「対メキシコ関税」は経済危機の発端ともなる トランプ氏の独断に震撼するアメリカ産業界

東洋経済オンライン / 2019年6月5日 8時10分

トランプ大統領の批判とは裏腹に、AMLO政権発足以降のメキシコ政府はグアテマラとの国境の警備強化や中米諸国への不法移民送還などでアメリカに協力してきた。現時点ではAMLO政権は冷静な対応を維持しているが、仮に関税が段階的に引き上げられ、トランプ大統領のメキシコ批判が止まなければ、メキシコ国民の反米感情も深刻化するリスクがある。その場合は、ポピュリストのAMLO大統領は、国民の意を反映して報復関税をはじめアメリカに対し強硬姿勢へと舵を切らざるをえなくなる。

(4)信頼を失うアメリカ通商政策

ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のアダム・ポーゼン所長は、今回の件を「金融市場へのモーニングコール」と呼んでいる。USMCAでメキシコに対しNAFTAの無関税政策を維持することで合意に至った中で、一方的に追加関税を発表するといった行為は、さまざまな国との通商交渉において、アメリカの主張の信憑性を疑わせることになりかねない。ポーゼン所長は、「自分が中国政府高官であれば、わざわざこの政権と協議する必要性はあるだろうかと考える。それがロジカルな反応だろう」と語る。

(5)相互の経済失速と移民増大のおそれ

アメリカ自動車工業会は「関税は顧客に対する増税であり、経済に悪影響を及ぼし、アメリカの雇用減少につながる」と主張している。グローバル・オートメーカーズも同調し、「コスト上昇が即時に何万人ものアメリカ人の雇用を脅威にさらす」と批判的だ。

北米地域に複雑なサプライチェーンを構築している自動車産業は、短期的に部品調達先などを変えることが容易ではない。企業は同じサプライヤーから輸入を継続せざるをえず、関税分のコスト上昇を消費者に転嫁すると予想される。したがって少なくとも短期的にはコストをメキシコ側が負担することは見込めない。

もともとAMLO政権の不安定性と財政赤字懸念などで、メキシコ経済は今後減速していくと予想されていたため、対メキシコ関税の発動がさらなる打撃となることは必至だ。財の輸出の約8割を占める対米輸出の減少と関税に伴う投資の減少はメキシコの失業率を高める。これは皮肉にも、2007年以降減少傾向にあったアメリカへのメキシコ人の移民を再拡大させるリスクがある。

ポーゼンPIIE所長は、「貿易戦争は1998年のアジア通貨危機、2008年の世界金融危機と同様に見落とされ、または過小評価されていたシステミックリスクである」とし、「金融市場もこれにようやく気付き始めている」と指摘する。仮にトランプ政権が緊急事態を理由に追加関税をエスカレートさせ、メキシコも報復し、他国も同様に内政を理由に貿易障壁を高めていく事態に発展すれば、ドミノ倒し的な経済危機の発端になりかねない。 

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