自殺した28歳ボクサーの父が精神病院と闘う訳 早期退院→病状深刻なのに再入院認めなかった

東洋経済オンライン / 2020年11月20日 9時30分

笑顔の通隆さんの写真と、位牌に手を合わせる父親。人に気を遣うタイプで、多くの友達に囲まれていた(記者撮影)

精神疾患により医療機関にかかっている患者数は日本中で400万人を超えている。そして精神病床への入院患者数は約28万人、精神病床は約34万床あり、世界の5分の1を占めるとされる(数字は2017年時点)。人口当たりで見ても世界でダントツに多いことを背景として、現場では長期入院や身体拘束など人権上の問題が山積している。日本の精神医療の抱える現実をレポートする連載の第6回。

■飛び降り自殺する2カ月前に精神科病院を受診

「暗い顔で私の部屋に入ってきて、少し私のいるところで横になっていました。ちょっと仕事をしている間に、気づかぬうちにいなくなっていました……。それが最後です」

父親は28歳で生涯を閉じた息子の最期のときをこう語った。プロボクサーだった武藤通隆さんは4年前の2016年4月、自宅マンションから飛び降りて亡くなった。看病をしていた父親が、目を離したほんの一瞬のことだった。

亡くなる2カ月前、通隆さんは精神科病院を受診した。そこで診断された病名は「統合失調症」だ。25歳のときプロボクサーの資格を取得した通隆さんは、西日本新人王の決勝に進んだ経験もある。直前までリングの上で戦っていた通隆さん。元気だった息子が短期間で変わり果て、命を絶った理由を追及したい。父親は通院していた病院を提訴。今年8月に行われた裁判で、冒頭のように語った。

2カ月の間に何が起こったのか――。

病院を受診した2016年2月当時、通隆さんはプロボクサーとして活動しながら、母校の私立高校で数学を教えていた。勤務先の同僚で、高校時代の担任でもある教師は、通隆さんについて「学生時代から明るく活発で、人を引きつける性格でした。それに、とても優しいところがありました。クラスに溶け込めない子がいると声をかけていました。学校で働き出してからも変わらず、生徒からも慕われていました」と話す。

2015年12月、格上の元日本ランカーとの試合に挑むも、6ラウンドでTKO負けを喫した。再起をかけて練習に励む通隆さんに異変が起こったのは、翌年2月4日のことだった。夜、練習を終えて帰ると、「俺、記憶なくしてる?」と何度も父親に問いかけた。2月6日には頭痛を訴えて救急車で運ばれたが、脳の検査で異常は見つからなかった。その翌日、同じ動作を繰り返し、体や顔が硬直して動きが制御できないような状態になった。

翌朝、父親は通隆さんを車に乗せて民間の精神科病院に向かった。主治医は統合失調症の可能性があると告げ、患者の同意がなくても強制入院させられる医療保護入院となった。

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