「土佐日記」非日常的な不思議さに隠れた真実 「言葉のルールを破りまくった」紀貫之の目的
東洋経済オンライン / 2023年12月3日 8時0分
そこで、都人を前にして自作の歌を披露したくてうずうずする現地人が現れる。それはケチな差し入れしか持ってこないばかりか、歌も下手という救いようのない人だ。そして誰もが返歌を送りたくなくて、変な雰囲気が流れたそのときに……。
歌までできる「神童」が登場
ある人の子の童なる密にいふ「まろこの歌の返しせむ」といふ。驚きて「いとをかしきことかな。よみてむやは。詠みつべくばはやいへかし」といふ。〔……〕「そもそもいかゞ詠んだる」といぶかしがりて問ふ。この童さすがに耻ぢていはず。強ひて問へばいへるうた、
「ゆく人もとまるも袖のなみだ川みぎはのみこそぬれまさりけれ」
となむ詠める。かくはいふものか、うつくしければにやあらむ、いと思はずなり。
【イザ流圧倒的意訳】
まだ幼い、ある人の子が「私がこの歌の返しをしようかな」とこっそり言う。みんなびっくりして、「歌を詠めるなんて素晴らしい! 詠めるなら早く聞かせてよ〜」とせがむ。〔……〕「そもそも何の歌なの?」と興味津々だ。この子はさすがに恥ずかしくて、口をつぐんだが、無理やり言わせた歌は次の通りだった。
「帰る人も残る人も別れを悲しみ、川の水のように流れてくる涙で袖を濡らしている。その涙川はまるで水嵩が増して岸が濡れるように、袖もぐっしょり濡らすのです」
幼い子がこんなにも上手に詠むものだろうか。そこまで感心するのは、その子が可愛いからだろうか、とにかくとても思いがけないことだった。
幼い子供の歌にもかかわらず、贈歌にきちんと対応しており、歌のやり取りの基本がしっかりと抑えられている。しかし、子供の作った歌を送り返すわけにはいかないので、大人が詠んだかのように見繕うという形でこのエピソードが終わる。
ウケ狙いのくだりとはいえ、酔い潰れている童の次に、大人よりTPOをわきまえた行動ができて、歌まで作れちゃう童が登場するとは……この一行は一体どうなっているのか、と疑問に思わずにはいられない。
しかも、読み進めれば読み進めるほど新たな不思議にぶち当たる。そもそも女のふりをして書いているという時点で自由すぎるが、作者の紀貫之先生は妙に不自然なディテールにこだわっているように思える。
どこに向かっているのかわからない航海
たとえば、出発して数日が過ぎ去った九日の記事。
かくあるを見つゝ漕ぎ行くまにまに、山も海もみなくれ、夜更けて、西東も見えずして、天気のこと楫取の心にまかせつ。男もならはねばいとも心細し。まして女は船底に頭をつきあてゝねをのみぞなく。
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