葛飾区が熱望「貨物線旅客化」は現実的なのか 「新金貨物線」交差する国道の立体化がカギに

東洋経済オンライン / 2021年1月15日 8時0分

新金貨物線の新宿新道踏切。列車は来ないが赤信号のためクルマは停まり渋滞している(筆者撮影)

踏切はすでに渋滞していた。

国道6号と新金貨物線(しんきんかもつせん)が交差する「新宿新道踏切」だ。葛飾区は、総武本線新小岩駅と金町駅を結ぶ新金貨物線を複線化し旅客列車を走らせたい。その懸案がこの踏切だった。日中は定期貨物列車が2本、ほかに臨時列車や回送列車があるかないかという単線の踏切だ。

そこに旅客列車が15分間隔で走れば、踏切閉鎖時間が長くなる。交通量の多い国道6号(水戸街道)が渋滞する。

■問題の踏切は現状でも渋滞

そこで葛飾区は、列車を道路信号に従わせる運行方法を検討している。東急世田谷線と環状7号線が交差する「若林踏切」の方式だ。貨物列車の踏切は残すとしても、旅客列車が原因の踏切渋滞は回避したい。当初は普通の電車とLRV(ライトレール車両)で検討したけれども、踏切渋滞が不可避ならば、AGT(新交通システム)やモノレールを高架で通す案も含めた。葛飾区は整備を前提とした調査研究を日本交通計画協会に委託しており、2021年3月19日まで実施される。

さらに、先行して国道6号の南側、京成高砂駅付近と新小岩駅を先行開業する案も検討する。京成金町駅と京成高砂駅を結ぶ京成金町線と先行区間を組み合わせれば、葛飾区が求めている南北縦貫鉄道の体裁が整う。すでに葛飾区は調査機関に実現性を依頼した。

それほど葛飾区を悩ませる踏切を見物しに来たら、もうとっくに渋滞していたというわけだ。旅客化によって渋滞がひどくなるどころか、これ以上踏切を塞いだら交通は麻痺しそうだ。旅客化を検討する前に、まずは国道6号の跨線橋化を検討すべきではないか。そのうえで新金線を複線化し、LRVあるいは一般旅客車両を運行したほうがいいと思う。

新金貨物線は、総武本線の新小岩駅と常磐線の金町駅を結ぶ貨物線だ。正確には総武本線小岩―新小岩―金町間の貨物支線だけれど、小岩―新小岩間は総武本線と並んでいるため、地元の人々は新小岩―金町間を新金線と愛称で呼ぶ。JR東日本が所有する単線電化路線で、運行する列車は主にJR貨物の貨物列車と回送列車。臨時列車を含めて1日当たり最大数往復。定期旅客列車はないけれども「貨物線乗車ツアー」などで経由する列車があり、地元以外の鉄道ファンにも知られる。

新金線は途中で江戸川区をかすめているけれども、ほとんどの区間が葛飾区内にある。葛飾区内の旅客鉄道路線はJR常磐線、JR総武本線、京成本線、京成押上線、京成金町線、北総線があり、南北方向は京成金町線のみで、しかも距離は短く葛飾区の南北を貫いていない。その点、新金貨物線は区の中央を縦断するから、旅客線化の要望が高かった。

■要望は半世紀以上前から

その要望は半世紀以上もさかのぼる。1953年7月10日、衆院議員の天野公義氏が第16回国会で質問した。

「常磐線金町駅、総武線新小岩駅間は現在貨物線であるが、この貨物線に客車を入れ、旅客の輸送をしてほしいとの熱烈な要求が地元民間にある。現在は単線であり、貨物多くして客車を運転する余力がないので地元の希望が実現しないが、この単線を複線化して輸送力の増強を計り、もつて客車を運転すべきものであると考える。この貨物線の用地は複線化するに十分な土地の広さをもつている。これに対する政府の見解如何」

これに対して答弁した人物は内閣総理大臣吉田茂であった。「多額の設備費を要するので、目下の国鉄予算事情では、早急実施は困難である」とバッサリ却下している。ちなみにこの時の衆議院議長は西武グループの基礎を築いた堤康次郎だった。

鉄道路線の用途が国会で議論された理由は、当時の国鉄の事業は国会の承認が必要だったからだ。第16回国会ではこのほかに、「国鉄中央線複々線実現」「熊谷・桐生間の鉄道新設」「北千住駅改築」「国鉄中央線国分寺駅混雑緩和」などが審議されている。

1953年といえば朝鮮戦争特需による好景気で、鉄道の通勤需要が爆発的に増加しつつあった。しかし国鉄の整備予算は潤沢ではなかったし、好景気は貨物需要も旺盛で旅客列車の増発も厳しかったようだ。総武本線は都心に直通していたけれども、両国から都心側への延伸は電車のみ走らせる想定だ。貨物列車は運行できない。新金貨物線は常磐線と総武本線を結ぶ貨物列車にとって重要な連絡線だった。

しかし葛飾区はあきらめず、1993~1994年度に調査検討を実施した。

新金線旅客化運動の転機は、2000年に武蔵野線南流山駅―西船橋駅間が貨物列車の運行ルートとなったことだ。総武本線千葉駅付近の貨客分離が行われ、新金線経由の貨物列車のほとんどが武蔵野線経由になった。現在は隅田川貨物駅や東京貨物ターミナル駅などと鹿島臨海鉄道神栖駅(茨城県神栖市)を結ぶ貨物列車の最短ルートの役割がある。また、越中島支線と連携したレール輸送列車が走る。

これらの列車は主に夜間から早朝にかけて運行されるから、日中の踏切稼働が減った。そこで、悲願の旅客線化構想が活発となった。葛飾区は2003年にも調査研究を実施している。

葛飾区は新金線旅客化の叩き台として、2019年3月に「新金貨物線旅客化の検討資料」を公開した。この時点の基本事項として、「既存の新金貨物線の施設や構造物等を最大限に活用」「貨物列車の運行継続」「他路線との直通はしない」「国道6号踏切は道路信号に列車が従う」「電車とLRVの2案」「新小岩駅・金町駅はJR駅と乗り継ぎを考慮」「中間駅の設定」「根拠法はまだ考慮しない」だった。概算事業費は電車案が約200億円、LRVが約250億円と予測した。

■国道6号の踏切が課題

ところが、1年後の2020年3月に公開された「令和元年度 新金線貨物線旅客化に向けた調査検討」では、貨物列車の運行に合わせて鉄道事業法に基づく整備としつつ、末尾に「新交通システム等の導入検討」と付され、モノレールやAGTが候補になった。

その理由は前年の「国道6号踏切は道路信号に列車が従う」について、鉄道では難しいのではないか、と重点的に検討が行われたからだ。貨物線旅客化の話が、貨物線に沿った新しい交通整備の話になりつつある。

葛飾区は旅客化にあたり、国道6号は道路優先信号とする案を検討している。これは東急世田谷線と環状7号線の「若林踏切」という前例がある。電車が踏切に接近した場合も交通信号が赤から青になるまで待つ。道路側も交通信号に従うから、クルマは青信号で通過し、踏切の一旦停止義務はない。

道路信号設置踏切は江東区内にもある。貨物線の越中島支線と永代橋通りが交差する「幹線3号踏切」だ。ここもクルマは青信号で一時停止なしで通過する。鉄道優先ではあるけれど、貨物列車を走らせる場合は事前に徒歩で警備係がやってきてクルマへ注意喚起する。したがって貨物列車の速度は遅い。ここまでしないと貨物列車の踏切はクルマと共存できない。

新金貨物線の国道6号「新宿新道踏切」も同じく、道路信号が設置されている。クルマがこの踏切を通過する場合は青信号に従い、一時停止は不要だ。ただし貨物列車は最高時速100kmで走るから、道路信号では止められない。したがって踏切も設置されており、鉄道優先になっている。貨物列車を道路信号で停めるためには、鉄道信号と道路信号を連動させて、もっと手前から減速させる必要がある。

■まずは渋滞緩和が必要だ

さらに困ったことは「幹線3号踏切」「新宿新道踏切」ともに、本来不要な一時停止をするクルマも少なくない。踏切警報機が目立つため、踏切と認識して一時停止する。そういうクルマがいるだろうと想定して、一時停止不要とわかっているクルマも減速し追突を避ける。この減速に加えて、前後の交差点の赤信号に連鎖して、踏切周辺の渋滞が起きている。

このままでは、旅客線をAGTやモノレールで立体交差化した場合も、現在の渋滞は解決しない。国道6号沿いには2021年度内に葛飾赤十字産院が「東京かつしか赤十字母子医療センター」の名称となって移転開業予定だ。国道6号には救急車も通行するだろう。救急医療面を考えても渋滞緩和が必要ではないか。新金貨物線の旅客化は必要だ。しかし、国道6号の単独立体工事が先決だ。せめて片側1車線の跨線橋を造り、線路をまたげば渋滞を改善できる。

周辺を観察したところ、渋滞を避けるために両隣の踏切へ迂回するクルマも見受けられる。これは「新宿新道踏切」が東京都の「踏切対策基本方針(2004年)」で都内394箇所の「重点対策踏切」の1つに選ばれ、放射13号、補助276号など迂回路の整備が行われたからだ。しかし、それでも国道6号の渋滞は解消されていない。立体交差化すれば周辺に流れる交通量が減り、踏切事故リスクは下がる。

実は国土交通省関東地方整備局は国道6号の改良事業を進めている。「新宿拡幅」と呼ばれており、葛飾区新宿2丁目から葛飾区金町6丁目まで延長約2.1kmの拡幅・立体事業だ。このうち金町地区1.2kmは1995年に立体交差と拡幅工事が終わった。新宿地区の0.9kmは新金貨物線を高架化して潜り抜けたのち、補助276号線を高架でまたぐ。こちらは1983年に事業化され、2015年に工事着手している。

ただし新金貨物線の高架化のメドが立たない。2014年の進捗資料によると、2000~2001年に「JR新金線の立体交差化」に伴う調査設計について協議が完了した。しかし、JR東日本としては旅客路線の踏切整備を先行しているため、貨物線は後回しでいつになるかわからない。このほか、拡幅区間の取得予定地にマンションや商業施設が多く、未着手部分が多い。事業終了予定は2022年から2025年に延びた。

■新金線高架化か国道立体化か

新金貨物線の高架化は踏切解消も狙った計画だと思われる。しかし、メドが立たないならば、国道6号の高架区間を延ばし、新金貨物線をまたいでもよさそうな気がする。単独立体交差で渋滞が改善できるなら、新金貨物線を複線化して旅客列車を運行できる。単線並列として旅客用線路を増設し、LRVを走らせてもよかろう。手っ取り早く舗装路を作り、BRT(バス高速輸送システム)を走らせてもいい。

JR東日本が旅客化された新金貨物線を活用し、総武本線と常磐線を結ぶ列車を走らせる。その可能性を担保するなら普通鉄道による複線化となる。しかし、AGTを選択肢に挙げるならば、BRT専用道を整備して連節バスを走らせたほうが費用面でも利点が大きいし、災害時に救急車も走行できる。

関東地方整備局の計画通りとするなら、葛飾区は新金貨物線の高架化を働きかける必要がある。新金貨物線旅客化を先行させたいなら、国道6号の整備計画を見直し、新金貨物線をまたいでもらう。このどちらかを決めないままで旅客線化を検討しても時期尚早と思われる。

杉山 淳一:フリーライター

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