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公安と検察の捏造に言及不足の大川原化工機判決 冤罪逮捕の社長らへの捜査の違法性は認める

東洋経済オンライン / 2023年12月30日 7時20分

判決では、複数の従業員が「測定口は温度が上がらない」と具体的に示しており、実験で確かめれば従業員の主張が正しいことを容易に確認できたのに、それをしなかったのは明らかな落ち度であると指摘。「必要な捜査を尽くしたとは到底言えない」として、公安部の逮捕や東京地検の起訴が国家賠償法違反だと結論づけた。

捜査にあたった時友仁警部補は、「従業員が『温度が低くなる』と言っている。もう一度測ったほうがいいのでは」と宮園警部に進言したが、宮園警部が「事件を潰す気か」と聞き入れなかったことを法廷で証言している。

「捜査を尽くさなかった」ことだけが問題?

捜査機関にとって都合の悪い証拠をあえて無視し、無辜(むこ)の人を逮捕・起訴することは重大な人権侵害である。

ただ判決は、「公訴提起が私人の心身、名誉財産等に多大な不利益を与え得ることを考慮すると、安易な公訴提起は許されないというべき」と指摘しつつも、あくまでも「捜査を尽くさなかった」ことをもって国賠法に違反するとした。次のように記されている。

「捜査段階で得られた証拠のうちに、有罪立証に合理的な疑いを生じさせる事情が認められた場合にはそれを否定するだけの十分な根拠を捜査において獲得すべきであるし、それができないのであれば公訴提起は行うべきではない」

今回の賠償訴訟では、公安部の取り調べのあり方も問題になった。判決では、取調官が違法な手法を用いて、供述を得ようとしたことを事実として認定した。

安積警部補が大川原化工機の島田順司取締役(当時)に、殺菌の解釈を誤解させたうえで供述調書に署名捺印するように仕向けたことについて、判決は「偽計を用いた取り調べといえるから国賠法上違法」とした。

島田氏の逮捕直後に弁解録取書を作成する際、島田氏の指摘に沿った修正をしたように装い、実際には島田氏が発言していない内容の同書を作成し署名捺印させたのも、「島田氏を欺罔(ぎもう)して島田氏の自由な意思決定を阻害した弁解録取書の作成であり国賠法上違法」と踏み込んだ判断を示した。この点は高田弁護士も評価している。

こうした偽計や欺罔は、事件を捏造するためのものに違いない。しかも、時友氏と同様に捜査にあたった濱崎賢太警部補が法廷で「(事件は)まあ、捏造。逮捕・勾留の必要はなく、起訴する理由もとくになかった」とまで証言している。

それでも、東京地裁の桃崎裁判長は捏造の構図にまでは踏み込まなかった。判決文には事件を指揮した張本人・宮園警部の名前すら出てこない。

謝罪と検証は急務

「警視庁と検察庁には、できれば謝罪と検証をお願いしたい」(大川原社長)。「2度と起こさせないために再発防止の検証をしていただきたい。それで今回の訴訟の目的が達成される」(島田取締役)。原告の大川原社長や島田取締役は、謝罪と再発防止のための検証を求めている。

今回の判決が「必要な捜査を尽くしていないこと」を骨子とし、捏造の構図まで踏み込んでいない以上、「今後はいっそう捜査を尽くす」の警視庁や検察庁の幹部の一言で片付けられるおそれがある。

だが、警視庁公安部や東京地検は大川原社長らに謝罪し、自ら検証をすべきではないか。自浄能力を発揮しなければ、公安部や地検の捜査に今後、国民が協力しなくなるかもしれない。そのことこそが捜査当局にとって避けるべき最悪の事態に違いないからだ。

山田 雄一郎:東洋経済 記者

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