不動産会社vs.テナント、「立ち退き料」の経済学 大規模な再開発の陰で立ち退き訴訟が増加中

東洋経済オンライン / 2019年11月22日 7時10分

昨年9月に開業した渋谷ストリーム。ビルの華々しさは、泥くさい立ち退き交渉のうえに成り立っていた(記者撮影)

渋谷駅南口すぐの場所に立つ、真新しいガラス張りの高層ビル。昨年9月に開業した「渋谷ストリーム」はレストランやホテル、イベントホールなどを構えにぎにぎしい。オフィスフロアにアメリカのグーグルが入居することを受け、ビル上層部に「Google」のロゴが張り出されるなど、話題は尽きない。

「シブヤ」を体現するような、開放的できらびやかなビル。だがその開発過程においては、立ち退きをめぐって計12件もの訴訟が繰り広げられていたことは、あまり知られていない。

■渋谷をめぐる立ち退き戦争

ビルが立つ場所にはかつて東急東横線線渋谷駅の高架があり、その周辺には小規模な雑居ビルが密集し、昼間でもどこか薄暗い場所だった。東横線渋谷駅の地下化に伴って広大な空き地が生まれることを契機に、東京急行電鉄(現・東急)は周辺の中小ビルを巻き込んだ一体的な開発を企図した。

再開発計画は2013年6月に東京都によって策定されたが、東急はそれ以前から周辺のビルオーナーより再開発事業への協力を取り付けていく。オーナーは再開発に対しておおむね好意的であり、地権者間の合意形成は順調に進んでいった。

ところが、ビルに入居する一部のテナントが、再開発に強硬に反対した。渋谷駅至近でありながら賃料が割安に抑えられていた希少性の高い立地を手放すことを惜しみ、移転に伴う補償金額が不十分だとして、契約期間を過ぎても頑として退去しない。はたして交渉は破談に終わり、決着は法廷の場へと持ち込まれた。冒頭の12件の訴訟とは、この「立ち退き」をめぐるものである。

こうした争いは東急に限らない。目下首都圏のあちこちでつち音が響くが、その開発過程を調べると、立ち退きをめぐって不動産会社とテナントが争った痕跡が随所に見られる。「この数年で、不動産会社などから『立ち退き料を算定してくれ』という依頼が増えた」(都内の不動産鑑定士)。

建物への入退去を規定する借地借家法によれば、定期借家契約を除いて、テナントが契約更新を希望する限り原則としてビルオーナーは申し出を断ることができない。

それでも、再開発などの理由でテナントとの契約を更新せず立ち退きを求められるのは、「建物の現況をふまえて、建て替えによって高層化し経済性が高まるなど、テナントに移転を強いることになってもなお建て替えが合理的だと認められる場合に限られる」(不動産業に詳しい野田総合法律事務所の野田謙二弁護士)。そのうえで、テナントに強いられる移転費用や休業期間の機会損失を補償するために立ち退き料を支払う。

■立ち退き料が曲者

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