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2大悪弊が2025年「緊縮ナシで財政黒字化」を阻む 足元の経済対策が後を引く「基金」と「補正予算」

東洋経済オンライン / 2024年2月5日 8時0分

収支見通しは改善してきたものの、まだ赤字(写真:uotaxx / PIXTA)

1月22日に、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(中長期試算)を公表した。この中長期試算の最も注目される点の1つは、「2025年度の国と地方の基礎的財政収支の黒字化は達成できるか」である。

2024年1月の中長期試算によると、2025年度の名目成長率を2.8%と見込む成長実現ケースでは、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、1.1兆円の赤字となるという。

このままでは、2025年度の基礎的財政収支は黒字化できないということになる。

ただ、これまで取り組んできた歳出の効率化努力を引き続き2025年度にも行えば、基礎的財政収支はごくわずかな黒字となり、ぎりぎり財政健全化目標は達成できることを、内閣府は合わせて示した。

インフレで名目GDP上振れの一方、歳出も増

そもそも、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、同じ中長期試算の前回の試算(2023年7月)では、1.3兆円の赤字だった。それと比べると、0.2兆円収支が改善している。

中長期試算には、その改善要因についても示されている。

まず、歳入面では、2023年7月試算よりも名目GDP成長率が上振れると見込まれるため、2025年度の収支が試算上0.7兆円改善するという。他方、歳出面では、2024年度予算(案)で取り組まれた歳出効率化努力により、0.7兆円の収支改善効果が2025年度にも作用すると見込んでいる。

2023年度7月試算では、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.3兆円の赤字であったが、名目GDP成長率の上振れ分と2024年度予算での歳出効率化努力で合わせて1.4兆円の収支改善効果が期待できる。

となると、これだけで2025年度の国と地方の基礎的財政収支は「0.1兆円の黒字」という試算が、2024年1月試算として出てもおかしくなかった。

しかし、2025年度の財政収支に与える効果はこれだけではなかった。

2024年1月試算では、2025年度の物価上昇率が2023年7月試算より高いと予測することから、それに伴い歳出規模が増えることを織り込むと収支を0.2兆円悪化させることになる。

加えて、2023年11月に策定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」等の支出が2025年度にも食い込むことなどの影響で、2023年7月試算で見込んでいたよりも歳出が1.0兆円増えることとなるという。これらは、収支の悪化要因となる。

これら2つの要因を合わせて1.2兆円の収支悪化を、2024年1月試算では反映している。

以上より、2024年1月試算では、前掲の通り、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.1兆円の赤字となるという見通しを示した。ちなみに、この基礎的財政収支の赤字の額は、2025年度の名目成長率が1.7%とより低いベースラインケースでは2.6兆円となる。

確かに、成長率に関する見通しは、成長実現ケースのほうがベースラインケースよりも楽観的ではあるが、2025年度の財政健全化目標に影響を与える差異は、2025年度その年の成長率だけだから、両ケースの成長率の見通しの違いが目標達成の成否に大きく影響を与えるというわけではない。

このように、内閣府は、財政収支の試算の背景を分析している。これは、今後の政策的含意を考えるうえで極めて重要な情報となる。

後年度に財政支出が「漏れ出る」元凶

将来の財政収支に対して、足元の歳出効率化努力が、収支改善要因となる一方、節度なく経済対策を講じて歳出を膨らませれば収支悪化要因となる。特に、近年の経済対策は、悪化要因として後に尾を引くという質の悪いものとなっている。

2023年11月に策定された総合経済対策は、即効性を考えれば2023年度や2024年度に効果が出るように財政支出をすべきものだろう。しかし、内閣府の試算は、足元で講じたはずの経済対策に伴う財政支出が、後に尾を引く形で2025年度にも「漏れ出る」ような構造であることを浮き彫りにした。

なぜ即効性を期待したい経済対策なのに、策定されてから翌々年度になるようなほど財政支出が遅れて出てくるのか。

その元凶の一端は、「基金」にある。

「基金」は、2023年11月に行われた行政改革推進会議の秋のレビューでも取り上げられ、その実態に批判が集中し、議論の結果を受けて「基金の見直し・点検の横断的な方針」を定めることとした。目的があいまいなまま、補正予算を中心に元手となるお金だけを基金として先取りして貯め込み、それを後年度に都合よく支出しようとする様が問題となった。

約150にものぼる基金の残高は総額で、2022年度末で約16.6兆円、2023年度末でも約12.7兆円に達する見込みである。これらの基金をいついくら執行するかは、基金設置法人およびその所管省庁の判断に委ねられており、財務省は拒否権を持つような形で直接コントロールできない。

この12.7兆円もの基金残高が、いついくら執行されるかによって、2025年度の財政健全化目標の達成に影響を与えうる。

確かに、基金を造成した際の支出は、当該年度の決算段階では支出済みとなっている。しかし、それは国の会計から基金設置法人へ繰り出されたまでであって、すぐさま執行しなければ、その基金設置法人に貯め込まれたままとなっている。

問題は、基礎的財政収支の計算上、その基金から支出されたときにどうなるかである。

国や地方自治体の基金が支出すれば収支に計上

まず、基金設置法人が、一般財団法人など民間団体になっている場合は、本稿で焦点を当てている国と地方の基礎的財政収支の対象外となっている。だから、その場合は、基金に貯め込まれている資金を支出していなくても、すでに国の会計から民間団体である基金設置法人へ繰り出された段階で、国と地方の基礎的財政収支の悪化要因(財政支出として計上)となり、以後はそこから先へ、いつ、いくら支出されても無関係となる。

しかし、基金設置法人が独立行政法人など国や地方自治体の機関である場合、国と地方の基礎的財政収支の対象となり、基金設置法人から支出された段階での基礎的財政収支の悪化要因(財政支出として計上)となる。これが、本稿で問題視しているものである。

基金を造成した段階で資金を支出したかのように見えて、国と地方の基礎的財政収支の定義上(これは、GDPなどの統計の基となる国民経済計算体系の定義に即している)は、会計・勘定間の振替のようなものにすぎず財政支出とはみなされない。

そして、独立行政法人など国や地方自治体の機関が基金設置法人であると、その法人から資金が支出された年度に、その支出が基礎的財政収支を悪化させるのだ。

それがよりにもよって2025年度だったらどうなるか。

元をたどれば、基金を造成したのが2023年度以前であるにもかかわらず、つまり、まさか2025年度の財政健全化目標の達成を阻むつもりで基金を造成したわけではなかったにもかかわらず、その基金にある資金を2025年度に支出してしまうと、前述した内閣府の分析にはまだ織り込まれていない形で、「国と地方の基礎的財政収支黒字化」という目標達成を妨げることになる。

もちろん、その基金からの支出が、わが国の経済成長を促すものならまだよい。しかし、成長力を強化することに大して役に立たず、既得権益を保護するだけのために基金から支出するということなら、わが国の経済成長にも財政収支にも、百害あって一利なしである。そんな基金からの支出は、せめて2025年度には禁止すべきである。

加えて問題視しなければならないのが、2024年度補正予算である。政府は、これから2024年度当初予算案を国会に諮ろうとしているから、もちろんまだ姿も形もない。さらに、2025年度に補正予算で財政支出を大幅に増やすとなると、2025年度の財政収支を悪化させるから、これも当然問題である。

では、なぜ2024年度補正予算も問題視するのか。

「繰り越し」前提の補正予算

それは、近年の補正予算は、大半を翌年度に繰り越すことを前提とする形で歳出が計上されているからである。

第2次安倍晋三内閣以降、「15カ月予算」が常態化している。つまり、当該年度が残り3カ月となった12月末に、新年度予算の12カ月だけでなく、当該年度の補正予算も、事実上セットで編成するという政策方針である。

しかし、残り3カ月で何兆円もの追加の支出を使い切れるはずはない。だから、残り3カ月ほどになった時点で編成する補正予算は、翌年度に繰り越して支出することをほぼ前提にしたものといってよい。

すると、2024年度補正予算で計上された支出を、翌年度、つまり2025年度に繰り越して支出するとどうなるか。

それは、文字通り、2025年度の財政支出を増やして、2025年度の基礎的財政収支を悪化させる。だから、2025年度の補正予算だけでなく、2024年度の補正予算までも、視野に入れて2025年度の基礎的財政収支がどうなるかを見極めなければならない。

結局は基金に貯め込むだけで、民間に対して支出するわけではないような歳出を、わざわざ2024年度に追加して出す必要はない。

消費税率が10%に引き上げられて以降、わが国の税収は、幸いにして好調である。2024年の所得税の定額減税は1年限りとし、無駄な財政支出を過剰に増やさなければ、そして引き続き歳出効率化努力を進めれば、2025年度の基礎的財政収支黒字化は達成可能である。それには、苛烈な緊縮財政など不要である。

わが国において基礎的財政収支の黒字化は、2011年度を目標としたがリーマンショックで頓挫し、改めて2020年度を目標としたが消費税収の使途変更で達成年次を延期して、今に至っている。延期される度に、政策路線の不毛な対立を助長してきた。

2025年度は努力すれば実現できるところまで来ている。過剰な財政支出で物価高をあおらないようにしつつ、基礎的財政収支黒字化目標を一度は達成することが肝要だ。

土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授

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