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GDPでドイツに抜かれても「日本の株高」続くなぜ 購買力ベースでは1970年代並みになった

東洋経済オンライン / 2024年2月4日 10時0分

2022年から生じた円安は、下図に見るように、歴史的にもまれなほど急激な変動であった。1990年代末、2013年から2015年頃に進行した円安に匹敵する。これら2回は、それまで円高が進んでいたのを取り戻すという意味が強かったが、今回はそうでない。

なお、1990年代前半には、かなり急激な円高が生じた。ドル円レートは、1990年には1ドル150円程度だったが、1995年には100円程度になった(一時は80円台にまで円高になった)。

円安になれば、円ベースでの輸出企業の売り上げが増える。一方、原価上昇分は製品価格に転嫁する。したがって、利益が自動的に増え、これに伴って株価が上がる。

しかし、転嫁された原価上昇は、最終的には消費者物価に転嫁されるので、実質賃金が下落する。実際、日本の実質賃金は、継続して下落している。こうして、所得分配が不平等化する。

円安になれば、日本は、外国のものを買いにくくなる。また、労働力不足を緩和する手助けになる外国人労働力を得にくくなる。さらに、日本人の学生が外国に留学できなくなる。こうした意味で、円安は、日本人を貧しくする。

購買力で見ると、現在の日本は、1970年代初めの固定為替レートの時代まで貧しくなってしまった。

円で評価した1人当たりGDPは、1980年代の後半には上昇しなくなっていた。しかし、為替レートが円高になったので、ドル建てでは、値が増えていったのだ。

今回は円安への変化が急だったので、販売価格への転嫁が難しいかと考えられていたが、企業は、かなり転嫁したようだ。その結果、消費者物価が上昇し、実質賃金が減少した。

だから、株価が上がっているのは、日本が豊かになっていることを意味するのではない。所得分配が不平等になっていることを意味するのだ。

企業の利益が増えても、それは、帳簿上のものにすぎない。実際、鉱工業生産指数に見られる生産活動は、ほとんど不変だ。

構造的変化と一時的な変化の違い

以上で見たように、日独逆転と株価上昇は、矛盾するものではない。

しかし、ここで重要なのは、この2つは性格が異なるということだ。日独逆転は、構造的で長期的な趨勢によっていずれは起きることだ。円安は、その実現時点を早めただけだ。

それに対して、株価上昇は、新技術や産業構造高度化などの構造的要因によって生じているのではなく、したがって、長期的趨勢ではない。

その要因である円安は、今後も続く保証はない。今後、日銀が金融正常化を進めれば、円高が進んで企業利益は減少するかもしれない。だから、株価上昇の基盤はきわめて脆弱なものだと考えざるをえない。

野口 悠紀雄:一橋大学名誉教授

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