安倍首相「忖度しないコロナ」には無力だった 未知のウイルスを前にどんな手腕を発揮したか

東洋経済オンライン / 2020年9月2日 14時55分

庶民感覚とは遊離していた安倍首相はコロナで信を失った(写真:代表撮影、ロイター)

7年8カ月に及ぶ在任期間を「攻め」の姿勢で駆け抜けてきた安倍晋三首相。だが、こと未知のウイルスには通用しなかった。数々の難局に対して批判に正面から答えず、国会での答弁拒否や文書改ざんで乗り切ってきた政権だが、ウイルスには無力だったといえる。健康の問題を理由に退陣することについては気の毒に思う。だが、政策の評価に同情を差し挟めば、次につながる教訓を見失う。

安倍政権は、同盟国のための武力行使を可能にする集団的自衛権という憲法の根幹を問う安全保障関連法の成立を強行した。そのほかにも、秘密を漏らした公務員を罰する特定秘密保護法、組織犯罪を準備したとみなされれば罪に問われるいわゆる共謀罪など、平和や人権に大きな変化をもたらしかねない法律を次々と成立させた。

野党や国民から批判の声が上がっても、正面から答えない詭弁を弄して、数の力で政権を維持してきた。「戦後レジームからの脱却」を掲げた、いわば安倍流の「攻め」の姿勢だ。

強硬な「攻め」を担保する「地ならし」にも余念がなかった。元防衛相の石破茂氏、元総務相の野田聖子氏、東京都知事の小池百合子氏といった、自分の地位を脅かしそうな政治家を遠ざけ、苦言を呈する議員には選挙区に刺客を送り込んで落選させた。

■官僚が官邸に抵抗しにくいシステムを築いた

ターゲットは官僚にも向けられる。中央省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」を発足させ、人事を官僚主導から政治主導に変えた。官僚が官邸に抵抗しにくいシステムを築き上げたのだ。首相の周囲は、経済産業省など経済活動を推進させる立場の役人が補佐官として張り付き、経済優先の路線をひた走る。

仕上げはメディアへの圧力だ。気に入らない報道には抗議するなどのほか、批判的なテレビ局には出演しない。首相の会見でも事前に質問を通告するよう求めるなど、制約が課せられた。やがてメディア側にも、官邸の意向を斟酌(しんしゃく)しなければ仕事がやりにくいという空気が育まれていった。これで忖度政治の完成だ。次第に批判は封じ込められ、政治は民意とはかけ離れたものになっていく。

首相の在任中、守勢に回ったのが「もりかけ問題」や「桜を見る会」だ。野党の追及も決定打を欠いた点も否めないが、首相は正面から追及に答えようとせず、逆に公文書の改ざんや廃棄などで難局を生きながらえてきた。庶民感覚を見失った宰相には、9億5600万円の国有地を1億3400万円で払い下げることの不自然さと、それに不公平感を覚える庶民感覚を理解できなかったのかもしれない。そのことによって近畿財務局の職員が自殺したことを、首相は自分の責任だと考えたのだろうか。

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