問い合わせ殺到「インド発英国行き」バスツアー インドの旅行会社が企画、21年5月出発を予定

東洋経済オンライン / 2020年11月22日 6時50分

インドの旅行会社が企画したデリー―ロンドン間のバスツアー(写真:Adventures Overland)

2021年5月に出発を予定する、インドのデリーから英国ロンドンに向けて走るバスツアーのプレ予約が始まった。参加料は片道2万ドル(約210万円)、全体の所要日数は70日あまりと、「団体で行くパッケージツアー」としては常識外なスケールの大キャラバンとなる。

このバスツアーを企画したのは、デリー郊外に拠点を構える「アドベンチャーズ・オーバーランド社」。今夏、バス旅のプランを発表したところ、「195もの国と地域から参加への問い合わせを受けた」という。参加費用は安いとは言えず日数も非常に長いが、参加したいと思う人々が世界中にいるというのは驚きだ。

■ヒッピーの憧れルート

新型コロナ禍の最中にあって、このツアーは世界各国で高い関心を集めた。同社の説明によると、「世界の125ものメディアがツアーについて報道」「1億人以上の視聴者に情報が届いた」と、宣伝に大成功した様子がうかがえる。とくに欧州では、発表がちょうどロックダウン解除から間もない時期だったこともあり「どこかに行きたい」と考える人々を中心に話題が広がった。

こうしたバスによる大陸横断旅行はいまに始まったものではない。1960〜1970年代、既成社会の伝統、制度などといった従来の保守的な考えを否定する「ヒッピー」たちの間で、アメリカや欧州からインドやネパールを目指してバスや列車を乗り継いで旅行することが流行した。

その中で、欧州で使われていたバスをインドまで走らせながら旅行し、現地で売り払うといった「マジックバス」が数多く運行され、やがて、団体ツアーとして組織する旅行会社も現れた。インドやネパールの神秘的、宗教的なイメージも相まって、こうした旅行はいわばヒッピーの憧れルートといえる存在だった。

同社を運営する共同代表のサンジャイ・マダン、トゥッシャー・アガラワルの両氏はロンドンからカルカッタ(現コルカタ)やボンベイ(現ムンバイ)を目指したヒッピーらの旅に刺激を受けつつ、これまでも世界各国でクルマを使った長距離旅行を行ってきた。2013年にオーストラリアで1万7107kmを走破した際は、当時「外国1カ国を走った最も長い自動車での旅行」としてギネスブックにも掲載されたという。

両氏はさらに2017~2019年に3回、一般的な自家用車でコンボイ(隊列)を組み、インド―ロンドン間を陸路で走るツアーを実施。こうした経験から「自分でハンドルを握ってつらい思いをしたくない人々」向けに、今回のバスによる大陸横断大キャラバンの実行を目指したという。

インド―ロンドン間のバスは、現時点での計画によると、インド北部からミャンマーに入り、その後タイ、ラオスと東南アジアをかすめ、中国は雲南省に入り新疆ウイグル自治区に向け縦断。中央アジアのキルギス、ウズベキスタン、カザフスタンを経た後、ロシアを抜けて欧州に入る。そしてラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、ドイツ、オランダ、ベルギー、フランスと回り、最後はドーバー海峡を渡って英国ロンドンへとたどり着く。

通過国は全部で18カ国、走行距離は2万kmに及ぶ。往路は2021年5月、ロンドン発の復路は8月に出発を予定している。

■コロナ禍でも出発できるか

アドベンチャーズ・オーバーランド社によると、ツアーの定員は20人。「参加希望の声が想像以上に多いが、提供できる座席数は限られている」と説明。「必要事項をプレ予約フォームに記入して提出した参加希望者に対し、12月上旬をメドに今後の手続き詳細を案内する」と述べている。

ただ、2021年5月出発だと、コロナ禍の影響を避けることは難しいだろう。筆者が入手した、参加希望者に送付される案内状によると、「各国の観光需要はそれぞれの国内で徐々に回復中」「ワクチンが年末か年明けに実用化されることを期待しつつ、各国保健当局による感染予防規定に従うことを前提に実施を目指す」と述べ、当初予定通りのツアー実施を目指していることがうかがえる。

ツアーに使用するバスはまだイメージイラストしか公開されていないが、欧州などで観光バスとして一般的に使われているタイプの車両が描かれている。同社の案内によると、座席はフルフラットに倒れるラクジュアリー仕様で、2列×1列と幅もゆったり。Wi-FiやUSBコンセントなども備えるという。

ただ、ウェブサイトに掲載された内装の写真は韓国の高速バス車内のようで、実際の車両がどのようなデザインになるかは不明だ。また、同サイトに記されたバスの仕様ではトイレについて触れていないが、同社によると「参加希望者の意見を取り入れ」追加で設置を決めたという。

■旅行代金は妥当?

ツアーは夜間もぶっ続けで走り続けるのではなく、基本的には毎晩しかるべき宿泊機関に泊まる前提で組まれている。「料金に含む内容」としては、バスでの移動費のほかに

・ ツアー中のホテル(2人部屋の1人分)
・ ツアー中の全食事
・ 各国の入国ビザ代(車両の入国許可関係費用含む)
・ 観光ガイドと観光地入場料
・ バス車内で食べるスナック
・ ドライバーと添乗員の人件費

が挙げられている。

1人200万円を超えるツアー代金を妥当とみるかどうかは意見の分かれるところだろう。だが、70日超・2万kmに及ぶ距離をスタッフのサポートを受けながら旅行すること、そしてロンドン往復ツアー1回でバスが使い物にならなくなる(あるいは相当のダメージを受ける)可能性を考えると、旅行会社としてはそれなりの額をあらかじめ回収したいと考えるのも無理はない。

また、このツアーは全区間走破だけでなく、部分的に参加できる4つのプランもある。

【4つの部分参加プラン】
1)インパール(インド)―バンコク(タイ)間:11泊12日
2)成都―カシュガル(ともに中国)間:15泊16日
3)ビシュケク(キルギス)―モスクワ(ロシア)間:21泊22日
4)モスクワ(ロシア)―ロンドン(イギリス)間:15泊16日

一般的に陸路での旅行が難しいインドからミャンマーを経てタイを目指すプランなどは「区間利用需要」の希望が集まる可能性がありそうだ。

旅行会社はすでに通過する各国との調整など準備を進めているというが、そもそもこの行程での陸路による国境通過に問題はないのだろうか。

ロンドンで団体ツアー手配を行っているランドオペレーターに勤務する知人に、バスによる陸路移動の可能性について尋ねたところ、「ロシアから観光バスでロンドンまでやってくる団体もいる」「トルコや中東諸国のナンバープレートをつけてイギリスを走る車もたまに見る」といい、ロシア・中東地域からイギリスへ車で陸路移動するうえでは問題なさそうだ。

また、旅行者の陸路国境通過については、「欧州側はロシアからラトビアに入るポイントでパスポート検査を受ければ、あとはイギリス上陸時にチェックがあるだけ」と拍子抜けするほど簡単なようだ。

一方、アジアでは国境越えにそれなりのハードルがありそうだ。

ミャンマー・タイ・ラオスについては相互に観光バスが乗り入れている実績があるものの、行けるエリアが限定的だという。タイの現地旅行会社のスタッフは「走行承認を得るには、出発前に煩雑な許可申請は避けられないのでは」と懸念する。

問題は中国だ。中国は「自家用自動車の一時輸入に関する通関条約」の枠組み外にあり、無税通関手帳(カルネ)を使っての自動車輸入が認められていない。ただ、これまでも欧州と中国を結ぶ国際ラリーやドイツ車のPRキャラバン実施の際に国境で中国国内用のナンバープレートを受けて走行したケースがあり、許可申請の手間をいとわなければ乗り入れは可能だろう。

■日本から同じようなツアーはできる?

さて、これだけ世界中から関心を集めるのであれば、日本からこうしたツアーを計画したらどうなるだろうか。

アジア各国に拠点を持つランドオペレーター、SMIトラベルの上才泰尚アジア統括マネージャーは、「国境でそれぞれの国のチャーターバスに乗り換えれば、こうした国をまたぐツアーもできるのでは」と語る。これは、「ASEAN加盟10カ国間で車の相互乗り入れができないところがある」ためといい、こうしたところでは国境でバスの交換を行っているという。

こうしたアイデアも参考にしながら、日本から欧州へ陸路(プラス海路)で行けそうなルートについて検討してみると、もっとも簡単そうなのは「ウラジオストクへ船で行って、ロシアのナンバープレート付きのバスを使って欧州を目指す」というものだろう。中国・中央アジア経由での欧州行きなら、中国国内を移動したのち、カザフスタンやロシアなど「いくつかの国境でのバス乗り換え」が前提であれば、ロンドンへのバス旅行が実現できよう。

新型コロナウイルスの世界的な拡散により、人々が持つ基本的な権利ともいえる「移動の自由」が一気に失われてしまった。そんなさなかに構想されているインド―ロンドン間のバスキャラバン。無事に実行されれば、「旅行業界のコロナからの復活」を象徴する出来事にもなるだろう。

さかい もとみ:在英ジャーナリスト

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