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健康の人から「便を移植する」と体に何が起るのか 腸内の悪い菌と戦う「IgA抗体」って何?

東洋経済オンライン / 2024年1月26日 18時0分

新藏:はい。ただ、科学的な決まりはまだないんです。「この病気になる人は、この細菌が増えている」とか「この病気になる人は、この細菌が作る代謝物が増えている」といったことが少しずつわかっているという段階です。

だから、「いい代謝物を飲もう」「悪い代謝物だけを腸から取り除こう」といったことをいろいろと試しています。あと、聞いたことがあるかもしれませんが「便移植」という方法もあります。健康な人のうんちをもらってきて、それを飲むとか。

瀧口:便を移植するということですか。

新藏:はい。その便の中にはきっといい腸内細菌がいるので、それをそのまま移植するという方法です。腸の中は限られたスペースで、限られた栄養しかないので、それぞれの菌が陣地を取り合っている状態です。ですから、自分のお腹の中にいい菌がいっぱい住んでいる人は、外から悪い病原菌が入ってきても、いい菌がやっつけてくれて病気にならない。

反対に悪い菌が多い人にいくらいい菌を入れても、排除されてしまいます。そこで、私はIgA抗体で悪い菌を減らして陣地を作って、その後にいい菌を補充するというアプローチを目指しています。

瀧口:IgA抗体は、悪い菌をやっつける抗体なんですね。

新藏:そうです。私たちのお腹の中には、100種類以上の腸内細菌がいます。それと同じように、リンパ球から作られるIgAも何百種類とあります。

例えば、有名な免疫療法薬の「オプジーボ」を3~5g作ろうとするだけでも、工場で300L~500Lのタンクに入れて培養しなければなりません。ですが、私たちのお腹の中では、成人であれば1日に3~5gのIgA抗体を毎日分泌していて、腸内細菌と戦ってくれています。私たちの腸は、それくらいすごい量の抗体を作る工場なんです。

そして、そのIgA抗体には悪い菌だけをやっつけてくれるものと、乳酸菌やビフィズス菌などのいい菌を「あなたたちは、ずっとお腹の中にいなさい」と指示を出しているものがあります。私は、お腹の調子を悪くする悪い菌だけを選択的に抑制するIgAを取ってきて薬にしようと思っています。

加藤真平(以下、加藤):腸内について研究している先生方は、IgA抗体はご存じなんですか。

合田圭介:名前は知っています。ただ、本当に膨大な種類があるので、1個1個の機能などはわかりません。

新藏:おっしゃる通りです。IgA抗体がいいというのはわかっています。ですが、例えば悪い菌の代表である大腸菌と相互作用させたときに、IgA抗体が大腸菌に何をしているのかがわからないんです。細胞表面に着くということはわかっているんですけど、くっついた後に何をするのかがわからない。

ただ、世の中にはIgA抗体がない人がいて、そういう人はやはり腸内細菌があまりいい状態にはなっていません。今の研究ではIgA抗体が非常に重要な働きをしているということしかわからないんです。

便を移植されると、性格が変わる

合田:新藏先生にお聞きしたいんですが、便移植した後に、その人の性格が変わったという報告があるんですが、本当なんですか。

新藏:どうなんだろう。「本当かな?」とは思います。でも、違う菌が入ると、その菌の作った代謝産物が神経系にも影響を及ぼすことは十分に考えられます。腸内細菌を変えることができたら、いろんな病気に効果があると思うので、私は健康長寿のために腸内細菌をIgA抗体でよくして病気の発症をなるべく減らしたいです。それが夢ですね。

新藏 礼子:定量生命科学研究所免疫・感染制御研究分野教授

瀧口 友里奈:経済キャスター

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