「後手に回らざるをえない台湾有事」に必要な戦略 トルコ元首相提唱「地理的歴史的深みの次元」
東洋経済オンライン / 2023年12月20日 9時0分
疫病と戦争で再強化される「国民国家」はどこへ向かうのか。拮抗する「民主主義と権威主義」のゆくえは。思想家の内田樹氏が、覇権国「アメリカ」と「中国」の比較統治論から読み解いた著書『街場の米中論』が、このほど上梓された。本稿では、同書の一部を抜粋してお届けする。
米中戦争のリスクを冒すのか
中国はこのあとどういう世界戦略を展開することになるのか。
このまま勢力圏を拡大し、一帯一路周辺国を勢力圏に繰り込み、新疆ウイグルの民族運動や香港の民主政を圧殺したように、次には台湾を武力制圧して、傀儡政権を作って事実上の併合を果たすのか。その場合に、米中戦争のリスクを冒すところまで踏み込むのか。
アメリカのメディアの論調を徴する限り、アメリカは台湾や尖閣諸島の領土問題で米中の全面戦争に踏み込む気はなさそうです。
遠い太平洋の向こうの島嶼の帰属にアメリカ国民の大半は関心がありません。地図の上で台湾と沖縄を区別できるアメリカ人がどれくらいいるでしょうか。
仮にホワイトハウスが台湾への軍事介入を望んでも、議会は(とくに共和党は)派兵に反対するでしょうし、イラク、アフガニスタンの失敗と、ウクライナ戦争の長期化に直面しているアメリカ民が「次の戦争」に積極的になるとは思われない。
でも、中国が台湾を軍事占領した場合、それは質の高い民主主義国家(台湾は「民主主義指数」で世界8位、アジアでは1位の国です)に住む2340万人が主権者の地位と市民的自由を奪われることを意味しています。
ワシントンがこれを放置した場合に、アメリカの東アジアにおけるプレゼンスは一気に低下します。「アメリカが台湾を見限ったために、2340万人の自由な市民たちが主権と自由を失った」という評価が下された場合、アメリカ国内では「しかたがない」という消極的支持が得られたとしても、アメリカの華人社会はアメリカへの帰属感を深く傷つけられるし、国際社会におけるアメリカの威信は文字どおり地に墜ちるでしょう。
ですから、アメリカは台湾では何も起きないままでいることを強く願っていると思います。でも、中国は違う。中国の国内世論は「台湾侵攻は早い方がいい」という意見が声高に叫ばれています。
私が館長を務める「凱風館」の門人で、日本企業で働く台湾の人がいま上海に出向していますが、先日一時帰国したときに、中国人の同僚たちから「もうすぐ君の国も中国の国土になるね」と笑いながらいわれるという驚くべき話をしてくれました。
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