1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

12人ケガ「犬にかまれる事故」年5000件発生の怖さ 「うちの子は大丈夫」という過信は捨てること

東洋経済オンライン / 2024年2月12日 15時30分

年間5000件ほどある、犬の咬傷事故についてペットジャーナリストの筆者が解説します(写真:YAMATO/PIXTA)

2月7日、群馬県伊勢崎市の公園で、子どもから大人まで合わせて12人が次々に犬に襲われ、ケガをするという咬傷(こうしょう)事故が起こりました。

【図版で見る】「特定犬」の飼い方について伝える茨城県生活衛生課動物愛護担当(Xより)

報道によると、咬んだ犬は2歳の四国犬で、体高約60センチ、体長約130センチのオス。あたりかまわず襲いまわっていたと見られ、人ばかりでなく小型犬も襲われたとされています。

犬は、駆けつけた動物愛護センターの職員に路上で確保されました。

取材を受けた飼い主の言い分

報道では、取材を受けた飼い主は「(自宅の)塀も高いし、絶対逃げ出せない状態だと思っていた」「なつっこい犬で、人間に対して咬むということはありえない」と話しています。

しかし、飼っている7匹のうち3匹の狂犬病予防接種・登録は10年前、あとの4匹は接種も登録もなされていない状態だったという報道もあり、飼育管理がずさんだった可能性も否めません。

犬は、約1万2000年前から人間とともに暮らしてきた素晴らしいパートナーです。しかし、残念ながら犬による咬傷事故もたびたび起こっており、今回の事故のように飼い主の過信から起きた事故も少なくありません。

環境省の統計資料「動物愛護管理行政事務提要(令和5年度版)」によると、2022年度の犬による咬傷事故は年間4923件あり、そのうち公共の場での発生が3019件でした。実際にはもっと多くの事故が起きていることが予想されます。」

「四国犬」とはどんな犬か?

四国犬は、四国地方に古くからいる歴史のある犬で、日本の土着犬として1937年に国の天然記念物に指定されています。

四国犬を飼っていたことがあるという滋賀県のSさんは、「オオカミによく似ている野性味あふれる犬。飼い主に忠実で、勇敢な性格。群れ(飼い主)やテリトリーを守る傾向が強く、知らない人は苦手」と話します。

Sさんによると、警戒心や闘争心から攻撃的になることがあるため、散歩の際には、他の人や犬との接触に十分注意し、飼い主がしっかりとコントロールしなければならないとのことで、「事故を起こした犬は、四国犬の標準的な大きさよりもかなり大きい。襲われた人はかなりの恐怖を感じたのではないか」と言います。

現在、日本では県や市の条例で、人に危害を加える恐れがある犬や、咬傷事故を起こすと重大な問題になる可能性がある犬などを「特定犬」と定めています。札幌市、茨城県、水戸市、佐賀県が「特定犬」制度を導入していて、飼育には遵守事項が設けられています。

例えば、茨城県の遵守事項には、犬が脱走しないようにオリ(上下四方が囲まれている・十分な強度を持っている・人に危害を加えられない構造になっている)の中で飼育することや、見やすい場所に特定犬の標識を貼ることなどが明記されています。

「特定犬」の飼い主は、一般的な小型犬や中型犬よりも高い管理能力や危機意識が求められます。今回の事故でも犬の大きさや犬種の特性、必要な飼育環境を考慮し、脱走しないようにしっかりと飼育管理する必要があったといえるでしょう。

犬の咬傷事故で命を落とす例も

咬傷事故では、咬傷の部位・程度、事故の状態、かんだ犬の犬種・年齢・性格、被害者の性別、年齢などによっては、重大かつ深刻なものになります。一生消えない傷が残ったり、手足の神経を切断することになったり、最悪の場合、命を落としてしまうケースもあります。

具体的なケースをいくつか挙げてみます。

【ケース1】2017年3月、東京都八王子市の男性宅で、飼われていたゴールデンレトリバーが、男性宅に訪れた生後10カ月の女児に噛み付いた。救急隊が到着したときには、女児は頭から血を流していた状態で、病院へ搬送されたが、約2時間後に死亡が確認された(2019年2月2日の朝日新聞デジタルから)。

【ケース2】2020年3月、富山県富山市の住宅の庭で、生後11カ月の男児がグレートデン2匹に頭をかまれた。病院に運ばれたが、出血性ショックで約2時間後に死亡した。男児は50代の祖父に抱かれた状態で、突然かまれた。犬を押さえようとした祖父も両足にケガをした。犬は、庭で放し飼いにしていた(2020年3月21日の日本経済新聞から)。

【ケース3】2020年5月、千葉県銚子市で飼われていたピットブルが逃げ出し、近所の女性がかまれて全治40日の大ケガを負った。女性が抱いていたトイ・プードルもかまれて死亡した(2020年7月7日のexciteニュースから)。

筆者の知り合いのAさんも2015年にロットワイラーに襲われて、顔を30針以上縫う大ケガを負いました。右目の下から唇までざっくりと裂け、涙腺も噛み切られました。何度も形成手術を繰り返しましたが、完治はしませんでした。Aさんが負った心身の傷は大きく、9年経った今でも、その後遺症に悩まされています。

民法第718条によると、ペットが第三者に損害を負わせた場合、原則として飼い主がその損害を賠償する責任を負います。「相当の注意」をもってペットの管理をしていたことを飼い主が証明できなければ、飼い主はペットの管理に関しての厳しい責任を問われます。

当事者間で円満に解決することはかなり難しく、訴訟で激しく争われる場合も少なくありません。数千万円の賠償が求められる重大事故では、被害者だけでなく、飼い主の人生も変わってしまうのです。

事故の大きさによっては、愛犬を殺処分せざるを得ない状況になることもあります。咬傷事故は皆が不幸になることを、肝に銘じる必要があります。

「うちの子は大丈夫」と過信しない

前述したように、被害者に過失がない限り「自分の責任ではない。犬が勝手にしたことだ」は通用しません。飼い主は「逃げ出す可能性」「襲ってしまう可能性」を考えて、できる限りの対策をしておく必要があります。

筆者も苦い経験がいくつかあります。

例えば、1.2メートルの高さのサークル(屋根なし)に体長48センチの愛犬(ウイペット)を入れて出かけたところ、帰宅したらサークルの外で遊んでいたことがありました。

設置していたカメラで確認すると、柵と柵のつなぎ目の金具に足をかけて出ていました。出られるはずがないと思っていたので、その行動に驚きました。

また、愛犬(ボルゾイ、体長80センチ)を庭で遊ばせていたところ、目を離したすきに1.4メートルの柵を飛び超えて、道路に飛び出したことがありました。道路には車も歩行者もいなかったので事なきを得ましたが、冷や汗をかきました。

知人宅の愛犬(ボーダーコリー)は屋外の木製のサークル(屋根付)の扉をかじって脱走。別の知人宅の愛犬(ボルゾイ)3匹は、自宅駐車場の自動開閉ボタンを押して、シャッターを開けて脱走したそうです。警察が出動する騒ぎになったと聞きました。

犬が脱走する理由はさまざま

犬が脱走する理由には、獲物を見つけると追いかける習性、好奇心、運動不足などによるストレス、大きな音によるパニックなどが考えられ、「よじ登る」「飛び越える」「掘る」「かじる」など、さまざまな方法を駆使して、脱走を試みる可能性があります。

まずは、飼育環境を見直して、脱走のリスクを減らさなければなりません。また、散歩中も首輪が抜けないように、ハーネスと併用するなど注意が必要です。

そして、脱走したときには「待て」「ストップ」の指示や、「おいで」「戻れ」などの呼び戻しの指示に従うように、しつけを徹底することも大切です。

どんな犬にも牙があります。その牙が人を咬むことに使わせないためには、飼い主がきちんと管理しなければなりません。

犬を飼う限り、咬傷事故は他人事ではありません。「うちの子は大丈夫」という過信はすぐに捨てたほうがよいでしょう。

飼い主に求められるのは「うちの子にも起こりうること」という危機意識を持ちながら、しっかりと飼育管理する。それができて初めて愛犬家といえるのではないでしょうか。

阪根 美果:ペットジャーナリスト

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください