愛煙家の聖地「スナック」に押し寄せる禁煙の波 禁煙化に踏み切ったスナックに聞いてみた

東洋経済オンライン / 2019年8月1日 7時10分

一方、長年喫煙可だったのを禁煙に切り替えた店もある。それが、花街の風情が残る東京・湯島天神下、大通りに面したビルの地下にあるのは、今年で37年目となる老舗店「スナック もしも…」である。

扉を開けると、カウンターと半円型に設置されたテーブル席が広がり、昭和の雰囲気を感じさせる。フロアでは、白いエプロンを身にまとった女性スタッフがお客様の歌に合わせ手拍子をし、楽しく談笑している。まさに、アットホームな雰囲気だ。

ある理由をきっかけに3年前に全面禁煙へと移行。タバコを吸いたい人は、外に出て、階段横に設置された灰皿で吸ってもらっているそうだ。では、禁煙に踏み切った理由は何だったのだろうか。仁子ママに話を聞いた。

「以前は、お客様も心おきなくタバコを吸っていたの。でもここは地下でしょ。

時々、部屋の天井一面にタバコ雲ができるくらい煙が蔓延して、息苦しく感じられることもあって。そんなことが影響してか3年ほど前に、心筋梗塞で倒れてしまった。2度のカテーテル手術を経て退院できたんだけど、いろいろ考えて全面禁煙にしようと決意したの」

そうは言っても、もともとはタバコが吸えていたお店である。全面禁煙に踏み切ったことで、影響はなかったのだろうか。

「多くのお客様は、わたしが身体を壊したことを心配してくれて、『それなら仕方ない』と納得してくれた。ただ、酔ったお客様から『スナックでタバコ吸えないとはどういうことだ、冗談じゃねえ!』と言われたこともあったわ。それでも、『ごめんなさい。嫌だったら帰ってね。これはみなさんにお願いしていることだから』と言うと、大人しくなって結局、お店に居続けてくれるのよ」

■タバコを吸うことが目的ではない

愛煙家にとってタバコを吸えないのはつらいことだが、優しい口調でお願いされると、文句は言えない。そして何より、この店に居続けたいという気持ちの強さが垣間見られた。

「ただね、寒い日に外でタバコを吸っている姿を見ると、申し訳なく思うこともある。マフラーをこちらで用意しておいて、少しでも身体を冷やさない配慮はしてるんだけどね。でも最近は、こちらからお願いしなくても外でタバコを吸ってくれるし、新しいお客様には常連さんが『タバコは外だよ』って教えてくれたりして、私の身体を気遣いつつみんなが協力してくれる」

今回取材した禁煙スナックを訪れる客は、必ずしも“タバコが吸えること”を求めるのではなく、ママやスタッフ、常連とのコミュニケーションや楽しいお酒、そして憩いの場としてのスナックを求めているのではないだろうか。

いま、顧客離れを懸念して、禁煙に踏み切れていないスナックも多い。しかし、常連から愛されている店であれば、たとえ全面禁煙に移行したとしても、売り上げや客足への影響は限定的のようだ。それがママの身体を考えてのことなら、なおさらである。

いま日本では、社会全体として、タバコとの向き合い方を変えようとしている。しかもそれは、日本だけでなく、世界的な潮流でもあるのだ。

スナックにおいても、多種多様なスナックが増えつつあり、今後、禁煙であることを求めてくる客も増えていくであろう。全面禁煙に踏み切ることで、ともに健康に配慮しながら楽しめる店が増えていくのではないだろうか。

五十嵐 真由子:スナック探訪家、PRプランナー

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