老後資金「2000万円騒動」の本質は何なのか 年金改革先送りは形を変えた「利益誘導策」だ

東洋経済オンライン / 2019年6月15日 7時30分

金融庁の報告書に与野党から激しい批判が浴びせられた(編集部撮影)

95歳まで生きると、公的年金以外に2000万円の資金が必要であるという金融庁の金融審議会の報告書が、政府や与野党から総攻撃を受けている。

閣内や自民党幹部らが「誤解を与える」「国民に不安を抱かせる」などと激しく批判すると、担当閣僚である麻生太郎副総理兼財務相は報告書の受け取りを拒否してしまった。

■金融庁報告書はまっとうな提言だ

しかし、この騒ぎ方は明らかに間違っている。問題の本質は現在の年金制度のままで将来、高齢者は安心して生活できるのかどうかということであり、正直に推計した報告書がけしからんというのは、真実を隠せというに等しい。

そもそも金融庁は年金制度を担当する役所ではない。報告書は、年金だけでは毎月の生活に不足額が生まれるから、一人ひとりが長寿に備えた資産の形成や管理に取り組む必要があることを指摘したうえで、金融機関などはこうした社会的変化に適切に対応するため、「金融商品、金融サービスを提供することが要請されている」と強調している。

力点は、所管する金融業界に対して、高齢化時代に対応した商品開発を求めることに置かれており、金融庁本来の役割を踏まえたまっとうな提言といえる。

ところがその中の2000万円足りなくなるという部分だけが切り取られ、大騒ぎになっている。

理由は単純だ。7月に参院選を控えたこのタイミングで、高齢者を不安に陥れるような話を政府が発信するのでは、与党に不利な材料になるからだ。自民党にとって高齢者は今や最大の票田である。この票が逃げてしまわないよう、幹部総出で必死に火消しに走っている。

しかし、おかしな話である。そもそも公的年金制度は高齢者の生活に必要なお金を100%賄うという設計にはなっていない。ところが自民党の反応を見ていると、政府が何もかもすべて面倒を見るという、できもしないストーリーを国民に信じ込ませたいのだろうかとさえ思えてくる。

急速に進む高齢化社会を前に、年金、医療、介護などの社会保障制度が安定的で維持可能なものになるよう抜本的な制度改革の必要性が言われて久しいが、遅々として進まない。わかってはいるのだが、政府も与野党も積極的に改革に取り組もうとはしない。

その理由は明らかだ。今、政府がとりうる社会保障制度改革は、高齢者の負担を増やすか、政府の提供するサービスを減らす以外の道はない。そんなことをすれば、高齢者のみならず年金生活予備軍の50代後半以降の世代からも反発を買いかねない。ゆえに痛みを伴う改革には触れたくない、あるいはできるだけ遅らせたい。これは形を変えた現代版「利益誘導政策」である。

■バブル崩壊で利益誘導は不可能になった

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