ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実 ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい
東洋経済オンライン / 2024年1月21日 15時0分
時間とともに、私たちの細胞は適切に機能したり分裂したりする能力を失います。このプロセスは「セネセンス」(※2)と呼ばれます。それは脳細胞にも当てはまります。時間の経過とともに、紫外線、放射線、化学物質、通常の代謝プロセスで発生する活性酸素などから私たちのDNAは損傷を受けます。
(※2)細胞が一定の回数分裂すると、その細胞の分裂能力が失われ、増殖が停止する現象を指す。この状態の細胞は死んでいるわけではなく、一定の活動を続けている。セネセンスを経た細胞は、分泌物の変化や形態の変化など、様々な特徴を持つ。最終的には炎症反応の促進や組織の再生の妨げとなるなど、様々な負の影響を及ぼすようになる。
修復メカニズムは存在しますが、すべての場合において治せるものではなく、時間の経過とともに損傷は蓄積されていきます。一度失われた神経細胞は再生することが難しく、特にヒトの大脳皮質などの領域では新しい神経細胞がほとんど生まれないため、損傷や老化による神経細胞の損失は永続的なものとなります。
何らかの幹細胞を入れたからといって、失われた神経ネットワークの一部を元通りにすることはほぼ不可能です。つまり、脳の機能の永遠の維持は極めて困難なものと言えるでしょう。
脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因
脳は極めて複雑な神経細胞ネットワークの集合体であり、セネセンスを考慮すれば中枢神経系はいつしか衰退の一途をたどらざるをえません。それは体全体の制御、恒常性の調節にも支障をきたします。そういったところに問題が生じれば、脳も酸素や栄養素を十分に受け取れなくなります。
その負のスパイラルは生物個体としての死につながるでしょう。脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因の一つと言えますが、それぞれの臓器・組織においても似たことが言えます。
30兆を超える細胞から成り立つ、様々な臓器や組織が協調しながら成り立っている人体において、何か一つの問題が生じると連鎖的に他の箇所にも影響が及ぶことは避けられません。以上は私たちの細胞における問題点ですが、ほかの問題点として免疫系の老化が挙げられます。
特に免疫系の総司令官的な働きをするヘルパーT細胞の成熟には「胸腺」という臓器が欠かせません。しかし、胸腺は思春期頃をピークにして、徐々に脂肪組織に置き換えられて萎縮していきます。
そのため、成人を過ぎてからは年々、免疫応答の質と量は劣化の道をたどります。これも、何らかの臓器・組織の疾患につながる要素となり、死を近づけるものになるでしょう。
生物である限り、受け入れるしかない老化と死
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