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「過疎ビジネス」にすがった福島・国見町の過ち コンサル丸投げ自治体が陥ったガバナンス不全

東洋経済オンライン / 2024年2月15日 8時0分

『河北新報』が入手した国見町の内部文書には、車体の室内寸法などを仕様書で細かく指定することで他社を「排除したい」との記述もあった。ワンテーブルが提案した「出来レース」に、町がもろ手で乗っかった形跡が見てとれる。
 
国見町とワンテーブルの対応は公正な入札を妨げた疑いがあり、発注者の関与を取り締まる官製談合防止法などに触れる可能性がある。

責任逃れに終始

証人喚問でワンテーブル前社長は、ベルリング作成の参考仕様書を国見町に提供した事実を認めたうえで「検討材料として提供しただけだ」と釈明。あくまで「最終的な決定権は町側にある」と繰り返し強調した。

これに対し、国見町は責任逃れに終始する。

国見町は2023年3月末に救急車事業を急きょ中止した。引地真町長はその理由について、河北新報が2023年3月21日付で「『行政機能ぶん取る』自治体連携巡りワンテーブル社長発言 録音データで判明」と報じたことで「信頼関係が失われた」からだと説明する。一貫して「町に非はない」とのスタンスを崩さない。

百条委では、国見町が企業側と交わしたメールや提供資料などの行政文書を片っ端から廃棄していた事実が判明した。2023年12月の証人喚問で事業の担当職員やその上司は「不要と思い消去した」と図ったように口を揃え、たった1年前の町の一大事業なのに「詳しくは記憶にない」という。コンプライアンス意識が根本から崩れ、さながら「限界役場」ともいえるガバナンス不全だ。
 
どうしてこうなったのか、問題の根は深い。その病理は、皮肉にも国の「地方創生」の号令を機に進んだのかもしれない。

2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、国は人口減少や東京一極集中に歯止めをかけようと、すべての自治体に地方版総合戦略の早期策定を求めた。努力義務とはいえ、戦略を策定して国の認可を得れば交付金がもらえる。その結果、自治体職員は慣れない作業を強いられることになった。

地方自治総合研究所(東京)が2017年に全国の1741市町村を対象に行った調査では、回答を得た1342自治体のうち実に77.3%が地方版総合戦略の策定をコンサルタントに委託していた。外部委託に使える交付金を国がわざわざ用意したことも「外注」を助長した一因とみられる。

地方創生の取り組みで他自治体が先行すれば「うちはやらなくていいのか」と焦り、安易に追随する。補助金や交付金の獲得が目的化し、成功事例の引き回しや民意に添わない施策が横行する。
 
2016年に始まった企業版ふるさと納税は、内閣府の地方創生推進事務局が所管する制度だ。国見町の救急車事業も、元はと言えば地方創生の一環だった。
 
ワンテーブルは国の制度を巧みに利用して「過疎ビジネス」を仕掛けた。どんなに小さな自治体でも、年間の予算は国からの交付金や補助金で数十億円規模になるからだ。
 
施策のアウトソーシングを持ちかけ、公金を吸い上げる。大きな自治体は避け、国見町のような手なずけやすい小さな自治体を狙い打ちにした。国見町は自分たちで地域の課題解決を考えることを放棄し、ワンテーブルに全てを丸投げした。

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