「甲子園のアンチテーゼ」を行く高校野球の凄み 脱「勝利至上主義」で全員出場のLiga Futura

東洋経済オンライン / 2021年1月16日 15時0分

Liga Futuraでは球数制限を導入している(写真:筆者撮影)

2020年の10月、11月、筆者は週末のたびに各地に高校野球を見に行った。大阪、新潟、長野でリーグ戦が行われていたのだ。約2カ月の間、各地の試合を見て野球の楽しさを改めて感じた。

高校野球のリーグ戦そのものは各地で行われている。練習試合にメリハリをつけるため、数校が集まって総当たり戦をするのは、昔から見られた。しかし、筆者が追いかけたリーグ戦は、それらとは一線を画していた。

■選手全員が出場、球数制限も導入

リーグ戦の名はLiga Futura(リーガ・フトゥーラ)。スペイン語で「未来のリーグ」。リーグ戦に加えて、原則としてベンチウォーマーはなし、全員が試合に出なければならない。さらに、球数制限を導入し、変化球の使用も制限される。送りバントの回数も制限される。昨年から、使用するバットはBBCOR仕様の低反発金属バットか、木製バット、竹バットに限定された。

野球本来の「打つ、投げる、走る」の原点に戻るとともに、選手に「野球をする楽しみ」を体験させることを重視しているのだ。

参加校
大阪:府立-花園高校、高津高校、香里丘高校、門真なみはや高校、園芸高校、みどり清朋高校、旭高校、私学-早稲田摂陵高校、大阪学芸高校、追手門学院高校、関西大倉高校の11校。香里丘はAB2チームで参戦。みどり清朋と園芸は連合チーム。
新潟:県立-新潟東高校、新潟北高校、加茂農林高校、新潟市立-万代高校、私学-新潟明訓高校、東京学館新潟高校、新潟第一高校の7校。北越はSAの2チーム。加茂農林と万代は連合チーム。
長野:AB2組に別れそれぞれ4校。A組は公立-長野吉田高校、上田千曲高校、小諸高校に私学-佐久長聖高校。B組は公立-長野工業高校、田川高校、飯田風越高校、塩尻志学館。

それぞれの学校のグラウンドを会場に、土曜・日曜を中心に試合をする。ダブルヘッダーが原則。各リーグともに勝ち点制で順位を競う。大阪と長野はリーグ戦の後、決勝トーナメントを行う。

「このリーグの良さは『取り組みに明確な目的』があることですね。ただ単に実戦経験を積むだけじゃなく、こういうふうに育ってほしい、指導者にもこういうふうに指導してほしいという明確な目的がある。だから指導者にも子どもたちにもメリットがあると思います」

参加校の大阪学芸高校の小笹拓監督はこう話す。

小諸高校の丸山雄三監督は、低反発金属バットの効果について言及する。
「これまでのバットなら、少々芯を外しても強く打てば球は伸びますが、低反発金属バットは芯を食わないとしっかり飛びません。ごまかしがきかないんです。だから打撃について本当に学ぶことができます。投手も打球が飛ばないから怖がらずにストライクゾーンに投げることができます。打球もそんなに速くないので、野手も思い切って打球に突っ込んでいけるんです」

新潟リーグで審判を務める斎藤太氏は、飛びすぎる金属バットに警鐘を鳴らす。
「金属バットは年々進化しているので打球が速くなっています。対照的に子どもたちの体力は落ちています。公式戦などで三塁側に強い打球が行くと冷や冷やします。オーバーに言えば生命の危機ですね。低反発バットでも、芯で打てば飛ぶので、ちゃんとしたスイングを学ぶうえでもいいと思います」

■「ほとんど経験のない投手」もマウンドに

投手の球数制限や選手の試合への全員出場についても指導者は気を使っている。2試合目ともなると、控えの控えみたいな選手も出場するし、ほとんど経験のない投手がマウンドに上がったりする。

関西大倉高校の松井僚平監督は「もともと正規の投手は3~4枚ですが、足りないので野手の中から投手経験がある選手も起用しています。今年なんか1年生で野手だった子が投げて非常にいい投球をしています。そういう発見もありますね」と語る。

大阪では今季から7回以降に、1死一三塁などの状況設定を導入した。大阪のリーグの幹事を務める香里丘高校の藤本祐貴部長は、「バットが飛ばないうえに非力な選手も出場するので、ロースコアの試合が多くなるんです。状況設定をすることで、ロースコアが故に守備側も攻撃側もアウトカウントや状況に合わせていろいろ考えることになります。今年度初めて取り入れた試みでしたが、先生方にも好評でした」と話す。

Liga Futuraは、いろいろな要素が盛り込まれた意欲的な取り組みであることがわかる。そしてとにかく雰囲気がいいのだ。

試合中、しばしばみられるのは相手チームのファインプレーに、選手や指導者が惜しみなく拍手を送る光景だ。そして選手の失策にも叱声、罵声が飛ぶことはない。

新潟では、ほとんど実戦経験がない投手が同点、最終回裏の重要な場面でマウンドに上がった。彼は三塁走者に牽制球を投げようとしてマウンドでけつまづいた。審判がボークを宣して一瞬で試合終了。件の投手はショックを受けていたが、両軍ベンチは笑顔で彼を迎えた。失敗して覚える野球もあるのだ。

新潟北高校の相馬謙司監督は「このリーグは選手を大事にするところがいいと思います。うちには初心者もいて、めちゃくちゃへたくそなんですが、なんでできないんだ、駄目じゃないかと言えば、じり貧になってしまいます。いいところを見て伸ばしていかなければと思っていたのですが、リーグ戦で少しずつ自信をつけています」と言う。

長野の丸山監督と新潟の相馬監督は、独自にリーグ戦のニュースを作って大会を盛り上げている。

実はLiga Futuraはリーグ戦を開催するだけでなく、指導者や選手が技術やコーチング、そしてスポーツマンシップなどを講座で学んでいる。リーグ戦が「勝利至上主義」と無縁なのは、こうした座学のたまものでもあるのだ。今年はオンラインセミナーとなったが、指導者はリーグ戦のライバルであるとともに共に学ぶ仲間なのだ。

試合には家族も観戦に来る。ソーシャルディスタンスを取りながら、熱心に選手を応援している。家族も楽しそうだ。生徒から話を聞いて、家族もリーグ戦の意義を理解している。

■リーグ発案者が出合った「ドミニカ共和国の野球」

このリーグの発案者は、現在は少年硬式野球チーム「堺ビッグボーイズ」中学部の監督を務める阪長友仁氏だ。

「堺ビッグボーイズが中心となり理解ある中学チームで『フューチャーズリーグ』というリーグ戦を行っていたのですが、選手たちが積極的になるなど良い部分がたくさん見えたので、これは高校でも導入すべきだと思って、高校指導者の先生方に働きかけたんです」

阪長氏は新潟明訓高校時代に夏の甲子園に出場、本塁打を打つ。立教大学に進み主将も務めた一流の野球人だ。卒業後はサラリーマン生活ののち、JICAなどで海外での野球指導に従事するうちに、子どもの可能性を最大限に引き出そうとするドミニカ共和国の野球に出会い野球観が変わった。

帰国後は、少年野球の指導者となるとともに、ドミニカ共和国の野球の考えを知らしめる講演活動を始めた。ドミニカ共和国への研修旅行もたびたび実施している。こうした活動で知り合った高校指導者たちが中心となってLiga Futuraが始まったのだ。

「3つの府県で独自にやっていますが、理念は共有しています。リーグ戦をすることも有意義ですが、同時に低反発金属バットや球数制限などを取り入れたことも重要です。子どもたちにとっていいと思うことを毎年、アップデートしているんです」

10月、11月は、夏で3年生が引退し、新チームに切り替わる時期だ。秋季府県大会が終われば、公式戦は春までない。どうしても選手は緩んでしまいがちになるが、真剣勝負のリーグ戦を経験することで心身ともにたくましくなる。ひと冬を越してからの成長度が違うという。

新潟明訓高校の教頭で、野球部監督を務める島田修氏は、新潟県高野連の専務理事、新潟青少年野球団体協議会プロジェクトリーダーなどの要職を歴任し、昨年の新潟県高野連の「球数制限」導入でも主導的な役割を果たしてきた。島田氏は、Liga Futura導入の経緯をこう語る。

「高校に限ったことではありませんが、全国大会に出場するような有力チームの中には、勝つための偏った戦術やきついヤジなど、『勝利至上主義』の弊害を感じさせてしまうところがあります。そういった場面を見るたびに、何とかいい方向に向かうといいなあと思っていました。

だから阪長君から話をいただいたときに、やってみようと思いました。時間が許せば、本来スポーツはトーナメントよりリーグ戦で行った方がよりよい効果が得られるのではないかと思います。それに阪長君の言う『リーグ戦は人生に似ている』という考えには共感できます。勝ったり負けたりしますが、1度負けてもやり直しがききます。

Liga Futuraは、飛ばないバットを採用したり、球数制限を導入したりうまい具合に考えられているので、積極的なプレーがどんどんできるようになっています。それに普段なかなか練習試合をする機会がない高校と交流できることもいいですね」

■「甲子園」のアンチテーゼ

甲子園の高校野球は、一戦必勝のトーナメントでエースが腕も折れよと投げる野球であり「球数制限」とは相いれない。レギュラー選手だけが試合に出続けるエリート主義で、指導者は「勝利至上主義」が原則であり、選手は「刻苦勉励」を求められる。

Liga Futuraは、そんな「甲子園」の正反対を行くアンチテーゼだといえる。「高校球児15万人」と言われてきたが、昨年、32年ぶりに硬式野球部員が13万人台になるなど、高校レベルでも「野球離れ」が進行する中で、Liga Futuraは文字通り「未来の野球」の可能性を指し示しているのではないか。

他地方でもLiga Futuraを立ち上げようという動きも出始めた。賛同者の輪が少しずつ広がっているのだ。11月22日、Liga Futura大阪は、決勝トーナメントが行われ、予選リーグ2位の大阪府立花園高校が初優勝した。選手たちは、「俺はお前らを信用してへん! 大丈夫か!」と叫ぶ榛田雅人監督を胴上げし、全員で爆笑した。

この底抜けの明るさの中に「野球の未来」を見た気がした。

広尾 晃:ライター

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