不動産を知り尽くす男たちが語る「ウラのウラ」 「仲介手数料半額」にただ喜んではいけない

東洋経済オンライン / 2020年12月31日 16時0分

写真左より、正直不動産の原案者である夏原武さん、写真右は不動産業者最大のTwitter集団「全宅ツイ」のグリップ君(写真提供:小学館)

不動産業界の闇を克明に描き出す話題の漫画『正直不動産』(漫画:大谷アキラ 原案:夏原武 脚本:水野光博)。

その原案者である夏原武氏が不動産業者最大のTwitter集団「全宅ツイ」のグリップ君と、“身近なようでいて、よく知らない”不動産業界について語り合った。

赤裸々ながら、消費者が知っておくべきリアルな現実とは?

■「正直不動産」はどれだけリアル?

夏原:「全宅ツイ(全国宅地建物取引ツイッタラー協会)」は、総勢で何名くらいいるんですか?

グリップ君:正確には把握できないんですが、私が顔を合わせたことがあるだけで約100名はいます。

夏原:以前、グリップ君に『正直不動産』単行本第7集帯の推薦文をお願いしたら、「非推奨」と言われたんですが(笑)。全宅ツイの皆さんは、『正直不動産』をどんなふうに読んでいますか?

グリップ君:「非推奨」は冗談ですが、『正直不動産』の初期は、とにかく不動産会社が悪く描かれすぎていて(笑)。当時私は物件の仕入れ担当だったので、取引相手は個人消費者ではなく不動産のプロだったんです。ウソはすぐばれて、干されるだけ。だから、ここまでウソばかりじゃないぞと思って読んでました。

夏原:最初は不動産のことをまったく知らない人、個人消費者をメインターゲットに物語を紡いでいったので、不動産業者が悪役として目立つんでしょうね。連載が続く中で幅広い読者がついてきてくれて、不動産業者についても、さまざまな描き方ができるようになりました。

グリップ君:そうなんです。読み進めると、だんだん主人公・永瀬財地の心情に共感する部分が増えました。悪役だった不動産業者の登場人物が別の回では手を貸してくれる場面も出てきて、とても面白く読めるようになりました。

夏原:でも、「こんな悪いやつはいない」という人もいれば、「実際は、もっともっと悪い」と言ってくる人もいる(笑)。 不動産はとても広い世界だから、立場によって別の見え方があるんでしょうね。実際は、周りが思うほど簡単な商売ではないですしね。

グリップ君:全宅ツイの中でも、売れない若手の話は悲惨です。物件売るために撒くチラシの紙代が自己負担で給与から天引きされて、今月の手取り3000円だった、とか(笑)。

夏原:ひどい(笑)。だけど、そういう人も契約を取って、歩合給をドカッともらったら派手に飲んじゃうんでしょう? 少しは貯金しろよと思うけど、欲望に忠実なところは面白い。

グリップ君:そんな働き方が楽しいという側面はあるんでしょうね。先祖は狩猟民族だったのかな。今はツーブロックゴリラと呼ばれていますけど(笑)。

夏原:貯め込まずに使うんだから、景気よくするためにも不動産業者に儲けてもらいたいですね。IT業界だと金持っても、使わない人が多いから(笑)。

グリップ君:不動産業界は厳しい世界ですから、辞めちゃう若手も多い。楽して稼げる世界ではないということを一般の人にも知ってほしいです。

■手数料は「いい物件」へのパスポート

夏原:賃貸仲介なんかだと、何部屋紹介しても契約できなければ、お金はもらえないわけでしょう。それで、いざ契約となっても「仲介手数料は家賃半月分しか払わない」とか言われることもある。やってられないですよね。

グリップ君:『正直不動産』でも取り上げられていましたね。現実には、手数料を半額しか払ってもらえないなら、1カ月分ちゃんと払ってくれる人に先にいい物件を紹介しちゃいますよ。いい部屋を探したいのか、手数料を値切りたいのか、どちらが目的なのかをよく考えないと本末転倒になります。

夏原:手数料ゼロ円でやっている仲介店もありますからね。

グリップ君:仲介手数料ゼロ円の会社は、大家側から余分に手数料をもらっているわけです。じゃあ、大家が余分に手数料を払わないと入居者が来ない部屋って? と考えれば、わかりますよね。手数料は、いい物件へのパスポートなんです。

夏原:法律知識として知っておくことと、案内させた揚げ句にごねるのは違う。これが横行したら、業者は除菌スプレーを売るしかなくなっちゃう(笑)。

グリップ君:実はプロ同士の市場では、「いつもお世話になっているので、手数料をもっと払わせてください」ということもあるんですよね。

夏原:賃貸でも売買でも、仲介手数料の上限を撤廃して、仲介業者にサービスで競わせればいいんですけどね。

グリップ君:仲介手数料を払いたくない入居者と大家は、マッチングアプリを使っていたりもします。敷金・礼金もなしで、宅建業法の枠外で部屋を貸し借りしているんです。

夏原:宅建業者を間に挟まないと、何かトラブルがあったときは心配だと思うけどな。

グリップ君:大家側も、一定の確率で夜逃げされたりトラブルが起きる前提で事業をしているようです。

夏原:なんだか、悲惨な世界だな。

グリップ君:最近の『正直不動産』で印象に残ったのは、管理組合の修繕積立金について取り上げた回です。実は私が住んでいるマンションでも、1億円以上が積み立てられています。でも、管理組合の理事は、なんの知識もない一般人でしょう? 怖いですよね。

夏原:修繕積立金は、今後、あちこちで問題が起きてくると思います。

■不動産の金額を決めるのは金融機関

夏原:2020年の不動産業界というと、私は兵庫県・姫路の不動産王と呼ばれた大川護郎さんが印象深い。不動産を買いまくってマンション約5000室の大家主になったけど、派手にやりすぎたのか、銀行取引停止になって資金繰りに困っているという。これまでに儲けた金でフェラーリとか高級時計とかバカ買いしてて、行動がわかりやすいですよね。でも、やっぱり不動産市況は厳しいんですか?

グリップ君:コロナで不動産は大暴落すると言われましたけど、ホテル以外はそこまで下がっていないんです。

夏原:それは、なぜですか。

グリップ君:金融緩和で金が余っている銀行が、不動産向けの融資を続けているからです。結局、不動産の金額を決めるのは金融機関なんですよね。

夏原:バブル期も不動産業者は銀行の手先になって、踊らされただけでしたからね。

グリップ君:ここ数年のことですが、新築マンションがどんどんしょぼくなっているのが気になっています。今は3LDKで60㎡台半ばが主流になっていますが、ちょっと前なら75㎡が当たり前でした。

夏原:確かに、新築マンションを見ても買う気がしない。バブル期に作られたマンションは立派ですもんね。

グリップ君:私の感覚では、築10年くらいの中古マンションがお勧めです。その頃は、リーマン・ショック直後で土地も建築費も安かったので、いいものが作れた。今はダメですね。

夏原:コロナで都心のマンションを売り払って郊外に引っ越す人が増えていると報道されていましたね。

グリップ君:それは一部だけです。むしろテレワークもできるように仕事部屋がほしいとか新しいニーズが出て、緊急事態が終わった夏場以降も大都市圏のマンション販売は活況だったようです。

夏原:世間で言われていることと、実際の現場とでは差がありますね。

■不動産業界の地道な努力も知ってほしい

グリップ君:全宅ツイには、デベロッパー、オフィスや賃貸・売買の仲介、個人投資家から金融ファンド、大工さんもいます。一口に不動産屋といっても、業務内容がまったく異なるんです。自分の専門領域以外はよくわかりません。だから、その道のプロフェッショナルとの情報交換が必要なんです。

夏原:それだけ専門性が必要な世界ということですね。昔は新橋とか歌舞伎町の喫茶店で話していたのが、今はTwitterに変わったんですね。

グリップ君:そうなんです。それなのに、最近は「ITの力でクソみたいな業界を変える! 不動産テックだ!」とか、不動産のことをよく知らない若者に言われて――あれ、傷つきます。

夏原:まずは、某不動産会社に入社して渋谷駅で看板持って「家を持ちませんか?」から始めてほしいね(笑)。

グリップ君:何某不動産でチラシを1万枚ポスティングでもいいです(笑)。『正直不動産』でも、もっと不動産業界の地道な努力を取り上げてください。

夏原:うーん、それだけでは漫画にならんなあ(笑)。でも、個人消費者はもちろん、心ある不動産業者にも支持される漫画を引き続き目指していきたいですね。

(取材・文/小野悠史、撮影/黒石あみ)

夏原 武:漫画原作者(原案)

グリップ君:全国宅地建物取引ツイッタラー協会公式キャラクター

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