小田原の路面電車「64年ぶり里帰り」実現するか 長崎に移籍の車両、クラウドファンディングで

東洋経済オンライン / 2020年9月4日 7時20分

この点、202号車の保存事業もSDGsと親和性がある。90年以上の長きにわたり現役で活躍した車両は、日本の物づくり品質の高さと物を大事に扱う伝統を示す好例であり、子どもたちに小田原の歴史を伝える遺産となる。

■LRTの布石にも?

さらに、202号車の保存は、単に歴史モニュメントの保存という意味を超え、SDGsを市政運営の方針にかかげる小田原市の将来に向けた布石となる可能性もある。

具体的には、「地元の自然エネルギー事業者と連携したLRT(ライトレール)の敷設など、今後、小田原の二次交通整備に向けた計画が浮上すれば、そのシンボルとして202号車を活用することも考えられる」(保存会関係者)という。

つまり、202号車そのものを再び小田原で走らせることは難しいが、「LRTという省エネ性・環境性に優れた新たな形で路面電車が復活する様子を202号車に見守らせることで、路面電車という同じ軸で、小田原の過去から未来をつないでいく」(保存会関係者)という壮大な思いがプロジェクトに込められており、こうした理念があってこそ、今回のプロジェクトを進める意義が増すというのだ。

「こうした我々の思いをきちんとご説明申し上げたので、草山氏は設置をご了承くださった」と、保存会関係者は話す。

設置場所の確保に次いで、大きな課題となったのが、移設・保存に関わる莫大な事業費だ。概算で見積もると、輸送費の750万円を筆頭に、当面の費用として、総額で約1000万円が必要となることがわかった。

しかし、現在はコロナ禍により地元の商工業者の経営状況は厳しく、大口の協賛は期待できない。そこで、協賛金を小口化して募るとともに、クラウドファンディング(9月25日期限)を立ち上げることにした。内訳としては、保存会自己資金300万円、企業協賛募集200万円、残りの500万円をクラウドファンディングで調達することになる。

「長崎電気軌道には、クラウドファンディングの結果が出るまで、契約を保留してもらっている。クラウドファンディングが失敗すると、振り出しに戻ってしまう。全国の鉄道ファンの皆さんや小田原ゆかりの方々に、ぜひ、ご協力をお願いしたい」と、平井氏は支援を呼びかける。

■「里帰り」未来にどう生かす

なお、資金調達が成功したならば、来年1月上旬を目標に、車両の移送・搬入を完了させる予定だが、その後も気を抜くことはできない。全国の保存車両の多くが、腐食が進んでいる状況を見れば、鉄道車両を保存・維持するのが容易でないことは一目瞭然だ。

紫外線に加え、小田原は海に近いことから塩害の影響も懸念され、紫外線カット塗料やさび止め剤などにかかる費用も少なからず発生する。また、清掃・メンテナンスの人手も確保しなければならない。

「メンテナンスに最善を尽くすのはもちろんだが、仮に車両の劣化が進んだ場合は、当然、われわれの責任で撤去することになる。その意味でも、保存場所の契約は10年を1区切りにする予定になっている」(保存会関係者)

里帰りが実現することを筆者も願ってやまないが、里帰りを果たした車両を小田原の未来へどのように生かしていくか、真の戦いはこれからになりそうだ。

森川 天喜:作家・フリージャーナリスト

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング