欧州高速鉄道の「覇者の座」狙うイタリアの野望 フランス、英国の次はスペインに参入表明

東洋経済オンライン / 2019年12月4日 8時0分

トレニタリア(Trenitalia)のフラッグシップETR400型。欧州各国の電化方式に対応し、欧州標準信号も搭載する万能な高速列車だ。スペインへの投入も発表されている(筆者撮影)

ヨーロッパを代表する高速列車というと、フランスのTGVやドイツのICEを思い浮かべる人が多いと思うが、全ヨーロッパを制する真の覇者となるのは、別の国かもしれない――。

イタリア鉄道(FS Italiane)は11月27日、旅客列車運行子会社のトレニタリアと、スペインの航空会社エア・ノストラムの2社による合弁企業、ILSAコンソーシアムによって、スペイン国内の高速鉄道市場へ参入することを正式に発表した。

ILSAはすでに、スペイン国内の鉄道インフラを統括するADIFから、同国初の民間オペレーターとして認可を受けており、商用サービスの開始は2022年1月からを予定している。当初の契約期間は10年間。運行区間はマドリードを起点にバルセロナ、ヴァレンシア、アリカンテ、マラガ、セヴィリアへの5路線が設定されている。同社の参入で、スペイン鉄道(Renfe、レンフェ)の高速列車AVEに強力なライバルが誕生することになる。

■英仏進出はすでに決定

イタリア鉄道CEO兼ゼネラルマネジャーのジャンフランコ・バッティスティ氏は会見で、「このプロジェクトは、FSグループがイベリア半島の高速鉄道市場へ参入することを示している。今後10年間、スペインで約3億5000万人の乗客がイタリアの列車を利用することになるだろう。競争市場のヨーロッパにおいて、唯一のノウハウを提供できることを誇りに思っている」と高らかに宣言した。

近年、イタリア鉄道は他国への事業展開を積極的に進めている。

すでにフランス国内の高速鉄道市場へ参入することが決定済みで、イタリア鉄道の高速列車「フレッチャロッサ・ミッレ(ETR400型)」がフランス国内で試運転を開始しており、順調に進めば2020年からの営業運転開始を予定している。

さらに、トレニタリアの100%子会社であるトレニタリアUKは、英ファースト社と共同で英国の西海岸本線フランチャイズへの入札を行った結果、2019年12月からの運行権獲得に成功した。

西海岸本線フランチャイズは英国第2の高速新線であるHS2の運行権も含んでおり、入札にあたっては高速鉄道の運行およびインフラに関するノウハウを持つ企業であることが条件となっていた。

入札にはトレニタリアUK・ファーストのほか、1997年以来20年以上にわたって西海岸本線のフランチャイズを守ってきたヴァージントレインズがフランス国鉄(SNCF)を引き入れて参加。香港のMTRもレンフェと手を組んで応札した。

最終的に候補者はこの3社に絞られたが、2019年8月に英国運輸省が発表したのは、トレニタリア・ファーストの名前だった。当面は2031年まで12年間の契約となっており、その後は延長もしくは再入札を行うとしている。

■国内では苦い経験も

まさにヨーロッパ内の高速列車市場を席巻しているイタリア鉄道だが、同社には過去に苦い経験がある。

2012年、イタリア国内の高速列車運行に民間のNTV社が参入、イタリア鉄道は熾烈な顧客獲得競争にさらされることとなった。NTV社の「イタロ」は、利用客のニーズに合わせた低廉な価格設定と4段階に分けられたクラス設定、内装には高級家具メーカー「ポルトローナ・フラウ」製の座席を使うといったこだわりなど、当時のイタリア鉄道にはなかったサービスを売りにして、大きな注目を集めた。

だが何より、この会社の設立メンバーの中に、イタリア人で知らない人はいないだろうという有名人、ルカ・ディ・モンテゼモロ氏の名前があったことが、よりイタロへの注目が増す結果へとつながった。

ルカ・ディ・モンテゼモロ氏はイタリアで最も成功を収めた実業家の一人で、中でもかの有名なフェラーリの会長を務めたことが、その名を世界に広めた。こうした話にマスコミは弱く、早とちりをしたメディアは「フェラーリ特急」などと称してイタロの運行開始を報道、さもフェラーリが鉄道を運行しているかのような内容が紙面をにぎわした。

実際にはフェラーリとの資本関係はまったくないものの、世間にはフェラーリの特急列車という強烈なイメージが植え付けられた。ブランドイメージとしては、十分すぎるほどのインパクトがあったといえるだろう。

■イタリアvsフランスの「代理戦争」

だが、イタリア鉄道にとって面白くなかったのは話題性ではなかった。イタロを運行するNTV社の株主の中にSNCFの名前があったのだ。さらに、イタロに使用されている車両も、フランスTGVのメーカーとして有名なアルストムの最新型車両AGVである。言い換えれば、イタリアとフランスの代理戦争のような状況となったのだ。

イタリア鉄道が次世代の新型高速列車として、地元アンサルドブレダ(現・日立レールS.p.A)が製造するETR400型を選んだことは、決して偶然ではないはずだ。

フランス陣営の侵攻を許したことをイタリアがずっと根に持っていたかどうかはさておき、逆にフランスへ参入するという話はイタロがデビューした2012年頃から存在した。その後進展している様子は見られなかったものの、実際には水面下で着々と準備を進めていたのだった。そしてこのたび、満を持してフランスへ進出することを正式に発表した。

だが、イタリア鉄道が攻勢を緩めることはなかった。侵攻は、ピレネー山脈の向こう側にまで及んだのだ。

イタリア鉄道は、フランスでの運行に先立ち、日立のイタリア現地法人である日立レールS.p.Aへ、フレッチャロッサ・ミッレETR400型を14編成追加発注したと述べた。スペイン進出にあたっての車両も、同じETR400型を23編成新造すると発表している。

ETR400型車両は、EUの定めるTSI(相互運用性の技術仕様)に準拠、ヨーロッパで使用される4つの電化方式すべてに対応し、欧州標準信号ERTMS/ETCS Level2を搭載、最高速度360kmでの営業運転が可能な設計となっており、すでに350kmでの営業運転は認可されている(現在は300kmで営業中)。

つまり電化区間であれば、どこでもすぐに営業運転が可能な万能車両で、今後も追加で製造される可能性が高い。

■車両の製造は間に合う?

問題は、フランス向け14編成に加えて、追加の23編成を2022年の初頭までに準備できるか、という点だ。

ETR400型は、基礎部分にボンバルディアのゼフィーロ・プラットフォームを用い、車体デザインを含む製造の大部分を日立レールが担っている。

ただ、日立レールのイタリア国内工場に、フランス向けを含む計37編成296両を約1年で生産するだけの余力があるかどうかだ。場合によってはイタリア向け車両を製造していた当時と同様、同国北部リグーリア州にあるボンバルディアのヴァド・リグーレ工場へ、一部製造分担を依頼する可能性も考えられる。

いずれにせよ、少なくとも向こう1年は日立レールにとって、不眠不休でフル稼働の日が続くことになるかもしれない。

橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング