米中双方の行動論理の背景に潜む「思考のクセ」 「敗戦国の日本」はどのように振る舞うべきか
東洋経済オンライン / 2024年1月15日 10時0分
アメリカという変電所自体の変調を巧みにとらえていると思う。アメリカという国はこの1世紀の間、フローの処理装置としての能力はすでに限界に達しているというのが著者の見立てである。
アメリカの弱さと強さである「イノセンス」
私はここを読んだとき、もしかすると米中関係とは巷間考えられるのとはまるで違うのかもしれないと思った。
著者はアメリカの持つ宗教的性格とそれに伴う理念的性格をことさら取り上げている。自由と平等は目的が交錯しており、それに伴う渋滞が恒常的に発生しがちなポイントと見る。
「このある種の『イノセンス』がアメリカの弱さであり、強さでもあると僕は思います」(p.31)
ここでやはりというべきか、お得意の「葛藤論」を繰り出している。
「アメリカの統治システムは自由と平等という2つの原理の葛藤によって政情が不安定になると同時に、そこから活力を得てもいます。葛藤は人を成熟させる」(p.180)
葛藤は人を成熟させる──。なんと美しくも含蓄に富む一文だろう。
アメリカの潜り抜けてきた葛藤ぶりは、その中心性を構成すると同時に、世界に指導力を発揮させるうえでの電炉として作用してきた。ここは目に見えないボトルネックの働きだ。
著者は、そのような背景の1つとして、「国民国家の液状化」とそれへの疑念を提示している。さしあたり国民国家の歴史は意外に新しく、せいぜいのところ17世紀あたりまでにしか遡れない。宗教戦争の結果として、民族自決の原則や、資本主義、言語の統一など、いわば国家が発送電機関として作用し始めて以来である。
新たに巨大な変電所が建設されたようなもので、一方的なエネルギーの備給によって世が成立していた。いつしか世は線形に発展していくような楽観的な見方が支配していたのはつい昨日のことである。
だが、「大きな物語」は終焉した。少なくとも、そのような見方が出てきた。いわゆるポストモダン論である。ある特定の何かを目指して人々は生きているのではなく、それぞれの小さな無名の人々が世を通り過ぎ、その過程で一時停止したり沈思黙考するのが現代なのだと。
これはイデオロギーとかイズムの巨大な枠組みが決定要因なのではなく、1人ひとりの自由な考えや行動でこの世は成り立つとの世界観になるだろう。それは闊達な意見交換を可能にしてくれる一方で、「小さな物語」の膨大なフローとして成り立っているがために、陰謀説の温床ともなる。実はこれが現代という時代の宿痾なのだ。
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