日本発ラグジュアリーブランドが生まれない理由 製品開発論研究者が語る日本流ものづくりの限界
東洋経済オンライン / 2023年12月19日 11時0分
さまざまな消費財の分野で、日本には優れたものづくり力や、才能あるデザイナー、そして消費者の目も肥えている。そこに目を向ければ、日本からラグジュアリーブランドが輩出される要素は揃っているように見える。しかし、なぜ日本から世界的なラグジュアリーブランドは生まれないのか。
先日、コロナ危機後に、破壊と変革を繰り返し、ますます成長する世界の各ブランドの最新動向をまとめた『世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか?』が邦訳出版された。
同書に関連し、日本でのラグジュアリーブランドの可能性について、ロングセラーの経営書『新しい市場のつくりかた』の著者で、日本のものづくりやラグジュアリー分野にも造詣の深い、経営学者の三宅秀道氏に論じてもらった。
丁寧なものづくりメーカーからの相談
非常に丁寧なものづくりで知られる、あるバッグメーカーの社長さんから、「うちもいつか、ヨーロッパの有名ブランドみたいな、ラグジュアリーのブランドになれるでしょうか?」と聞かれたことがある。
これは正直、非常に答えに困る問いである。そうした問いにこちらも本気で向き合うとしたら、それこそ何日も説明した末に、最後の結論はこうなるだろう。
「社長さん、御社のスタッフの皆さんのものづくりは素晴らしいです、それは工場を拝見してつくづく実感しました。でも、御社がここからラグジュアリーブランドになるためには、今のままでは、非常に難しいです。
特に課題となるのは、社長さん、あなたの『ラグジュアリーとはこういうものだ』というものの見方、つまり、ラグジュアリー観です。そこからガラッと変えることができますか?」
こんなことを実務家の人に言うにも、誤解されずに十分にこちらの意を尽くすように伝えるのは難しい。相手のものの見方の根本から、覆そうとする物言いになってしまう。実際には口にせず、こちらの胸にずっと苦いもどかしさがわだかまってきた。
ラグジュアリーへの「哲学」が欠けている
筆者は縁あって、日本の工芸やファッションアパレル業界の調査取材の機会に恵まれてきた。また、2017年から2019年にかけて、フランスのEHESS(社会科学高等研究院)の国際共同研究プロジェクトに参加して、日仏のクラフト業界の比較調査に加わった。
このプロジェクトはLVMHの本社がスポンサーとなり、調査協力も得られたので、非常に貴重な知見を得られた。
さまざまな消費財の分野で、日本には優れた技能を持つ職人人材も、また高品質の素材も、才能あるデザイナーも揃っている。消費者の目も肥えている。そこに目を向ければ、日本からラグジュアリーブランドが輩出される要素は揃っているように見える。
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