Aマッソ加納「後悔は芸人の宿命なのかもしれない」 芸人がこの世で一番最高な仕事だと信じてる
東洋経済オンライン / 2024年1月2日 14時0分
人気お笑いコンビ・Aマッソの加納愛子さんが綴る、生まれ育った大阪での日々。何にでもなれる気がした無敵の「あの頃」を描くエッセイの、今回のテーマは「最高の仕事」です。
「後悔ばっかだよ」今後も避けられない芸人の宿命
ありふれた言葉だけれど、やはり人生にはさまざまな後悔がつきものだ。その感情をきちんと自分の中で受け止めているかどうかは別にして、どんな道を選んだとしても何ひとつ悔いることなく生きられている人はなかなかいない。
とくに芸人という職業は、舞台の上では目の前の人たちを笑わせることに集中しているものだから、自分でも驚くほど狭い視界での言動をしてしまうことがある。お客さんの前では強気に振る舞っていても、袖にはけた瞬間に「なんであんな事言ったんやろ」「あれも言えばよかった」と後悔に襲われることは日常茶飯事で、ほかのコンビを見てもたいてい楽屋に戻りながら「あそこごめん」「いや俺も」と移動式反省会を始めている。
ウケたときはまだいいのだが、スベった場合は目も当てられない。相方に「なんであんな事言ったん?」と言われても「いやそれは自分が一番思ってるから!」と理不尽に言い返す有様だ。
さらに、その出番が決め打ちではないトークや企画コーナーならば、つい先ほどの自分を恥じるだけですむが、漫才やコントなどのネタがうまくいかなかったときはとくにつらい。ネタを書いた自分や稽古をした自分など、その日に至るまでのいろんな自分を一気に否定しなければならないのだ。そうしてひどいときには「やらなければよかった」まで行き着く。
劇場では大勢のお客さんの前に立って自己顕示欲を満たしている一方で、毎日ジェットコースターのような自己肯定感急降下のリスクにさらされている。テレビで共演させてもらった大ベテランの先輩芸人も「後悔ばっかだよ」と嘆いていたから、これは今後も避けられない芸人の宿命なのであるのかもしれない。
後悔で言えば、私が新人の頃によく思っていたのは「あと少し早く、18歳で芸人を始めていれば」というものである。
今でこそ同期のありがたさを実感したり、大学時代の経験を生かせる機会があるおかげで、この年齢と芸歴で良かったと思えるが、当時はそうはいかなかった。実力が伴っていないのに偉そうに説教してくる先輩に対して、生返事をしながらも、内心「高卒で芸人始めとけばこいつにジュース買いにパシらせられたのに、くそ」と毒づいていた。
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