効果絶大!生前贈与の効果的な活用法と注意点(その4)
トウシル / 2016年9月23日 0時0分
効果絶大!生前贈与の効果的な活用法と注意点(その4)
前回は生前贈与の注意点のうち、特に気を付けなければならない点をお話ししました。しかし注意点はまだまだあります。生前贈与を効果的に行うために今回ご説明する点も十分気をつけてください。
そして今回は贈与を受ける側の立場としての「心配り」も取り上げてみたいと思います。
贈与者自身の老後の生活に支障のない範囲で贈与を行う
生前贈与は、相続税を減少させるための非常に有効な手段であることはこれまでお話してきたとおりです。ですから、生前贈与を精力的に行えば、その分だけ相続税の節税効果も高まります。
しかし、生前贈与を行いすぎたがために、贈与者自身の保有する現預金など金融資産が少なくなってしまい、老後の生活資金に支障をきたすような事態になってしまうならば本末転倒です。
父親が子に贈与をした財産を返してもらうとしても、すでに贈与は有効に成立していますから、今度は父親が子から贈与を受けたとして贈与税の対象となってしまいます。それでも贈与した財産を返してもらえるならまだよいですが、子がすでに使ってしまっている可能性もあります。そうなれば本当に自らの老後の暮らしが困窮してしまいかねません。
そもそも、本来相続税がほとんどかからないような方は、無理に生前贈与を行う必要はありません。筆者としては、相続税が200万円、300万円といった額であれば生前贈与をはじめ各種相続税対策は不要と考えます。「相続税をゼロにしなければ」と生前贈与に躍起になった結果、ご自身の手許にお金がなくなり、老後生活が立ち行かなくなってしまわないようにしてください。
相続対策についての情報がメディアにあふれる中、本来必要がないのに何となく対策を実行し、後々後悔してしまう方が後を絶ちません。何よりも最初に行うべきは、相続税のシミュレーションにより「自分には相続対策が必要なのかどうか」を知ることです。それには税理士など専門家の客観的なアドバイスが欠かせません。
不動産の贈与は「移転コスト」に注意
贈与の対象となる財産は土地、建物といった不動産でもよく、かつ全体の10分の1とか50分の1といった形で「持ち分」として贈与できるということは以前のコラムでお話ししました。
ただし、不動産の贈与の場合は贈与税だけでなく、別途「移転コスト」もかかる点には注意してください。
「移転コスト」とは、不動産の所有権を移転した際に必要となるコストで、主に登録免許税、不動産取得税があります。その他、登記を依頼する司法書士への報酬も必要となります。
登録免許税は、贈与による所有権移転登記の場合は固定資産税評価額の2%の税率がかかります。相続による所有権移転登記の税率は0.4%ですから、贈与ではその5倍かかることになります。
また、不動産取得税はいくつかの減額措置があるため一概には言えないのですが、現在は原則として住宅(家屋)であれば固定資産税評価額の3%、住宅の敷地であれば固定資産税評価額の1.5%が課税されます。ちなみに相続による取得の場合は不動産取得税はかかりません。
そうすると、例えば固定資産税評価額1,000万円の土地(住宅の敷地)の贈与を受けた場合、登録免許税2%と不動産取得税1.5%(中古住宅の敷地の税額軽減はないものとします)が発生します。これに司法書士への報酬や、贈与税申告に係る税理士報酬などを加えると、50万円前後は移転コストを見込んでおかなければなりません。
受贈者の側に資金負担能力が乏しい場合は、移転コストに見合った現預金も合わせて贈与するなどの工夫が必要です。
特別受益・遺留分に注意
いざ相続が発生して遺産分割協議となったとき、特段もめずに話がまとまればよいのですが、特定の相続人に対して生前に多額の贈与がされていると、他の相続人から「不公平だ」という主張がなされ、協議が紛糾する可能性が高まります。
相続で争いが生じた場合、特定の相続人に対する多額の生前贈与が「特別受益」として扱われてしまいます。特別受益の話はまた別の機会に詳しくお話ししたいと思いますが、ここでは特定の相続人が生前に被相続人から贈与を受けた財産を指すとお考え下さい。
特別受益がある場合、これを相続財産に加算して遺産分割の対象とする必要があり、このことを「特別受益の持戻し」といいます。どんなに昔に行われた生前贈与であっても、要件に該当すれば特別受益として持戻しの対象になります。「相続発生前3年以内の贈与財産」が対象と誤解されている方も多いようですが、これは相続発生前3年以内の贈与財産を「相続税の課税対象」とすることになっているだけです。特別受益の持戻しは民法の規定ですから3年以内になされた生前贈与かどうかは関係ありません。
生前贈与を受けた財産が特別受益とされると、生前贈与を受けた相続人の相続分の計算の際、特別受益の分だけ差し引かれることになります。要は、相続の際の取り分が少なくなってしまうのです。
なお、生前に贈与した財産を特別受益としないよう遺言などにより意思表示すれば、相続分の計算上、特別受益を加算しないことができます。これを「持戻しの免除」といいます。
しかし、遺留分を計算する際は、この「持戻しの免除」は適用されず、特別受益を加算したうえで遺留分が侵害されているかを判定します。
よって、誰か特定の相続人に対して多額の贈与を行う場合、特別受益の持戻しが免除されるように遺言などで意思表示をしておく、そして他の相続人に対する遺留分の侵害とならないように事前によくシミュレーションしておくことが重要です。そして後々もめないために何よりも大事なのは、生前贈与をするときは相続人全員と話し合って、みんなが納得する形で贈与を実行するということです。
「もらう側」ならこんな点に気を配りたい
ここまでの話は贈与者、つまり財産を渡す側の立場からのものです。では、受贈者、つまり財産をもらう側の立場から何か留意すべき点はあるでしょうか。最も重要なのは、贈与者に対する「感謝の気持ち」をしっかり伝えることではないかと筆者は思います。
例えば父親からお金の贈与を受けたとしましょう。もし自分が東京で暮らしていて、父親が遠方の実家に住んでいたなら、お盆や正月には子どもを連れて実家に顔を出します。そして父親に対し、「この間は贈与してくれてありがとう。この子の子育てのために有効に使わせてもらっているよ」などとしっかりと感謝の気持ちを面と向かって伝えるのです。
贈与をする父親の側からすれば、相続税対策として贈与をしているという一面はもちろんあるものの、渡したお金を有意義に使ってもらいたいと思っているはずです。ですから贈与を受けた側は、それに対して感謝の気持ちとともに有効に使っていることを報告すれば父親も「贈与をしてよかった」という気持ちになるでしょう。
そうなれば父親は「また来年も贈与してあげようか」という気持ちになり、お盆と正月に息子や孫に会えることを心待ちにすることでしょう。
本来、贈与というものは相続税を減らすための目的ではなく、「このお金を有意義に使ってもらいたい」という気持ちの表れです。ですから、もらう側もその気持ちに応えてあげることで、より良い親子関係が築けるのではないかと思います。
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