「経済成長か貧しい暮らしか」という二項対立の罠 日本が「脱成長」のロールモデルになれる理由
東洋経済オンライン / 2024年1月31日 10時0分
少子高齢化によって経済成長が減速している日本は、脱成長への新しい社会のロールモデルになるチャンスと言えます。
日本の経済成長の減速には、イノベーションも停滞しているという問題もありますが、アメリカと比較すれば寿命は長く、治安もいい。義務教育のレベルも高い。自然環境も豊かで、食べ物も美味しく、温泉が湧き、都市部では公共交通機関もしっかり発達しています。
ジェンダー平等や脱炭素化など改善していくべき課題もありますが、GDPで計れない豊かさはある。今後急速に人口が減っていくなかで、これをどう継承・発展させながら、軟着陸させていくかです。日本がうまくいけば、今後少子高齢化が進んでいく先進国に対して、いちばん先行した脱成長のロールモデルになれる可能性があると考えています。
もちろん、そのためには、いろいろなイノベーションが必要です。けれども、イノベーションといっても、自動運転とか、AIだけがイノベーションでない。たとえば、ヒッケル氏は自転車だって、環境に優しい技術としてもっと再評価できると指摘しています。
ポイントは、社会的インフラの整備です。自動車中心の社会から、自転車や公共交通機関で生活できるコンパクトシティや交通網の整備が必要になる。これこそ、スマートシティよりも、必要なイノベーションではないでしょうか。
そうした改革を行っても、一気に市場のない世界になるわけではありません。けれども、資本主義の内部での改良から始めたとしても、脱炭素税の導入、累進課税の強化、広告削減などを積み重ねた先は、もはや資本主義とは呼べない社会に移行しているでしょう。私はこれを「ラディカルな改良主義」と呼んでいます。
私は、お金や資本、商品の論理によって囚われていない空間を「コモン」と呼んでいます。資本主義の論理から少し半身になって暮らし、考え、行動できるような「コモンの自治」の領域を、今の世界の自分たちの暮らしの中に取り戻していくことができれば、人々の発想や行動も変わっていくのではないかと期待しているのです。
(構成:泉美木蘭)
斎藤 幸平:東京大学大学院准教授
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