カシミール問題で露呈、印パ首相「格の違い」 本当に問題を解決したいのはどちらか

東洋経済オンライン / 2019年3月23日 17時0分

カシミール問題に対して、これまでのパキスタン首相とはスタンスがかなり異なるカーン首相(写真:Thomas Peter/Reuters)

カシミールの領有権をめぐってインドとパキスタンがまたもや戦争に突入するのではないかとの懸念が強まっている。印パはともに核保有国だ。

だが、今回はかつての軍事対立と違ってパキスタンが引き金を引いたわけではない。緊張をあおっているのはインドだ。

■カシミールを武装地帯に変えてしまった

事の発端は確かにインド警察隊を狙ったテロだった。2月14日にカシミールのインド支配地域で1人の若者が自爆テロを決行し、警官40人を殺害した。翌日、パキスタンを拠点とするイスラム過激派組織「ジェイシモハメド」が犯行声明を出した。

これに対しインドのモディ政権はジェイシモハメドだけでなく、パキスタンにも報復すると誓った。

だが、この決断は現実を正しく反映したものではない。ジェイシモハメドはパキスタンが拠点ということになってはいるが、実際にはインド支配地域の若者に支持者が多い。自爆テロの実行犯も、そうした若者の1人だった。

理由ははっきりしている。インドのモディ首相が反乱制圧のため25万人もの武装警察をカシミールに送り、同地を世界有数の武装地帯に変えてしまったからだ。インド警察の度を超した武力行使に若者が反発し、過激派組織に走るようになったのである。

だがモディ氏はこうした現実を無視し、パキスタンに非難を浴びせている。今回の対立を政治的な人気取りに利用するつもりなのだ。

近く行われる総選挙でモディ氏率いる与党インド人民党(BJP)の苦戦が予想される中、同氏は有権者の歓心を買おうと躍起になっている。今回の自爆テロを受けてインドでは「パキスタンをたたき潰せ」と叫ぶデモ隊が現れ、これにモディ氏が乗っかった。

インドによる報復は一気にエスカレートした。200%の制裁関税から始まった報復措置は、2月下旬にはパキスタン北部バラコット付近への空爆に発展(インドはジェイシモハメドの訓練拠点を狙ったと主張)。その翌日には印パの戦闘機が空中戦を繰り広げ、撃墜されたインド空軍機のパイロットがパキスタンに拘束された。

■若者から圧倒的支持を得るカーン首相

この間、パキスタンのカーン首相は一貫してテロへの関与を否定し、対話を呼びかけてきた。拘束したパイロットも解放した。実際、同氏はカシミール紛争をあおってきたこれまでの首相とは、かなりタイプの異なる政治家だ。

カーン氏が党首を務めるパキスタン正義運動(PTI)は若者から圧倒的な支持を得ている。平均年齢(中央値)が24歳というパキスタンでは、有権者に占める若者の割合が高く、そうした若い有権者の実に6割がカーン氏のPTIに票を投じた。彼らはカシミール問題には関心はなく、教育、医療、雇用の改善を求めている。

暗殺されたブット元首相のめいで若手文筆家のファティマ・ブット氏は、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、こう書いた。パキスタンでは「長いこと軍事独裁、テロ、政情不安が続いてきた。私と同世代のパキスタン人は主戦論や戦争といったものが許せない」。

カーン氏もこの点は理解しているように見える。同氏はテレビ演説でインド政府に対し「双方が手にしている兵器の性格からして、はたして判断ミスは許されるのか」と問いかけた。

印パはこれまでも衝突を繰り返してきたが、今回はパキスタンが先に和平に踏み出している。選挙を前にした短絡的な計算を脱して緊張を緩和できるかどうかは、モディ首相次第なのだ。

シャヒド・ブルキ:元世界銀行副総裁

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