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国の責任問う原発訴訟、「本丸」高裁判決の行方 判決次第では、国の原発政策は行き詰まりも

東洋経済オンライン / 2021年1月20日 7時30分

丹治さんは夫(67歳)との避難生活が10年近くに及ぶ。「私たちのような避難指示区域外からの避難者は『自主避難者』と呼ばれているが、自主避難者に対する国の姿勢については『絶対に許せない』」と丹治さんは語気を強める。

■国の準備書面に記されたものとは?

丹治さんが憤るのは、東京高裁に提出された国の「第8準備書面」に記述された次の一文だ。

「自主的避難等対象区域からの避難者について、特別の事情を留保することなく、平成24年(2012年)1月以降について避難継続の相当性を肯定し、損害の発生を認めることは、自主的避難等対象区域での居住を継続した大多数の住民の存在という事実に照らして不当」

「自主的避難等対象区域は、本件事故後の年間積算線量が20ミリシーベルトを超えない区域であり、そのような低線量被ばくは放射線による健康被害が懸念されるレベルでないにもかかわらず、(原告の主張を認めることは)平成24年1月以降の時期において居住に適さない危険な区域であるというに等しく、自主的避難等対象区域に居住する住民の心情を害し、ひいてはわが国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない」

丹治さんら避難指示区域外に住んでいた住民が避難し続けることについて、その境遇に思いを致すどころか、その存在自体が元の地域の評価を不当におとしめるというのである。「そもそも原発事故により放射性物質を拡散させ、愛すべき動植物すべてのいのちと国土を汚染させたのは誰なのか」と丹治さんは問いかける。

避難指示区域外からの避難者の困苦やその被害については、これまでほとんどすべての民事訴訟において被害額の多寡はともかくとして認められてきた。

また、衆参両院で全会一致の賛成によって成立した「原発事故・子ども・被災者支援法」でも、避難指示区域とは別に支援対象地域(放射線量が年間20ミリシーベルト未満だが、一定の基準以上の地域)が決められるとともに、国に対して被災者生活総合支援施策を実施する責務があると定められている。避難者に対しても住宅の確保や学習・就業の支援などが盛り込まれている。

同法の立法趣旨として、原発事故によって放射性物質が広く拡散したことや、年間20ミリシーベルト容認という低線量長期被ばくが人の健康に及ぼす影響について科学的に十分解明されていないことが指摘されている。

健康被害の問題については、被災者に対していわれなき差別が生じないよう適切な配慮が定められているが、東京高裁に提出された国の書面の内容は、子ども・被災者支援法の趣旨に反していると言わざるをえない。群馬のみならず全国の原告、弁護団が、東京高裁で出された国の書面の内容に抗議の意思を示したのも当然だと言える。

■国や東電が恐れていること

なお、高裁判決で国や東電の責任や損害賠償が認められた場合、これまでに国が定めた賠償の目安である「中間指針」の見直し論が国政の場で持ち上がる可能性も高い。指針の見直しが実現した場合、さまざまな事情によって裁判を起こすことのできない大半の被災者への賠償額の上積みにもつながる。国や東電が恐れているのはそのことにほかならない。柏崎刈羽原発の再稼働にも影響が及びかねない。

「ふるさとにとどまった人たちから避難生活を心配されることはあっても、後ろ指を指されたことはない。高裁で国の言い分を聞いた時には、加害者が被害者・主権者に何の根拠も無くここまで言うのかと悔しくて眠れなかった」

1月21日に出される判決での勝訴を、丹治さんは祈るような気持ちで待っている。

岡田 広行:東洋経済 解説部コラムニスト

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