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通勤快速廃止で炎上、京葉線ダイヤ「3つの疑問」 快速の各駅停車化で「混雑の偏り」は解消する?

東洋経済オンライン / 2024年2月3日 6時30分

2024年3月のダイヤ改正で廃止される京葉線の通勤快速(編集部撮影)

2024年春のJRのダイヤ改正は、今回も例年通り前年の12月中旬に発表された。その中で、前代未聞の「改悪」により物議を醸しているのが、東京ディズニーランドや幕張メッセでおなじみの京葉線だ。

【図】京葉線「快速が停車しない駅」はどれだけある?

ダイヤ改正の内容は、朝夕通勤時間帯の快速と、現行で平日に2往復ある蘇我駅―新木場駅間の12駅を通過する「通勤快速」が廃止となり各駅停車化、通勤時の所要時間は約20分延びるというもので、発表後すぐに各方面から批判が殺到。「わくわく ぞくぞく 京葉線」のキャッチコピーを掲げる同線は今、「ブーイングぞくぞく京葉線」となっているのだ。

反発は予想していた?

このダイヤ改正について批判の口火を切ったのは千葉市の神谷市長。発表直後に「とても容認できない極端な変更」などとコメントした。沿線住民からもブーイングが上がっている。京葉線で都内へ通勤する筆者の母は「迷惑だよね。各駅停車で乗車時間長くなって立って帰るのはイヤだなぁ」と、通勤時間の増加にげっそりだ。しかも八丁堀駅からの乗車で、始発ではないため座ることはできず、乗車時間は34分から最大46分に拡大する。

JR東日本の土澤千葉支社長は「(改正について)丁寧に説明していく」と、岸田総理の増税会見と瓜二つの表現で理解を求めたが、通勤快速始発駅の上総一ノ宮駅がある一宮町の馬淵町長からは「公共交通機関としての自覚をかなぐり捨てた暴挙」と返される始末。JR東日本は1月15日、朝の上り快速2本は残すと表明した。

このような反発は予想していなかったのか。JR東日本千葉支社に質問すると、「とくに蘇我以遠の通勤快速や快速をご利用されているお客さまからはご意見を頂戴することは想定しておりました」とのことであった。

JRが説明するダイヤ改正の理由には疑問点が3つある。まず1つ目は、通勤快速・快速を各駅停車化する理由の1つに「快速が停車しない駅の利便性を高めること」を挙げている点だ。

快速通過駅は、武蔵野線直通列車と合わせて夕ラッシュ時でも1時間に10本程度の停車があり、決して少ない本数ではない。駅の利用者数も、例えば新習志野駅は快速が停まる新浦安駅や海浜幕張駅の2割程度、二俣新町駅に至っては1割にも満たないのである。利用が少ない駅のために、多数の快速停車駅利用者と房総方面の住民の利便性を損ねるのではないか。とくに海浜幕張駅については、快速減便で幕張メッセでの開催予定のイベントを見直すという事業者もあり、イベントが減れば京葉線も減収になる。

これについてJR千葉支社は「便益についてはさまざまな捉え方があることは承知していますが、快速通過駅では、快速列車の運転によりダイヤ調整が困難な場合などで朝の通勤時間帯に最大で22分程度開いているような時間もございます」と説明する。だが、それはもともと本数が少ないラッシュ前の時間帯の例である。また、朝ラッシュ時間帯に通勤快速の影響で間隔が20分も開いていることはない。

混雑の偏りは快速のせいなのか?

2つ目は、混雑の偏重をなくすために快速の各駅停車化が必要だとしている点だ。だが、現状で混雑が偏っているとすれば、一定のパターンで列車が来ない「不整脈ダイヤ」とでも言うべき状況が原因ではないだろうか。

例えば17時台後半~18時台の1時間に10本ある各駅停車を見ると、3〜13分間隔とかなり不揃いだ。快速だけに限ってみても間隔は均等でない。

これについてJR千葉支社は「京葉線は武蔵野線との調整、内房・外房線に直通する特急・快速列車など他線区と比べても多くの調整が伴う線区です。現状のダイヤでは、特に快速等の運行本数が多い時間帯については各駅停車しか停車しない駅をご利用されるお客さまの運転間隔を極力考慮する必要があり、またそれらの列車と特急や快速等とのバランスを考慮する必要があります」としている。

複数線区が複雑に絡むなら、なおのことダイヤパターンやダイヤのサイクル長を統一して調整すべきではないか。例えば、東京メトロ副都心線や東急・相鉄新横浜線が絡むネットワークでは、東京メトロや東急、相鉄など8つもの社局で30分間に各駅停車何本、急行何本といった具合にダイヤを調整して混雑バランスと速達サービスを両立している。運転間隔も度が過ぎるレベルの不均衡はない。

ダイヤ改正の際、他社・他線区の例は参考にしないのだろうか。JR千葉支社に聞いてみると「他社線区の状況は把握していますが、線区ごとに状況が異なり、他線区の事例を単純に適用するのは困難と考えております」という。だが、私鉄では会社が違っても協力してできていることである。

また、東京駅では特急と快速が連続して発車する時間帯もあり、これでは各駅停車の間隔が拡がるのも当然である。これについては「蘇我駅で総武快速線からの内房・外房線直通列車と同一ホームで双方向に接続を取る体系としているため、東京駅の発車時間が限定される」ためという。だが、これも疑問である。蘇我駅で接続する内房線・外房線は千葉始発の列車もあるのに、接続を取るのは総武快速線からの直通列車でなくてはいけないのだろうか。JRはもっと柔軟に対応し、ダイヤの自由度を高めるべきだ。

このような「不整脈ダイヤ」はJR各線に目立つ。その理由について、京葉線沿線に住む交通評論家の佐藤信之氏は「私鉄は儲けなければならないのでサービスのいいダイヤにしようとするが、国鉄は安全に運べればいいという発想だった。JRになってもそれは変わらず、(輸送力の不足があれば)既存のダイヤに改正のつど隙間に増発するという考え方だから間隔がバラツキやすい」という。

私鉄のような発想なら、例えば京葉線と武蔵野線それぞれを各駅停車10分おき、両線併せて4〜6分おきとし、東京駅00・30分発を新木場、海浜幕張停車の特急、10・20・40・50分発を海浜幕張停車の通勤快速としたうえで快速を廃止するといった具合に、混雑バランスと速達サービスを両立できるだろう。

廃止の通勤快速と同時間帯に特急が

3つ目の疑問点は、「通勤快速の各駅停車化」という説明そのものだ。佐藤信之氏は「通勤快速とほぼ同じ時刻に特急を入れ、さらに各駅停車を1本削減とも書いている。単に通勤快速を特急化して料金を取ろうとしているとしか思えない」と指摘する。

確かにダイヤ改正の発表を見ると、蘇我7時44分発・東京8時26分着の通勤快速がなくなる一方、新設の特急は蘇我7時39分発・東京8時25分着とほぼ同じ時間帯だ。20分早起きするか、特急料金を払うかの選択を迫っているかのようだ。しかも所要時間は42分から46分へと4分長くなっている。

特急の運転とそのダイヤについてJR千葉支社は、「特急列車については一部沿線の自治体から要望をいただくなど、着席サービスに対するニーズにお応えしたいと考えております」としたうえで、「しかしながら、朝の通勤ピーク時間帯は、普通列車同士の運転間隔の調整や混雑の平準化もあわせて実施する必要があるため、線区全体のバランスをみて、特急列車や普通列車のダイヤを計画しております」と説明する。通勤快速の利用者に正面から向き合っているとは言いがたい。

通勤快速の代わりにほぼ同時間帯に新設される特急。それならば、八丁堀駅利用者や臨海副都心方面への通勤需要を狙って新木場にも停めればいいのではないかと思えるが、この列車は蘇我―東京間無停車だ。JR千葉支社は「特急列車の停車駅については、お客さまのご利用が見込まれる駅やご利用が見込まれる時間帯等を踏まえて検討を行っております」と説明する。これでは現在、新木場まで通勤快速を使っている通勤客は無視のように受け取れる。

JRが京葉線のサービス向上に意欲的になれないであろう構造的要因はある。まず京葉線には競合路線があるようでない。総武線は自社線であり、京成は競争力としては論外だ。だが並行路線ばかりが競合ではない。沿線価値向上を考えてダイヤ改善に余念がない私鉄は多い。家を買った後に利便性が低下するかもしれないとなれば、JR沿線は居住地の選択肢から外されていくだろう。

世間のダイヤへの「無関心」も要因では

また、背景には旅客減少もあるようだ。京葉線はコロナ禍後の利用回復が遅く、コロナ禍以前の7~8割程度とされる。ただ、千葉県統計局のデータによると同線の利用者数は2013年から2018年にかけて1日当たり約1万8000人増加しており、沿線人口の減少などはない。コロナ禍以外に減少する要因は見当たらないが、他線より回復が遅いのだ。

その要因の1つとして、2022年のダイヤ改正で快速・通勤快速を減便したこともあるのではないか。佐藤信之氏は「こんなダイヤでは客が減って当たり前だろう。客が減っているなら、普通の企業ならサービス向上して客を増やそうとするが、なぜ世間と逆行しているのか」と疑問を呈す。

これについてJR千葉支社は「現在もコロナ禍前の約7~8割程度のご利用状況です。コロナ禍が終息しても、テレワークをはじめとした働き方の変化や少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少などにより、コロナ禍前のご利用状況までは回復しないと考えております。上記要因について、各沿線において状況が異なることから、線区ごとにご利用の回復状況に差が出ているものと考えております」と説明する。

京葉線の利用回復の遅さは仕方がないと考えているとも受け取れる。これではテレワークから通勤需要が戻らないどころか、さらなる通勤離れを生みそうだ。JRにはこれ以上お客が減ってはいけないという危機感が見られない。

いかがだったであろうか。あるテレビ番組でJR東日本の社長は「鉄道会社がこんなことやるの?と思われるくらいの鉄道会社を目指していきたい」と意気込んでいたが、ある意味ではその期待を裏切らなかったのが今回の騒動といえる。

一方で、これまでも少しずつ朝の快速廃止や通勤快速の減便などが行われてきた中、声を上げた沿線自治体や住民はあっただろうか? 生活に直結する列車ダイヤへの世論の無関心が、今回の「暴挙」を許したという面も大いにあるはずだ。これからも筆者は先陣を切って列車ダイヤの議論が盛り上がるように活動してまいりたい。

北村 幸太郎:鉄道ジャーナリスト

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