大谷翔平も?「トミー・ジョン手術」が急増したワケ 日本のエースは高校時代から肩肘を酷使してきた
東洋経済オンライン / 2023年12月3日 8時0分
日本野球では「人体にメスを入れるのはもってのほか」という認識があるうえに、手術から1年以上ものリハビリ期間ができてしまうことを忌避する気持ちが強いのだ。
しかし、靭帯を損傷した若い投手はアメリカよりも多い。甲子園に出場するような投手の大部分は、「野球肘」や「靭帯損傷」の痕があるとされる。日本には、アメリカの「ピッチスマート」のような厳格な「球数制限」は存在しないし、永らく「投手は投げ込みで球威や制球力をつけるもの」という考え方がアマチュア野球界を支配していたからだ。
NPBからMLBに移籍する投手は、メディカルチェックをすれば、かなりの確率で肘の靭帯や肩に損傷が見つかる。高校時代から日本のエースは多くの球数を投げ、肩肘を酷使してきたからだ。今年、メッツに移籍した千賀滉大も、球団は「メディカルリポートに不安材料があった」と発表し、これが年俸交渉に多少影響したものとみられる。
それでも損傷が深刻でなければMLBで投げることになるが、MLB球団にとっては日本人投手が靭帯を損傷してトミー・ジョン手術を受けることは半ば「織り込み済み」になっている。これまで五十嵐亮太、田澤純一、松坂大輔、和田毅、藤川球児、ダルビッシュ有、前田健太などがアメリカでトミー・ジョン手術を受けている。
進化してきたトミー・ジョン手術
例外的に、2013年、ヤンキースに移籍した田中将大は、2014年7月に右肘靭帯の部分断裂が見つかったが、トミー・ジョン手術はせず、自らの血小板を患部に注射して自然治癒を促すPRP療法を選択した。以後も田中は一線級の投手としてMLB、NPBで活躍しているが、これはレアなケースと言えよう。
ただし、PRP療法以降、田中の決め球だった「ギアチェンジ」と呼ばれる剛速球はみられなくなった。なおPRP療法はトミー・ジョン手術と併用されることも多い。
トミー・ジョン手術が生まれてからそろそろ半世紀になる。この間に手術そのものも進化し、人工靭帯(インターナル・ブレース)を使うなど、新たな技術も取り入れられ、手術の成功率が上がるとともに、リハビリの期間も短縮しつつある。
大谷翔平が2018年に続いて2回目の手術を受けるに至ったのは、彼が、MLB屈指の剛速球を投げる絶対的なエースだったからだ。しかも、今季はWBCの決勝戦でアメリカの主将、マイク・トラウトを三振に切って取った「スイーパー」という新たな変化球も多投した。これが肘に影響を与えた可能性があるだろう。
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