父を看とった59歳官僚が語る「看取り」の可能性 "多死社会"を前向きなものとしてとらえ直す

東洋経済オンライン / 2019年9月4日 7時40分

間もなく公開される映画『みとりし』でも伝えられる、「看取り」とその可能性とは?

人はいつか老いて病んで死ぬ。その当たり前のことを私たちは家庭の日常から切り離し、親の老いによる病気や死を、病院に長い間任せきりにしてきた。結果、死はいつの間にか「冷たくて怖いもの」になり、親が死ぬと、どう受け止めればいいのかがわからず、喪失感に長く苦しむ人もいる。

一方で悲しいけれど老いた親に触れ、抱きしめ、思い出を共有して「温かい死」を迎える家族もいる。それを支えるのが「看取り士」だ。

今年9月中旬、看取り士を主人公にした映画が公開される。白羽弥仁監督の「みとりし」(榎木孝明主演)だ。今回は、その映画に関心を寄せる、経済産業省のキャリア官僚に焦点を当てる。

彼自身の幸せな看取り体験と、年間約150万人が亡くなる2025年問題を踏まえ、多死社会を活性化する「看取り」新市場の可能性を指摘した、彼の著書についても紹介する。

■「お前が息子でよかった」と言われた経産省官僚

「映画の中で、息子さんが父親に『父さんの息子でよかった』と伝える場面があったじゃないですか。あの場面はグッときました。私の場合は逆で、父から『お前が息子でよかった』と、言ってもらえたんですけどね」

経済産業省の政策シンクタンク、経済産業研究所の藤和彦上席研究員(59)は、試写会を見終わった直後に笑顔で語った。

衆議院第一議員会館地下で行われた、映画『みとりし』への感想だった。藤が言及したのは、映画の中で、最期が近づく父親に息子がかけた言葉だ。

映画自体は、榎木が演じる男性会社員が、がんの告知を受けたのをきっかけに看取り士に転身し、家族が涙と温もりのある死を迎えられるように尽力する物語。原案は、柴田久美子・日本看取り士会会長が担当した。

私が藤と会うのは、試写会が2回目。その3週間ほど前、彼の職場を訪ね、父親を温かく看取った体験を聞いていた。

2018年12月に父の訃報を受けた藤は、東京から家族を連れて名古屋市内の実家に向かった。藤の家族は、実家で父親を看取る選択をしていた。藤が、父親から「お前が息子でよかった」と言われたのはその約一カ月前。

「あの経験を経て迎えた、父の最期でした。実家に着いて、柴田さんの本に書かれた作法を真似て父親を抱きしめたら、背中はまだ温かかったです。私の子供たちにも抱いてもらいました。いい親孝行ができたと思います」

藤は満足そうに語った。母親が隣でふと昼寝をした隙に、父親は静かに逝ったらしい。

「少しも取り乱すことなく、従容として逝った父の最期を知り、『すごいな』と思うと同時に、自分も子供たちにこんなふうに看取ってもらえるなら、死は全然怖くないと思いました」

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