「土佐日記」非日常的な不思議さに隠れた真実 「言葉のルールを破りまくった」紀貫之の目的
東洋経済オンライン / 2023年12月3日 8時0分
ときは930年前後、年の暮れが近づいている頃。とある官僚(つまり紀貫之)と一緒に帰京することになった一行は出発の準備に取り掛かる。
廿二日、和泉の國までとたひらかにねがひたつ。〔……〕上中下ながら醉ひ過ぎていと怪しくしほ海のほとりにてあざれあへり。
【イザ流圧倒的意訳】
二十二日、せめて和泉国までたどり着けるように、神仏に願いをかけた。そのときは上・中・下なんぞ関係なく、みんなすごく酔っ払った。塩海は魚が腐らないが、すぐ海のそばにいてもなお誰もが腐ったように潰れていた。
平安時代の船旅は大変危険なものだった。海賊に遭遇する可能性だって高いし、波に飲まれてしまってもおかしくない。レーダーもなければ地上と連絡が取れる無線機ももちろんなく、神様に祈りを捧げるしかない。
そんな命取りの旅に出かける前に、気合いを入れるべく、宴が開かれた。しかし、その集いはかなり野蛮なものとなる。距離的にも文化的レベルにも都から遠く離れている土地柄のせいだろうか、参加者全員は本来守らないといけないエチケットをすっかり忘れて、立場の違いを超えた空間がそこに広がっている。
我々現代人はそれを祝祭的状況と捉えて、微笑ましくさえ思うが、何よりも身分を重要視していた平安人からしてみれば、恐ろしくおかしいわけだ。
ダジャレが大好きな紀貫之おじさん
二十四日の記事にも似たような描写がある。
廿四日、講師馬の餞しに出でませり。ありとある上下童まで醉ひしれて、一文字をだに知らぬものしが、足は十文字に踏みてぞ遊ぶ。
【イザ流圧倒的意訳】
国分寺の住職が、餞別をしにきた。その場にいた人は身分が高い人も低い人も子供まで酔いつぶれて、「一」という字も書けない人たちなのに、千鳥足で「十」の字を踏んでいるかのようにぐでんぐでんだった。
上下関係を構わず騒ぐのはまだ許容範囲にしても、子供まで酔っ払ってしまうのは非常事態だ。たとえ野蛮な(失礼……)土佐といえども、童がお酒を飲み、大人と交えて夜更かししているなんて、非常識を極めた光景だと言えるだろう。
紀貫之おじさんは言葉遊びが大好きなので、それはただの言葉のあやとして受け止めることももちろんできる。ところが、常識破りのことが起こるのは門出のときに限らない。
送別会の日々を終えた一行がやっと出発して、浦戸から大湊にたどり着く。大湊は現在の高知県南国市前浜あたりのところ、実は8キロほどの距離しか旅が進んでいないけれど、早くも悪天候のため、数日足止めとなる。
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