石油減産の現実と相場のギャップ…OPEC総会を考える(2)
トウシル / 2017年11月2日 10時40分
石油減産の現実と相場のギャップ…OPEC総会を考える(2)
原油価格は昨年11月の減産決定後の高値水準まで上昇。減産延長期待で・・・
原油価格は54ドル台まで上昇しています。昨年11月にOPECが減産実施を決定した後にほどなくしてつけた水準です。減産決定以降、一度は下落する展開になりましたが、ようやくこの水準まで上昇してきました。サウジアラビアやロシアなどによる、現在実施している減産をさらに延長する議論が好感されているためです。
今回の減産は今年1月にスタートしました。当初は今年6月までとされていましたが、5月のOPEC総会で来年3月までに延長されました。そして現在、来年12月までに延長するかどうかの議論がなされています。その結論は今月30日に開催が予定されているOPEC総会で出ると見られます。
OPECは、1960年の発足以来、世界の石油の需給バランスの安定化を図るために生産量を増減させてきたことから、市場には“OPECはスウィングプロデューサー(原油価格の安定のため、需給状況に応じて生産を増減させる調整係)”というイメージが醸成されています。減産は需給を引き締め、増産は需給を緩める効果があるため、減産は原油価格の上昇要因、増産は下落要因と映ります。
このため、「OPECが減産する」「減産を延長する」という議論だけで原油価格が上昇することがあります。
しかし、現在実施している減産の“効果”を石油在庫という面で見た場合、必ずしも市場が思い描く需給を引き締める方向に向かっていないと筆者は考えています。
具体的には、減産延長の議論が市場を先導しているものの、その減産が期待されている成果を上げていないことへの議論は置き去りにされていると感じています。そして、「期待外れなものに過大な期待が寄せられている可能性はないか?」と思うのです。
図:WTI原油先物価格 (期近 日足) 単位:ドル/バレル
減産開始後の在庫の減少幅は大きくない
現在の減産の具体的な目標は記録的な水準に積み上がった世界の石油在庫を減少させることですが、減産開始後の在庫の減少幅は大きくありまえせん。
今年5月の総会で、OPECは減産を来年3月まで延長することを決めましたが、その際、世界の石油在庫を過去5年平均まで減少させることを目標とする旨の報道がありました。
ここ数年で記録的な水準に積み上がった先進国(OECD)の石油在庫は、減産が始まった2017年1月から9月にかけて6400万バレル減少しています。
これがここまでの減産が生み出した効果の1つであると言えます。
図:先進国(OECD諸国)の石油在庫 単位:バレル
現時点での過去5年平均である28億バレルを目安とすれば、あと1億8,000万バレル程度の削減が必要であることがわかります。この28億バレルは過去10数年間の高値に位置する水準ですが、“記録的に積み上がった石油在庫の正常化”という意味では最低限、この水準までの削減は必要であると見られます。
消費量を加味した在庫日数は減産前とほぼ変わらず
以下は、OECD石油在庫をOECD諸国の1日あたりの石油の消費量で除した、在庫日数の推移です。先進国の在庫日数は引き続き高止まりしています。
図:先進国(OECD)石油在庫の在庫日数の推移 単位:日
減産開始後も60日を超えたままで、ここ10数年の高水準で推移しています。消費量を加味した在庫日数で見ても、減産開始後、世界の石油のだぶつき感が解消する方向にはまだ向かっていないことがわかります。
在庫量・在庫日数の両面で見ても、このおよそ10カ月にわたる減産期間中に、世界の石油在庫の明確な減少、だぶつき感の解消はほとんど確認されていないということになります。
成果の見えにくい減産の延長。期待と思惑で価格上昇か?
大きな成果が見られていない減産ですが、これを延長する議論の中で上昇しているのが現在の原油相場。これについては、筆者は思惑先行の感が強いと感じています。原油市場の足元の上昇要因と下落要因を分けてみたのが、以下の図です。
図:足元の原油市場の材料
今のところ、少なくとも彼らが目標とする在庫減少の進捗が期待されているほどではない点から、減産が目立った効果を発揮できていない可能性があります。にもかかわらず、その減産が延長されることに大きな期待が寄せられている、という構図であると考えています。
その意味では、現在の原油市場は、思惑と期待によって作られていると思います。
11月30日(木)に開催されるOPEC総会にむけて、さらに関連国の減産延長への期待を高める発言がなされる可能性があり、それに追随して原油価格が上昇する場面があると考えられます。
しかし、相場が冷静さを取り戻し、市場参加者が実態に目を向ける状況になれば下落する展開になると考えています。
(吉田 哲)
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