ペルシア時代の面影残る「イラン」の高速道路(1) 世界遺産も多い大国の大都市を結ぶ交通網
東洋経済オンライン / 2024年2月2日 12時10分
2023年の暮れから新年にかけて1週間ほど、中東のイランに滞在し、高速道路をつぶさに見ることができた。
【写真】ペルセポリスほか世界遺産の多い国「イラン」の高速道路を走った
イスラム革命やイラン・イラク戦争、そしてアメリカからの経済制裁やパレスチナのハマスへの支援など、何かと危険なイメージが付きまとう国だが、世界遺産は日本を上回る27件を数え、一時はオリエント全土を支配したペルシア帝国の流れをくむ、豊かな歴史と文化を持つ国であり、観光資源も豊富にある。
そこで垣間見た中東の大国の高速道路最新事情を紹介したい。
最高速度は120km/h、分散する大都市を結ぶ
イランは、東がパキスタンやアフガニスタン、西はトルコやイラクと接し、北にカスピ海、南にペルシア湾を抱える高原と砂漠の国である。面積は日本のおよそ4倍、人口は8900万人(2022年現在)だ。
首都はテヘランで、都市圏人口が1300万人に達する大都会だが、それ以外の大都市は国土全体に分散しているため、それらをつなぐ高速道路が充実している。
イランには鉄道網もあるが利便性は低く、都市間輸送は長距離バスとマイカーに依存しているといってよいだろう。自動車はすべて輸入車か外国ブランドの自国生産のため比較的高価
テヘランや第3の都市エスファハンでは、市内の渋滞も多いし、高速道路でも大都市近郊では混雑が目立っていた。
今回はレンタカーではなく、現地人ガイドが乗るツアーバスで移動したため、自分で運転した実感はないものの、ゆっくり観察するにはちょうどよい旅となった。
イランのハイウェイは原則片側2車線で、主要な区間では片側3車線の部分も多い。最高速度は乗用車120km/h・大型車110km/hの区間と、乗用車110km/h・大型車100km/hの区間が混在する。
通行は有料で、都市郊外に料金所が設置。料金所のブースを通過する際にカメラがナンバーを読み取り、後日ひもづけされた口座から料金が引き落とされる方式だ。
通過数日後に、通過区間と料金がスマホを通じて利用者に通知され、口座の残高が足りずに引き落とされないという事態を防止する注意喚起を行っている。
今回の移動で、日本にはないシステムが採られていることを知った。それは、バス運転手の労働時間規制のための警察によるチェックである。
ツアーバスの運転手は、都市の郊外にある交通警察のチェックポイントで必ず下車し、チェックを受けなくてはならないという。
ガイドの説明によると、これは長距離の路線バスやツアーバスの運転手に義務づけられていて、乗客の安全を図るためもあって、労働時間を管理するための法律によるものだそうだ。
また、もう1つイランらしいと感じたのは、アフガニスタン方面からくる高速道路に麻薬をチェックするための検問所があったこと。
アフガニスタンは、しばらく前までアヘンの生産量が世界一で、イランはそのアヘンの陸路での密輸ルートになっていた。そのため、専用の取り締まりの検問所が設けられているのである。
キャラバン・サライとカナート、雄大な車窓景観
イランの高速道路を走行していて最も印象的だったのは、その雄大な車窓景観だ。見わたす限りに地平線が広がる砂漠の中を走るルートもあれば、木1本生えていない岩山が迫る道路もある。
またイランには、アルボルズ山脈、ザグロス山脈という2本の大きな山脈が走っており、どちらも標高4000mをはるかに超える。今回、訪れたのは真冬だったため、高峰は冠雪しておりその眺めも見事だった。
車窓風景でもう1つイランらしさを感じさせるのは、「キャラバン・サライ」と「カナート」である。
イランは古代、中国とローマを結ぶシルクロードが通過する交易路でもあった。荷物を積んだラクダと商人が宿泊するために数十キロごとに設けられたのが、キャラバン・サライ、つまり隊商宿であり、往時の建物がそのまま残っているところも少なくない。
2000年前のシルクロードと隊商宿が、現在の高速道路とサービスエリアに引き継がれているようで、そのつながりを強く感じることができた。
イランには紀元前のアケメネス朝ペルシア時代に、「王の道」が作られている。こうしてみると、イランの経済や文化にとって、いかに道路が重要であり続けたのかが伝わってくる。
なお、東京からトルコの西端、ヨーロッパの国境までを結ぶアジアハイウェイ(アジア32カ国を走る全長14.1万kmの道路網)の主要ルートである1号線(AH1)は、アフガニスタンからテヘランを経てトルコへとつながっており、イランの高速道路の一部もAH1に指定されているほか、2号線などもイランを通過している。
一見砂漠や高山ばかりに見えるイランは、一大農産国でもある。野菜やフルーツ、ナッツ類の生産高も多く、農産物の自給率は90%に達する。その秘密は、砂漠の地下に張り巡らされた「カナート(地下用水路)」にある。扇状地の地下水を水源とし、蒸発を防ぐため地下に造られた灌漑施設だ。
バスに乗っていると、砂漠の中に数メートルおきに土が盛り上がっているところが見える。これが地下を掘った井戸のあとで、今も通風や修理に使われているそうだ。「ペルシア式カナート」は2016年に、「イランのキャラバン・サライ」は2023年に、それぞれ代表的な施設が世界遺産に登録されている。
ペルセポリスほか世界遺産をめぐって
今回の旅では上記のカナートの1つも含め、イランにある27件の世界遺産のうち8件を訪れることができた。
その多くが、ペルシア文化の神髄を体現する壮麗な遺跡や建造物で、中でもイランのみならず世界的に知られる古代遺跡「ペルセポリス」や、16世紀末に建国し、17世紀にかけて繁栄を極めたサファヴィー朝の都が置かれたエスファハンの2件の世界遺産「エスファハンのイマーム広場」「エスファハンのマスジェデ・ジャーメ(金曜日のモスク)」などは、本当に見応えがあった。
ちなみに、先にあまり利便性が高くないと述べたイランの鉄道も、「イラン縦貫鉄道」として2021年に世界遺産に登録されている。次回は、イランの高速道路のサービスエリアについてお伝えしたい。
佐滝 剛弘:城西国際大学教授
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