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人工知能が私たちの仕事を奪う経済学的な根拠 AI失業を軽視する考えはどこがおかしいのか?

東洋経済オンライン / 2024年2月5日 17時0分

たとえば、デザイナーという職業は生成AIの普及によって雇用が減少するでしょうが、消滅するとは断言できません。その理由は、AIにはない独自性が発揮できる人であれば、今後も活躍できるからです。それでも、若手のデザイナーで一生食いっぱぐれないと考えている人がいたら、よっぽど才能のある人でない限り、能天気と言わざるを得ないでしょう。デザイナーの雇用は減る可能性が高いからです。

AI失業は大した問題にはならない?

2013年に、オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏は、「雇用の未来 」という論文を発表しました。この論文では、アメリカの労働者のうち、47%もの人が従事する職業が10~20年後に消滅すると主張されており、AI失業に関する世界的な議論を巻き起こしました。

もしも労働者の5割近くもが仕事を失うのであれば、それは確かに大変な問題です。「雇用の未来」に対する反論の多くは、1つの職業には多数のタスクがあるというものでした。ITやAI、ロボットが奪うのは、たいがい多数のタスクのうちの1つや2つであり、大半ではない。したがって、職業の消滅はそれほど多くは起こらないというのです。

そのため、2018年頃には「AI失業は大した問題にはならない」という何となくのコンセンサスが経済学者の間で形成され、私のようにAI失業を警告する人の声はかき消されてしまいました。

しかし、そのコンセンサスこそが、ミスリーディングなゼロイチ思考の産物なのです。それは具体的にはこういう思考です。

スーパーの店員にはレジ打ちのほかに商品の発注や陳列といったタスクがある。このうち、セルフレジがレジ打ちのタスクを消滅させたとしても、ほかのタスクは残る。ゆえにスーパーの店員という職業は消滅しない。このような結論が出たとしても、レジ打ちのタスクがなくなる分、雇用の何割かが減少する可能性は残ります。そうであれば、スーパーの店員が失業にさらされないとは言えないでしょう。

もう1つ、AI失業に関する議論をミスリードしているのは、「人間を代替する技術」は雇用を奪う可能性があるが、「人間の能力を拡張する技術」は雇用を奪わず、むしろ生産性を高めるといった主張です。

たとえば、レジ係とセルフレジは代替的です。それに対して、パワーポイントのスライドを作成してくれるAIは、私たちの能力を拡張するものと考えられます。営業で頻繁にパワーポイントを使う人は、こうしたAIが登場することによって労力を節約でき、その分より多くの仕事をこなせるようになります。こうして、拡張的な技術は生産性を向上させることができるというわけです。

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