1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「誰かを罰するのは当然か」問う『失敗の科学』 ベテラン機長が"容疑者"になった航空機事故

東洋経済オンライン / 2024年1月24日 17時0分

着陸準備に入った際、機体のオートパイロットは、ヒースロー空港から出ているふたつの誘導電波を受信できていなかった。

滑走路への進入方向(横位置)や降下経路(縦位置)を示して、機体を安全に導いてくれる誘導電波は、安全な着陸には欠かせない。受信できなければ、機体が滑走路から左右にずれていても、高度がずれていても判断できないからだ。

地上1000フィート(約300メートル)に到達するまでに誘導電波を受信できなければ「ゴーアラウンド」(着陸を断念して再上昇)する、というのが規定上のルールだった。

そして上空を旋回しながら問題が解消されるのを待つか、天候が比較的ましな空港に向かう。しかし機長は、地上1000フィートに到達した時点で誘導電波を受信できていなかったにもかかわらず、ルールを無視してさらに降下を続けた。

255人の乗客を乗せた機体は、その後地上750フィート(約230メートル)まで降下。そのとき機体は滑走路のはるか右に逸脱しており、外周のフェンスさえ越えて、空港沿いの高速道路と平行に飛行していた。しかし濃霧のため、クルーはその事実に気づいていない。そのまま降下を続ければ、いずれ高速道路沿いのホテル群に間違いなく衝突する。

地上125フィート(約40メートル)まで降下したとき、ようやく機長はゴーアラウンドの指示を出したが、ほんの一瞬遅かった。エンジンを加速して機首を上げ始めた時点で、機体はさらに50フィート(約15メートル)降下し、高速道路沿いのホテルの屋根をかすめた。

ノベンバー・オスカーは進入経路を修正し、無事にヒースロー空港に着陸。機内には乗客らの拍手が響いた。

間もなく事故調査が行われた。その後の報告によれば、あとほんの60
インチ(約1.5メートル)降下していたら、機体はホテルに突っ込んで、イギリスの航空史上最悪の大惨事になっていたという

しかし事故から18カ月後の1991年5月8日。ロンドン西部のアイズルワース刑事法院において、機長は、「過失により旅客機とその乗客を危険に陥れた」として有罪を宣告された。

ベテランのパイロットが犯罪者となった瞬間だ。しかし実際は何があったのだろう?

詳細を知ると見方が変わる

今度は詳細を追って見てみよう。

事故の2日前、モーリシャスでクルーたちは一緒に夕食をとってゆっくりと羽を伸ばしていた。だが2日後、次のフライトのためバーレーンに到着した頃には、大変なことになっていた。ほぼ全員が胃腸炎に見舞われていたのだ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください