に贈与したとします。数年後、子は自らが保有していたC社株式に利益が1,000万円生じているため売却しました。それと同じ年に、B社株式を1,000万円で売却しました。
C社株式は1,000万円の利益ですが、B社株式の取得価格は贈与者のものを引き継ぎますから、B社株式を1,000万円で売却すると2,000万円-1,000万円=1,000万円の損失になります。その結果、C社株式の売却により約203万円の所得税・住民税が生じるところ、B社株式の損失と相殺することにより税額をゼロとすることができるのです。
もちろん、B社株式の株価が贈与後順調に上昇し、B社株式の売却により利益が生じるケースもあるでしょう。この場合は所得税・住民税が課税されることになりますが、手元に残るキャッシュは、B社株式を1,000万円で売却したときより多くなりますからそれはそれで悪いことではありません。
塩漬け株の贈与は、いくつものメリットを享受することができます。贈与者にとっては相続税の節税となる一方、受贈者にとってはその後株価が上昇してもよいですし、上昇しなくても他の株式売却益と相殺することで所得税・住民税の節税ができます。
このように、相続税の節税に効果絶大な生前贈与ですが、実行する上で気をつけておかなければいけない点もいくつかあります。次回はそんな注意点につきご説明したいと思います。
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