豪華寝台「瑞風」は沿線住民の意識を変えた 経済効果だけでなく住民同士の交流の機会に

東洋経済オンライン / 2019年6月2日 7時20分

最初はJR西日本から「何か、お礼をしたい」と松江市へ意向が示されたとのことだ。そこから自然発生的に進歩。今はクルーが乗務の合間に宍道町を訪れて、町民との「交流会」がしばしば行われている。

2019年1月29日に開催された交流会では、宍道公民館に運転士、車掌や客室クルーと町の人が集まり、宍道高校生の活動報告や、クルーからの列車の紹介、質疑応答タイム、車内演奏家による演奏などが行われた。その後、クルーは宍道小学校やしんじ幼保園も訪問。同じく子どもたちとの交流を深めている。

「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」のコンセプトとして、地域の観光資源を活性化し、鉄道会社としての実利だけではなく、地域の振興にも資するということが、最初からうたわれている。これは各社の豪華列車(クルーズトレイン)に共通するが、とりわけJR西日本にその傾向が強いことは、観光地ではない宍道町との交流を見て感じるところである。

もちろん、地域にとっても観光資源をアピールし、観光振興を図ることによって、実利を得ることも重要だ。宍道支所の地域振興課も、もちろん行政の当然の方針として、地元の産品の売り込みを図っていきたいとしている。しかし、あからさまに「お金を落としてほしい」という姿勢を見せるだけでは、これまでの、ほかの観光地と何ら変わるところはない。

この町の姿勢は、意図された”仕掛け”としてではなく、ナチュラルに「瑞風」の乗客に宍道町、出雲地方を好きになってほしいというものだ。ある意味、乗客の代表であるクルーとの交流が、それを示している。

そして同時に、町の人々も「瑞風」が大好きだという姿勢を示し、この列車を町の誇りとしている。地域のプロスポーツなどがわかりやすい例かと思うが、お互いがお互いのファンであることが「盛り上がり」につながるものだと思う。

■「列車」ならではの効用

1本の豪華列車が停車するだけで、地域の人々が老若男女関係なく、定期的に駅に集い、楽しむ場が出来上がっている。

宍道駅前には旗振り役はとくにいない。現在の集まりは、あくまで自然発生的なもので、地域に存在する公的私的さまざまな組織がそれに参加している。しかも、列車は決まった日、決まった時刻にやってくる。ダイヤや周遊コースの変更がない限り、「その日限りの、一時的なイベント」には終わらない。公共交通機関でもある、鉄道の効用の1つだろう。

少なくとも宍道町では、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」は「近寄りがたい、自分たちの生活とは関係ない列車であり、乗客たち」では決してない。もちろん、ただの”金づる”とも思っていない。単純なことだが、素直な「ああ、素敵だな」という気持ちが、相手も自らも奮い立たせるものだと、この町では強く感じる。

土屋 武之:鉄道ジャーナリスト

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