「対メキシコ関税」は経済危機の発端ともなる トランプ氏の独断に震撼するアメリカ産業界

東洋経済オンライン / 2019年6月5日 8時10分

だが、対メキシコ関税発動の可能性を発表したことで、USMCA早期批准の希望は消えつつある。関税が発動され、しばらく適用されることとなれば、2020年大統領選前の批准は極めて困難となろう。

(2)アメリカ自動車産業の競争力低下

デトロイト3(フォード、ゼネラルモーターズ、FCA)を代弁するアメリカ自動車政策評議会(AAPC)、アメリカ自動車工業会(AAM)、グローバル・オートメーカーズなどの自動車業界団体は即時に反対を表明した。2018年のメキシコからの財の輸入は3465億ドルで、アメリカの輸入相手国としては中国に次ぐ第2位。2019年第1四半期の対メキシコ貿易総額は1506億ドル(輸出:640億ドル、輸入:866億ドル)に上り、中国を上回る第1位である。

だが、貿易額以上に関税の影響は大きい。25年前に発効したNAFTAによって北米地域の製造業は複雑なサプライチェーンを構築している。中でも自動車産業を支える品目の多くは国境を何度も越える。アメリカ自動車部品工業会(MEMA)によると、自動車の組み立ての過程で一般的に部品は8回ほどアメリカとメキシコの国境を越えるという。そのたびに追加関税が課され、さらに、メキシコ側からの報復関税の対象となれば、コストが累積していく。この点、何度も行き来することはない米中間の貿易とは異なる。

(3)報復関税がエスカレートするおそれ

「哀れなメキシコ。神様からはとても遠いが、アメリカにはとても近い」

筆者がメキシコ人から聞いた言葉だ。ネメシオ・ガルシア・ナランホ元公教育相(任期:1913~1914年)が残した言葉で、多くのメキシコ人の心の底にあるアメリカ観を象徴する表現だという。メキシコとアメリカとの関係には歴史があるが、必ずしも良好ではなかった。1845年にアメリカはテキサスを併合し、翌年から約2年間は米墨戦争が繰り広げられた。だが近年では、特にNAFTA発効によって域内経済が一体化し、国境対策でも協力するなど両国は親密な関係を構築していた。

トランプ大統領による対メキシコ関税の方針発表の翌日、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領はトランプ大統領に書簡を送り、報復措置ではなく外交手段での解決を表明した。6月5日にはマルセロ・エブラルド外相がアメリカのマイク・ポンペオ国務長官とワシントンで会談する見通しだ。メキシコ政府は関税発動阻止へ動くと同時にメキシコ国内の反米感情の高まりを回避しようと必死だ。

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