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元服、結婚と順風満帆でもかなわぬ「光君の思い」 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・桐壺⑥

東洋経済オンライン / 2024年1月28日 16時0分

加冠の儀を行った左大臣には、皇女である妻とのあいだにひとり娘がおり、たいせつに育てている。この姫君を東宮の后(きさき)として迎えたいと所望されてもいるが、左大臣は決心できかねている。というのもこの光君にこそ嫁がせたいと思っているからである。そこで、元服のこの時とばかり帝に意向を訊いてみると、

「元服して一人前となったのに、世話をする人もいないようだから、妻としたらいいのではないか」

との答えなので、左大臣もすっかり心を決めた。

夫となる光君

光君は休息所に退出し、人々が祝いの宴で酒を飲んでいる中、親王たちの末席に座った。隣に座った左大臣が、姫君のことをそれとなくほのめかすのだが、そういうことの恥ずかしい年頃である光君は、これといった返事もせずにいる。

御前に来るようにとの帝の言葉を内侍(ないし)が左大臣に伝えにくる。参上すると、帝付きの命婦(みょうぶ)を取り次ぎとして、褒美の品々が渡される。慣例の通り、白い大袿(おおうちき)に御衣(おんぞ)一揃いである。盃(さかずき)を受ける折に、あらためて帝から結婚の念を押される。

いときなきはつもとゆひに長き世を契(ちぎ)る心は結びこめつや
(幼い君がはじめて結んだ元結(もとゆい)に、あなたの娘との末永い縁を約束する気持ちを結びこめたか)

結びつる心も深きもとゆひに濃(こ)きむらさきの色しあせずは
(深い心をこめて結んだ元結ですから、その濃い紫の色があせないように、光君の御心も変わることがもしなければ、どんなにかうれしいでしょう)

左大臣はそう応え、長橋(ながはし)から東庭に降りて拝舞をする。帝は馬寮(めりょう)の馬、蔵人所(くろうどどころ)の鷹(たか)を、さらなる褒美として与える。清涼殿正面の階段の下に親王や上達部(かんだちめ)が立ち並び、彼らもまた、それぞれの位に応じて褒美を受け取る。その日の、光君から帝に献上する品々、肴(さかな)の入った折櫃物(おりびつもの)、果物を詰めた籠物(こもの)などは、右大弁(うだいべん)が調えた。下々の役人用に弁当、反物の入った唐櫃(からびつ)など、置ききれないほどの品々が東庭に並び、東宮の元服の時よりもかえってはなやかで盛大な儀式となった。

左大臣と右大臣

その夜、光君は宮中から左大臣の邸(やしき)へと退出した。左大臣は婿入りの儀式を、前例もないほど立派に調えて丁重に光君をもてなす。光君はまだあどけなく、子どもっぽさが残っているが、左大臣たちはその様子を、畏れ多いほどうつくしい方だと思うのだった。光君より少し年上の姫君は、夫となる光君が自分より若いことに引け目を感じ、不釣り合いなのではないかと恥ずかしく思っている。

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